4月2日全国公開の映画『ゾッキ』でメガホンをとったのは竹中直人、山田孝之、齊藤 工というエンタメ界きっての異才たち。共同監督という大勝負に挑んだ3人の想いとは!?
エンタメ界の勝負師たちが挑んだ“新しいカタチ”
人気漫画家・大橋裕之氏の短編集が原作の映画『ゾッキ』。原作に惚れこんだ竹中直人氏が山田孝之氏、齊藤 工氏に声をかけ、共同で監督した異色作だ。しかも、山田氏はこれが映画初監督。奇跡のコラボレーションはどのように生まれたのだろうか。
竹中 『ゾッキ』は短編集なので最初はオムニバスで撮るつもりでした。でも、俺ひとりで各エピソードを監督したんじゃちょっと色気がない。そう思った時に孝之と工の顔がガツンと頭に浮かんできたんです。
齊藤 竹中さんに「話がある」と呼ばれて行ってみたら、このプロジェクトの根幹になる方々が勢揃いしていたんですよね。3年くらい前だったかな。
竹中 何としても映画にしたかったんだよね。映画作りは僕の夢だし。でも、いくら企画を出しても通らないことも多い。この『ゾッキ』は、ふたりの力を借りて絶対形にしたいと思った。
齊藤 僕は、異種格闘技みたいな人たちが集まっているだけで好奇心が湧きました。自分の役割を告げられる前に、「ここにいる人たちと一緒に仕事ができるのか!」とワクワクしたのを鮮明に覚えています。
竹中 工とは共演が続いていたから声をかけやすかったけど、孝之とは何年も会っていなかったからね。俺らふたりと親交がある(安藤)政信に頼んで声をかけてもらった。
山田 最初断るつもりだったんですよ。原作を読んで絶対携わりたいとは思ったけど、プロデューサーならともかく監督はどうかなと。そしたら竹中さんが「大丈夫!」って(笑)。もっとも経験があったとしても、スタッフさんや俳優さんの力を借りないと成り立たない。ならば、皆さんに全部助けてもらうつもりでやらせていただこうと。
竹中 受けてもらえるかどうか本当にドキドキしたよ。
山田 断ろうと思ってましたから(笑)。でもやってみたら、大変なことも多いけど、その分喜びも大きくて。思い返すと、ただただ幸せな時間でした。
齊藤 僕も楽しかった記憶しかないです。
竹中 スタッフも俳優も、集まってくれた人みんな素晴らしくて。本当にいいチームだった。
価値観や感覚が融合し、信頼に満ちた現場だった
『ゾッキ』は、40の短編が収まった原作から、3人がそれぞれ選んだものを、脚本家の倉持 裕氏が巧みにつなげ、ひとつのストーリーとして構成。撮影は、大橋氏の故郷・愛知県蒲郡市を舞台に行われた。担当パートをそれぞれ監督する形で進められたが、なかには3人が同時に指揮をとるシーンもあり……。
竹中 共同監督は初めてだからドキドキしたな。孝之と工がどう撮るかわからないし。でも、初日の撮影で3人が揃った時、お互いの価値観が融合した感がしっかりあった。
齊藤 キャスティングやどの話を選ぶといった流れを共有していたからですかね。それぞれのカラーは出しながらも、ひとつにまとまっていて。スマートな合コンみたいでした(笑)。
竹中 ゆるぎない信頼感が現場の空気としてあったよね。孝之は自分の撮影がなくても、プロデューサーとして僕と工の現場を静かに見守ってくれていたし。
山田 勉強でもありましたからね。竹中さんはロケハンの時点でほとんどの画が見えているなと思ったし、工くんは俳優やスタッフと近い距離で向き合い、すごく丁寧だなと。
齊藤 おふたりとも役者がベストパフォーマンスを出せるように気を配っていて。俳優として参加しても、とてもやりやすい現場だなと感じました。
竹中 みんなのスケジュールを合わせるのが大変だったり、天候のこととか心配してたけどね。でも、すべて完璧はないわけだし、悪いほうに考えておいたほうがダメだった時にちょっと楽かな。俺、基本的にはとってもネガティブなので。
齊藤 現場ではポジティブな印象しかなかったですけどね。軽やかで的確で。
竹中 うん! そりゃあ現場では明るいよ! 映画という夢を見させてもらってるしね。60も超えてくると、腰が痛いとかいろいろあるけど、監督は元気じゃないとね(笑)。
山田 悪いことに限らず、いいことも含め、絶対何か起きますからね。僕はそこで焦らないように柔軟に対応することを心がけています。みんなが喜ぶようなことが起きた時ほど、「ちょっと待って、100%ネガティブで考えてみますね」と。そういう視点もあったほうがいいかなって。
竹中 そうだよね。いけるって思った瞬間に「えっ!? そんなー!?」ってのが人生だもんね。
齊藤 ぼくも自己啓発本とか信用していません。あれに頼りすぎて落ちたオーディションは山ほどあるし、傷ついた時の対処法は書いていないので(笑)。むしろネガティブベースのほうがポジティブになりやすいのかも。
架空の逃げ道が挑戦を後押しする
前進するために敢えてネガティブな視点を持つ。そんな3人の勝負アイテムを聞いた。
竹中 今回選んだのはアンダーカバーのライダースです。黒澤明監督の『蜘蛛巣城』をイメージした作品。僕にとっては現場に行く時の鎧。心が弱っている日とかにね。
齊藤 僕は酵母菌です。コロナで身体の内側のことを考えるようになって、免疫上げるには菌が大切だなと。ぬか漬けとか酵母ジュースとか。
竹中 自分で作ってるの?
齊藤 株分けしていただいて。変な話、これを摂っていると、排泄物が臭くなくなるんですよ。栄養素がちゃんと体内で分解されているかららしいです。
山田 へぇ、すごいな。
齊藤 時間が経つことってちょっとネガティブだったりするじゃないですか。年齢を気にしたり。でも、発酵ベースになると、時間が経つことは味になる。
竹中 ……BOSEのスピーカーに替えようかな。工みたいに、この時代を捉えたアイテムとして。Bluetoothの素晴らしさ! いつでもどこでも音楽が聴けてしまうという。
山田 ライダース、いいですよ。それぞれの個性だから(笑)。
竹中 孝之の話聞かないようにしよう。ますます落ちこむから。
山田 僕、物ってないんですよね。だから、「常に架空の逃げ道をつくっておく」かな。すべてにおいてそうで、俳優にしてももう21年やっているけど、「他にもっとやりたいことが見つかるまで、今は俳優をやっておこう」という気持ちでいる。あくまでも架空ですけどね。でも、そうやって別の道があると思えば、失敗しようが明日終わろうが構わない。好きなように、思い切りやれますから。
齊藤 それを山田孝之が言っているから意味がある。
竹中 大好きなブルース・リーにする! ふたりの話がよすぎてバランス取れない…!
山田 いやいや、それぞれの個性ですから(笑)。
Naoto Takenaka
1956年神奈川県生まれ。’83年のデビュー以来、映画、ドラマ、舞台などに俳優として出演するほか、監督、画家、ミュージシャンとしても活躍。主演も務めた初監督作『無能の人』はヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞に輝く。
Takumi Saitoh
1981年東京都生まれ。齊藤工名義で映画監督として活躍するほか、移動映画館「cinéma bird」の主催や「Mini Theater Park」など活動の場を広げている。主演映画『シン・ウルトラマン』や企画・制作を手がけたクレイアニメ『オイラはビル群』などが待機中。
Takayuki Yamada
1983年鹿児島県生まれ。’99年に俳優デビュー。話題作に数多く出演し高い評価を受ける一方、プロデュース、デザイン、音楽活動などにも取り組む。2021年は映画『はるヲうるひと』やNetflixドラマ『全裸監督』の続編公開を控える。
4月2日全国公開! 映画『ゾッキ』
原作:大橋裕之『ゾッキA』、『ゾッキB』(カンゼン刊)
脚本:倉持 裕 音楽監督:Chara
監督:竹中直人、山田孝之、齊藤 工
出演:吉岡里帆、鈴木 福、満島真之介、柳 ゆり菜、南 沙良、安藤政信、ピエール瀧、森 優作、九条ジョー(コウテイ)、木竜麻生、倖田來未、竹原ピストル、潤浩、松井玲奈、渡辺佑太朗、石坂浩二(特別出演)、松田龍平、國村 隼
人気漫画家・大橋裕之の短編集『ゾッキA』『ゾッキB』をベースに実写化。秘密を抱える人々の日常に、時にくすりと笑わされ、時に切なくなり、エンディングでは温かな気持ちに。ドキュメンタリー『裏ゾッキ』も公開が決定。