世の中を救うのはヒーローではなく諦めない心を持つ人間
マーク・ラファロという名を知らない人も、『アベンジャーズ』のハルクと聞くと、「あの運命に抗えない悲しき男!」とピンとくるかと思います。
もともと舞台俳優で、廃墟に住むほどの貧乏時代に知り合った女性から「きっと売れる」と励まされ続けていたマーク。結婚後はハリウッドきっての愛妻家として知られるなど、「え、私と一緒! 滝藤のハリウッド版じゃないか!」と大共感しております。
今回紹介する『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』はマークが新聞で見つけた記事の映画化。自身でプロデューサーと主演を務め、公害を題材とした作品というのは、ジョニー・デップが報道写真家を演じた『MINAMATA』が記憶に新しいですね。俳優が企画・出演する作品が、ここ数年どんどん増えています。
物語はマークが演じる弁護士、ロブ・ビロットのもとに故郷の祖母の知人が訪ねてくるとこからか始まります。農場の牛190頭が死んだ背景に近隣の工場の廃棄物が影響している、と訴えますが、ロブの弁護士事務所は企業を護る側。依頼人を諦めさせるために仕方なく調査するうちに、世界的な化学メーカーのデュポンが発ガン性を持つ有害物質を40年近く垂れ流してきた現状が浮かび上がってくる。
前号で紹介した『モーリタニアン 黒塗りの記録』に続き、「たったひとりで巨大権力に立ち向かう弁護士」という話ですが、本作は輝かしいヒーロー物語ではない。何度も何度も打ちのめされ、あまりの重圧にロブの身体に異常が出てくる。追い討ちをかけるように、アン・ハサウェイ演じる妻が容赦なく「仕事ばかりで子供の世話をもう何年もしていない!」と一喝。くぅ……。一番理解してほしい人間にあんな態度をとられたら心が壊れるわ……。でも彼女の気持ちもめちゃくちゃわかるので観ていて辛い。世の男性陣にとってはなんとも耳が痛い話です。
1998年から始まったデュポンへの訴訟は今も続いていて、気が遠くなるほど長く、しんどい作業の連続。諦めない姿勢は現代の日本に最も必要だと感じさせられました。
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
2019/アメリカ
監督:トッド・ヘインズ
出演:マーク・ラファロ、アン・ハサウェイ、ティム・ロビンスほか
配給:キノフィルムズ
12月17日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開アメリカの大企業による環境汚染の実態を、ひとりの弁護士が調べて訴訟に踏みきった実話。環境保護の活動家でもあるマーク・ラファロが自ら主演・プロデュースした。監督は『キャロル』のトッド・ヘインズ。妻役にアン・ハサウェイ、上司役にティム・ロビンスなど実力派が揃う。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。スタイルブック『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』(主婦と生活社刊)が発売中。アニメ『かなしきデブ猫ちゃん』(NHK)は12/19より全国放送開始。