ポップスターであり、父親である。絶妙なバランス感と懐の広さ
僕は成長して父親になった。すべて変わったけれど、変わらないものもある――。
4年ぶりのアルバム『=(イコールズ)』の冒頭「Tides」で、エド・シーランはこう歌う。
新作は30歳になり一児の父となったエドの新たな一面が垣間見える1作だ。娘ライラが生まれた昨年8月から数ヵ月はギターも持たず、一時は音楽活動を引退し育児に専念することも考えたという。そこからカムバックしテーマにしたのは「仕事と家族の両立」。つまりポップスターとしての役割を背負いつつパーソナルな表現欲求を満たすということだ。
ダンサブルでセクシーな「Shivers」や「Bad Habits」といった先行シングル曲、きらびやかな’80年代シンセ・ポップ「Overpass Graffiti」など、アルバム前半はパーティ映えするアッパーなポップ・チューンを収録。一方で終盤は亡くなった友人に捧げた「Visiting Hours」や娘のために歌う穏やかな子守唄の「Sandman」など、より内向的な楽曲が並ぶ。
『+』『×』『÷』という3作に続き当初は『-』というタイトルの、シンプルでアコースティックな作風のアルバムを計画していたという。『=』が象徴するのは結果的にたどりついたその絶妙なバランス感覚と言える。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。新刊『平成のヒット曲』、著書に『ヒットの崩壊』などがある。