役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
感情に身を任せずその先にあるものを見る
父親役の浅野忠信さんの壊れゆく様が抜群です。同じ父親として強烈に響きました。浅野さん演じる信(まこと)は、再婚して穏やかな家庭を築いてきたのに、妻の妊娠がきっかけで、妻の12歳の連れ子が露骨に反抗する。同じ部屋にいるだけで嫌、あげく「あんたなんて本当のパパじゃない。本当のパパに会わせて」と忌み嫌う始末(泣)。これはもう、ある意味背筋の凍るホラーですよ。私にも娘がいますから、数年後に似たようなことが自分の身に降りかかってくるかと思うと、何とも恐ろしい。しかも私は4人子供がいますから......。それまでに"反抗期も楽しみのひとつ、子供が大人になる過程"と懐深く受け止められる男になれていればいいのですが......。
そして、田中麗奈さん演じる妻がまた、いい具合に面倒くさい。家族の厄介事に気づいていない単なる鈍感な女性なのか、気づいているからこそ敢えて知らぬふりを装って家族の調和を保とうとしているのか。家庭はちゃんと守っているけど、経済的・精神的にはどっぷり夫に依存して重い、という妻を絶妙な塩梅で演じていらっしゃいます。
21年前に書かれた原作では信のストレスの発散先としてSMの女王様がいたようですが、映画ではいっさい、逃避先がない。娘の膨れ上がる反抗にも、手を上げず、ひたすら我慢させる演出。すんでのところで踏みとどまる信の選択は、映画を観終わった後、やはり正しかったのだと思わせてくれる。またひとつ、親の在り方を教えてくれる映画を発見いたしました。
2017年/日本
監督:三島有紀子
出演:浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎 ほか
配給:ファントム・フィルム
8月26日よりテアトル新宿ほか全国公開