俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。この年末年始に、あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、心に刺さる邦画編①
『すばらしき世界』
私たちが作っている世界は果たして本当に素晴らしいものなのか
皆様、年末年始はゆっくりされたでしょうか?(2021年1月時点) 私の年末はひたすら掃除。年明けはダラダラしてエネルギーチャージしておりました。昨年は予想もしない厳しい一年で、知らず知らずのうちに心も身体も弱っていることと思います。今年は無理せず、スロースタートでのんびりやりましょう!
今年一発目は、映画『すばらしき世界』、主演は役所広司さん。俳優養成所「無名塾」の大先輩。役所さん2期生、私、滝藤22期生。『KAMIKAZE TAXI』『Shall we ダンス?』『うなぎ』……。役所さんに憧れて無名塾の門を叩いたと言っても過言ではありません。物語は役所さん演じる元殺人犯の三上が、13年の刑期を終え、旭川刑務所を出所するところから始まります――。
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『湯を沸かすほどの熱い愛』
『北の国から』の蛍以来の衝撃に心のダムは大決壊
オープニングから1カット1カット丁寧に演出し、大切に撮られている。中野監督の愛を感じる作品。
中野さんが描く登場人物は毎回、全員愛らしく愛おしいんです。今回もそれは徹底されている。そして、中野さんは、現実から逃げることを許さない。どんなに苦しかろうが、無様であろうが、生きていかなければならない。そこに美学を持っていると思う。
本作の脚本を読ませていただく機会があったのですが、中野さんが書くオリジナルの脚本は、笑えて泣けて、めちゃくちゃ面白い! だから俳優には多くの選択肢が生まれ、逆に苦しむことになります。私も以前、中野さんにダメ出しされたことがありますよ。「滝藤さん、ちゃんと本読みました? 僕そういう風に書いていませんよね?」。作品に入った時の中野量太は普段の穏やかさは消え、まるで別人。とにかく粘って諦めない――。
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『恋人たち』
リアルとは違う"生すぎる"人間の見せ方
先日、熟年のご婦人と映画談義をしていると、「私の年齢になると映画で癒やされたいなんて思わない。むしろ、身をえぐられる想いを味わいたいわ、ウフフ」と意味深な微笑みをされました。「なら僕がお手伝いを……」の言葉を飲みこんだ滝藤です。
というわけで、映画の鑑識眼も感受性も高く、ハードな内容もお手の物な女性と行くのならこれしかない。橋口亮輔監督の『恋人たち』です。
3人のメインキャラクターは橋口監督がワークショップで見いだしたそうで、プロの俳優とそうではない人の狭間にいて、その演技は実に生っぽい。生すぎるといってもいい。でも、リアルとは何か違う気がする――。
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『永い言い訳』
ぞっとするほどに心の痛点を的確に刺してくる
事故で妻を失ったのに、一滴も涙が出ない夫。考えたくもありませんが、僕なら大号泣で、大変なことになるでしょう。それくらい僕にとっては遠い存在の主人公でした。だけど、簡単な言葉で形容できない夫婦の関係を描いているからこそ、深い余韻があります。数少ないシーンで強烈なインパクトを残す妻役の深津絵里さんですが、映画を観終わって何週間も経つのに、彼女の静かに夫を射すくめる目、存在が脳裏に焼きつき、「奥さんにこんな風にそばにいられたらしんどいなあ」と戦慄(せんりつ)しています。しかし、本人にそんなつもりがあるのかないのか。夫婦の関係を何とか修復し、必死に保とうと足掻(あが)いているようにも見える。そんな深津さんのあまりに絶妙な芝居は、まさに職人芸。想像をかき立てられ、彼女のトラウマから逃れられない。もし現場でお会いすることができたら、その真意を聞いてみたい――。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。