今回のテーマは韓国のジェンダーレス事情。それを皮切りに、ビジネスパーソンがキャッチアップしておくべき、個性を表に出して生きる時代の流れについて検証していく。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
男女間の葛藤や嫌悪感が激しい韓国での新たなムーブメント
最近、Netflixで配信されている時代劇ドラマ『シュルプ』のとあるエピソードが、大きな話題を呼んだ。
ドラマの概要を簡単に紹介すると、約500年前の朝鮮王朝を舞台にした架空の話。女優キム・ヘス扮する主人公の王妃が、期待を寄せていた4番目の王子に女装の趣味があることを知り、強いショックを受けることから、物語は動き出す。
だが、彼女は息子が自分のジェンダーアイデンティティを「受け入れざるを得なかった時」の心中を推し量り、受容することに。さらには、娘が生まれたら譲るつもりだった母の形見であるかんざしを渡してこう言うのだ。
「初めて知った時、私は途方に暮れた。だが、腹は立たなかった。お前がどんな姿であれ、私の子だ」
今よりもLGBTQに対する理解が極めて乏しかった時代だからこそ、主人公の偉大なる母性愛が深い感動を与えたエピソードだった。韓国ドラマにLGBTQキャラクターが出てくるのも今では珍しくなくなったが、いよいよ時代劇でも全面に出される日が来たかという気持ちを、多くの人が抱いたようで、それが前述のように韓国で話題になったわけだ。
個人的にさらに注目したいのは、韓国エンタメ界でLGBTQフレンドリーはもとより、ジェンダーレスの動きが広がりつつあることだ。
一例として挙げられるのは、Netflixシリーズ『イカゲーム』の主演俳優イ・ジョンジェ。2022年の夏、彼が自身の監督デビュー映画『HUNT』の宣伝でテレビに出演した時、パステルピンク色のジャケットに大粒パールのネックレスを合わせたことが話題沸騰だった。
というのも、パールネックレスといえば、どうしても女性のものという認識が強いアイテム。韓国の男性俳優のなかでパールネックレスを着用して公の場に現れた人はおらず、イ・ジョンジェが先駆者となったわけだ。
その破格のコーディネートについては様々な憶測が飛び交ったが、所属事務所が明かしたところによると、「スタイリストの提案をイ・ジョンジェが快く受け入れ、新しいチャレンジを楽しんだ。広告の商品などではなかった」という。
そんなイ・ジョンジェにインスパイアされたのか、その数日後に行われた韓国プロバスケの開幕記者会見では、前年度年間MVPのチェ・ジュンヨン(ソウルSKナイツ所属)も“パール男子”として登場。記者からパールネックレスについて質問されると「開幕記者会見の雰囲気がいつも重たいので、ドレスコードを自由にしてほしい」とアピールした。
イ・ジョンジェがグローバルアンバサダーを務めるグッチはもちろん、シャネルやセリーヌなど、ハイブランドでは数年前からジェンダーの境界線を超越したアイテムが続々登場しており、ジェンダーレスファッションの流行を加速させている。
韓国の芸能界でも、BTSのVが真珠のピアスやネックレスを着用したり、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』に主演したイ・ジウン(=IU)がネクタイまで締めたスーツ姿を披露したりといった具合に、流行を喜んで迎え入れている雰囲気だ。
2016年に起きた「ソウル江南トイレ殺人事件」や「#MeToo運動」などからも分かるように、男女間の葛藤や嫌悪感が日本よりも激しく表出される韓国ゆえに、このムーブメントは非常に興味深い。ジェンダーレスに限らず、骨格スタイルやパーソナルカラー、MBTI診断などが流行っているのは、もはやジェンダーの枠を超え、個性や魅力を最大限に引き出して生きることが主流の時代であることの裏返してともいえるだろう。そして、それはビジネスシーンにおいても、常に意識しなければいけないことになってきている。
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■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。