役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介する連載「映画独り語り座74」。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!
私たちが作っている世界は果たして本当に素晴らしいものなのか
皆様、年末年始はゆっくりされたでしょうか? 私の年末はひたすら掃除。年明けはダラダラしてエネルギーチャージしておりました。昨年は予想もしない厳しい一年で、知らず知らずのうちに心も身体も弱っていることと思います。今年は無理せず、スロースタートでのんびりやりましょう!
今年一発目は、映画『すばらしき世界』、主演は役所広司さん。俳優養成所「無名塾」の大先輩。役所さん2期生、私、滝藤22期生。『KAMIKAZE TAXI』『Shall we ダンス?』『うなぎ』……。役所さんに憧れて無名塾の門を叩いたと言っても過言ではありません。物語は役所さん演じる元殺人犯の三上が、13年の刑期を終え、旭川刑務所を出所するところから始まります。
どの作品でもそうですが、役所広司という俳優はスクリーンに出てきた瞬間から目が離せない。リアルなのはもちろん、そこに遊び心が加わりどんなキャラクターを演じても説得力がすごい。今回も冒頭から刑務所内を移動する時が独特すぎる。なぜその歩き方? どういう発想からあれを選択したんだ! ご本人いわく、古株の受刑者だから昔ながらの流儀で歩いているとのこと。面白い! 西川美和監督はあの歩き方を見てどう思われたのだろう。めちゃくちゃ大きな声で話す、フル敬語も印象的。真実の声が出続けているからだろうか、行動も言動もその人物が本当にそうであるかのように信じこまされてしまう。『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホにも感じたが、匂いのある俳優。10年位、付き人をやらせてもらいたいくらいだ。
今までオリジナル作品を手がけてきた西川監督の初の原作ものです。佐木隆三さんの小説『身分帳』の内容を現代にアレンジしていますが、日本は一度道から外れると再挑戦に厳しい社会だなあと思わざるを得ない。なのになぜ、この題名なのか? 「私たちが作っている世界は本当に素晴らしいですか?」と監督の問いかけが聞こえてきそう。西川作品に外れなし! いやあ、正月からよき作品と出合いました。よーし、今年もやるぞー!! ゆっくりのんびりね。
『すばらしき世界』
人生の大半を刑務所で過ごした男が出所後、さまざまな人と出会ってはぶつかりながら仲を深め、再出発を目指す姿を描く感動作。原案は佐木隆三の『身分帳』(講談社文庫刊)。シカゴ国際映画祭で観客賞と役所広司の最優秀演技賞をW受賞した。
2021/日本
監督:西川美和
出演:役所広司、仲野太賀ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
2月11日より全国公開