今回は2022年10月21日公開の『アフター・ヤン』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
AIに感情は芽生えるのか? それとも人間がつくり出した錯覚なのか?
2022年の上半期、滝藤は『家電侍』というBSドラマで未来から時空を超えて送られてきたタブレット端末「カージー殿」を拾ったことで人生が変わる貧乏侍を演じました。
カージー殿と過ごした日々は奇妙奇天烈でありながら、とても楽しい時間だったこともあり、最終回の別れのシーンは、何度台本を読んでも涙がポロポロこぼれました。感情のないモノと向き合っているのに胸が熱くなる。不思議です。相手に感情があると錯覚してしまうのか……。はたまた本当に感情が宿ったのか……。何はともあれ、『家電侍』は皆様のおかげで正月スペシャルが決まり、先月無事に撮影を終えたのであります。お正月に会えるのを楽しみにしております!って『家電侍』の宣伝をしてしまった。ゲーテさん申し訳ありません……。
今号はAI(人工知能)との共存の時代を描いたコゴナダ監督の映画『アフター・ヤン』。時代背景は多分ちょっと先の未来。“テクノ”と呼ばれる人型ロボットが、一般家庭に普及している。
コリン・ファレルが演じる主人公ジェイクの一家にもヤンというアジア系のテクノがいて、養女のミカは本当の兄のように懐いている。ミカが友達から酷いことを言われ、落ちこんでいる時はヤンがいつもそばにいて、ミカの心の支えとなる。
AIは常にアップデートされ、よりよい方法を見いだし、的確なアドバイスをしてくれる。かたや人間は学習せず同じことの繰り返し。毎回同じことで夫婦喧嘩(笑)、デジャブか! 身につまされます……。私もヤンのように妻や子供と接することができればと一瞬思いましたが、そこまで悟りを開くにはまだ何十年もかかりそうなので、誰か頼む! ヤンのようなAIを早く作ってくれ! 即行買います! だって子供って親の言うことはまったく聞かないのに他人の言うことは聞くんだもの! あ、また本筋から外れた……。
子育て相談はさておき、京都大学の西田豊明名誉教授は「AIは心をもつメカ」と定義しているそうです。心を持たない人間にならないように気をつけたいところです。
『アフター・ヤン』
2021/アメリカ
監督:コゴナダ
出演:コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジャスティン・H ・ミンほか
配給:キノフィルムズ
2022年10月21日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
アレクサンダー・ワインスタインの短編『Saying Goodbye to Yang』を映画化。人型ロボット“テクノ”がベビーシッターを務める近未来、ジェイクの家のヤンというテクノが動かなくなる。ジェイクは解決策を探すが、人と機械の違いに境界線を見いだせなくなり……。坂本龍一が映画音楽を手がけている。
Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。来年1月13日に初主演映画『ひみつのなっちゃん。』が公開予定。また3月19日からドラマ『グレースの履歴』がスタート。尾野真千子さんと夫婦役で共演する。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!