今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、The Who(ザ・フー)の『With Orchestra Live At Wembley』。
プログレで、テクノで、クラシック、音楽のすべてを融合したロック
2020年代にこのバンドの新しいライヴアルバムを聴けるとは思わなかった。1964年にデビューしたザ・フーが、2019年7月に9万人収容できるロンドンのウェンブリー・スタジアムで行ったショーの音源をリリース。『四重人格』『フーズ・ネクスト』『フー・アー・ユー』など’70年代の名盤から、2019年の『WHO』の楽曲まで20曲を収録している。
ザ・フーはハードロックで、パンクで、プログレで、テクノで、クラシック。このツアーはオーケストラと共演し、音楽で壮大な物語を描く。同じツアーのニューヨーク公演をエンタテインメントの殿堂、マディソン・スクエア・ガーデンで観た。客席は2万人のフルハウス。ザ・フーが街を訪れ、マンハッタン全体が熱気を帯びていた。
代表曲のひとつ「ババ・オライリィ」は、個人情報をプログラミングした音で始まるプログレッシブなナンバー。ザ・フーは’71年にすでにテクノを取り入れていた。曲の骨格や挑戦する精神はガチのロック。弦楽器や管楽器で厚みを増し、説得力も増す。エンディングはケルト音楽のテイストのバイオリンソロで、テンションが上がっていく。
ザ・フーにはロックの持つすべてがある。
Kazunori Kodate
音楽ライター。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』『25人の偉大なジャズメンが語る名言・名盤・名演奏』など著書多数。2023年7月20日に『不道徳ロック講座』(新潮新書)を出版予定。