俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。この年末年始に、あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、家族のカタチ邦画編。
『喜劇 愛妻物語』
ダメな夫と鬼嫁の笑えて泣ける珍道中
最初、タイトルを見て、ん? 『愛妻物語』って新藤兼人監督のリメイクかな? でも、枕詞に喜劇とあるな。まんまだとアレだからアレしたのか? と半信半疑のまま、なんとなく観始めたら、冒頭からセックスレスあるあるで腹を抱えて笑う面白さ。あまりにリアルな夫婦の会話に「バカやめろ!」「うわ、これわかるわぁ」と、思わず声を出しながら観ていました。
濱田 岳さんと水川あさみさんが喜劇を繰り広げる夫婦もので、年収50万円の売れない脚本家の夫に対する妻の不平不満が止まらない。というか、全編通して罵詈雑言の嵐。それも神髄を突いていて、夫の心臓をぶち抜きすぎる指摘の雨あられ。
夫に問題があるとはいえ、あそこまで罵倒されたら私、メンタルやられるだろうなぁ……。どこまで落ちぶれたら妻をそこまでブチ切れさすことができるのか? それにしても水川さんの芝居が凄まじい(笑)。彼女の突発的に発せられる叫びに爆笑必至。ご本人は新婚さんなのにこの芝居、ノリに乗ってるなぁ(笑)。このご時世、見るに堪えない夫のだらしなさも水川さんの振り切った演技に愛おしくさえなってくる――。
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『母さんがどんなに僕を嫌いでも』
親として子供とどう向き合うか?
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』。吉田 羊さんが、長男への暴言・暴力が止まらない母親役を演じ、新たな魅力が炸裂しております。
しかし、この光景、我が身に置き換えてみると――。
仕事の電話中、子供に「パパ! パパ!」と呼ばれ続け、「今、仕事の話してるからちょっと待ってね」→「今、仕事の電話してるでしょ」→「静かにして、大事な話だから」→「うるさい!」。
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『おいしい家族』
家族のカタチに正解なんてない、きっと……。
滝藤、役者としてキャリアを積み上げてきた自負はあります。しかし、演技とは奥が深いもので、本業の俳優を吹き飛ばす勢いでスクリーンを支配するタイプの方がごくたまにいます。
ミュージシャンの浜野謙太さん、通称ハマケンがそのひとり。思いついたことを組み立てる訳でもなく、瞬間的に本能のままぶつけてくるので、ジャズのセッションのごとくアドリブとアドリブの応酬となり、演じていて実に楽しい。監督がそれでよしとするかどうかは置いておいて、芝居ってこういうことでいいのかなと思わされてしまうほど、不思議な感覚にさせられてしまう。稀有な存在です。
まぁ、彼のことはこの辺にしておいて、この『おいしい家族』、しなやかな感性で示される新しい家族の形に、ふくだももこ監督のセンスが光りまくっております。
この作品は、銀座の化粧品売り場で働くヒロイン(松本穂香)が、母親の三回忌のため離島の実家に戻ったら、お父さんがお母さんに変わっていたという一見ぶっ飛んだ話――。
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『幼な子われらに生まれ』
父親役の浅野忠信さんの壊れゆく様が抜群です。同じ父親として強烈に響きました。浅野さん演じる信(まこと)は、再婚して穏やかな家庭を築いてきたのに、妻の妊娠がきっかけで、妻の12歳の連れ子が露骨に反抗する。同じ部屋にいるだけで嫌、あげく「あんたなんて本当のパパじゃない。本当のパパに会わせて」と忌み嫌う始末(泣)。これはもう、ある意味背筋の凍るホラーですよ。私にも娘がいますから、数年後に似たようなことが自分の身に降りかかってくるかと思うと、何とも恐ろしい。しかも私は4人子供がいますから……。それまでに”反抗期も楽しみのひとつ、子供が大人になる過程”と懐深く受け止められる男になれていればいいのですが――。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。