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2020.01.31

宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.18『ハウルの動く城』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。

ジブリ童貞のジブリレビュー

『ハウルの動く城』レビュー

こんにちは、ジブリ童貞です。残りわずかとなってきましたが、今年もジブリ作品をどんどんジブり倒していくので、どうぞよろしくお願いいたします。​

そう言えば去年末に噂のワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」を買ったんですよ。音楽以外の外部からの雑音をほとんど消してしまうノイズキャンセリング機能(以下:ノイキャン)は、それはそれは快適でして、喫茶店とかで使うとまるで世界から人が消えてしまったのかと思うぐらいの感覚が味わえて、快適というかむしろ「本当に世界に自分一人だけだったらどうしよう…」と、ちょっと怖くなってくるぐらいのイヤホンなんですが、それがつい先日、何かの拍子で壊れてしまったんですね。片方のワイヤレス接続が時々途切れてしまう感じの故障。

で、保証期間も90日しかないので慌てて新宿のApple Storeに修理予約取って行ってきたんですが、その時に故障の症状を説明するために、Apple Storeの店員さんの前で自分のiPhoneから音楽を再生しないといけなくてですね、そこで私は何の躊躇もなく、今回レビューをさせてもらう「ハウルの動く城」のサントラを流したわけです。それも物凄く誇らしげに。

Apple Storeの店員さん、どう? これええでしょ? と。このサントラ、めちゃくちゃ胸にドンドン! くるでしょ? ワイヤレスの接続ぶつぶつ切れるけどさ、そんなことよりこのサントラ凄くええでしょ? あんたきっと普段もオシャレな生活送っていて、最近のビリー・アイリッシュあたりのナウな洋楽ばっかり聴いてんでしょうけど、やっぱジブリ音楽は久石譲だとあんたも今思ったでしょ? と。

オシャレな店員さんには無難にビートルズあたりを再生して、こちらの趣味がバレないようにはぐらかすという手もあったんですが、それは「逃げ」だと判断したんですね。私にとってジブリのサントラは完全に「攻め」。久石譲はマジでいい。ここまでジブり倒してきたことで、随分と強靭なジブリマインドを手に入れたと思っております。

久石譲はマジでいい。

…それでは、前置きが長くなりましたが「ハウルの動く城」のレビューをどうぞ。

(「以下:ノイキャン」って書いておいて以下一回も「ノイキャン」って言わないの、新しくないですか?)

オープニングから登場する動く城が好みじゃない感じで出鼻が挫かれる

完全に個人の好みの話なので、ここはすっ飛ばしてもらって全然構わないんですが…冒頭から登場するタイトルにもなってる「動く城」。これの佇まいがちょっと予想外に「うっ」となってしまいまして…。

説明が難しいのですが、西野亮廣さんの「えんとつ街のプペル」に興味が持てなかったように、あとNHKの「ムジカ・ピッコリーノ」のモンストロに入っていけないところがありまして、どうもあのスチームパンク的な世界観になんとなくなんですが、「自分の人生に全く関係ない感」を感じてしまうところがあるのです…。

それは共感性がないとかそういう話になるので、そんな身も蓋もない言い方は極力したくないのですが、学生時代のイケてる奴らの男女混合集団とはまた別ベクトルの、猛烈な「自分に関係なさ」がどうも受け付けられなくて、出鼻が挫かれてしまいました。

もちろん「えんとつ街のプペル」も「ムジカ・ピッコリーノ」もちゃんと読んだり見てないだけで、どちらも人気の作品ですし、そしてスチームパンクが好きって人が大勢いるのもわかります、なのでただの好みの話でした。すいません…。

でも大丈夫、宮崎監督だから大丈夫。ドラゴンボールで言うところの孫悟空が来たからもう大丈夫的な、あの感じ。主人公のソフィーが住む街並みも音楽も画面の色もThis is ジブリ。今作もアニメーション映像の中に宮崎監督が作った風がビュービュー吹いている。

私たちが住んでいる世界とは違う、魔法の存在する世界について何の説明もなくスタートして、それでもってグイグイ引き込んで話を進めていく感じもカッコイイ。新連載を始める時、この説明をめちゃくちゃしてしまう自分には到底できない芸当、さすがジブリ。さすが、なんですが…ジブり進めていくうち、私はこの話がどこに着地したいのかがわからなっていきました。

テーマは「老い」…でいいの?

イケメン魔法使いのハウルとロマンチックな出会いをした主人公の少女・ソフィーが、ハウルを狙う荒地の魔女に呪いをかけられてお婆さんになることでこの物語は動き始めるのですが、どうもお婆さん化のタイミングが早いのか、ソフィーのキャラクターがよくわからないままお婆さん化するので、お婆さん化してからの変化や本人の憂いの部分がいまいちわからないまま話は進んでいきます。っていうか何回「お婆さん化」って言うんだよ…。

登場したばかりのソフィーは自分に自信がないのか、控えめな性格なんですが、お婆さんになると急にたくましい行動に出るので、これが老いによるものなのか〜、老いるってそういう側面もあるかもな〜と気づくまでにちょっと時間がかかって、若干モヤモヤしてしまいました。

普通に可愛らしいジブリ顔の少女のソフィーをあんなゴツいお婆さんにするってことは、たぶんこの作品のテーマの一つが「老い」なんですよね。街から飛び出したソフィーの息切れとか腰痛とかの描写が印象的に描かれているので。ただここに「恋愛」「戦争」というテーマが入ってくるので、ちょっと複雑というか、要素が多いというか…ただ私がアホなだけとも思うのですが、正直すごく難しい。

あと、これはもうただの蛇足なんですが、もしメインテーマが「老い」であるならば、ジジババあるあるはもっとこう…ステレオタイプ的なものだけじゃなく、リアルなやつもあっていいかなとちょっと思ったので、蛇足とはわかっていながら何個か考えたのでここにイラストにして載せておきますね。

「美味しいものでも食べな」とか言うけどそんなには…

「美味しいものでも食べな」とか言うけどそんなには…

包んだティッシュは最後に口を拭くのに使いがち

包んだティッシュは最後に口を拭くのに使いがち。

烏龍茶ではなく緑茶で

烏龍茶ではなく緑茶で。

おっさんになってから「魔法」についてちょっと考えた

ハウルを観ている最中、これまでジブってきた中で過去最高に「魔法って何だ?」と考えてたように思います。いや、魔法は魔法なんだけど、物語における魔法の位置づけとは?みたいなことを考えながら観てたんですね。

子供の頃は魔法に対して「便利で特別な力」として憧れみたいなものはあったと記憶しています。この作品の中では、戦争に使われる程の恐ろしい側面も描かれていて、ある種リアル思考でもある。ただそのせいなのか、魔法の価値が大きすぎて、急にメタフィクション的な話で申し訳ないんですが、魔法が「なんでもあり」な小道具にも見えてくる気がするんですね。パワーバランスというか。

これだけ魔法魔法してると、あれ?これって別に作者の魔法のさじ加減でストーリーは何とでもなるのでは?…と思えてくるんですよ。こんなこと書いてて、こいつ粋じゃない、つまらない人間だなと思いますよね…私も思います。私は私が一番嫌いなタイプの大人になってしまいました。ごめんよ…半袖半ズボン姿の小太りな私。でも真面目な話、制限の無い便利すぎる魔法ってお話の価値に影響を与えてしまうとは思うんです。

さっき小道具だなんて書いてしまいましたが、ハウルとハウルの師匠・サリマン先生との魔法バトルのファンタスティックすぎるクールな描写はめちゃめちゃ好きなシーンでした。なので全然小道具だなんて思ってないんだけど(思ってもないなら書くなよ…)、なんだろうなぁ…誰が誰に(何に)化けてて、魔法によって何がどうなったかが、国と国、魔法使い同士の相関図も絡まってきて、どんどんわかなくなっていく感じというか、魔法が物語をわかりづらくもしている印象もあって。

…もう私、今年で42歳ですよ。6月に二人目の子供も生まれるんですよ、魔法とか言ってる場合じゃないんですよね…はい! 魔法の話はやめやめ! 終わり!

…ただね、魔法にはやっぱりどこか酔わせてほしいところがあってですね…(続けるんかい)、ここでいつもこの話になるからこれまた自分でも嫌になるんですけど、声優さん問題が浮上するんですよ。魔法使いのハウルの声はめちゃめちゃ上手とは言え、やっぱりキムタクだから、木村拓哉さんにくっついてくる現実感は、ただでさえ魔法にかかりづらくなっているテレビの前のおっさんの私の妨げになるんですね。どうせならとことん酔わせてほしい。

ベーコンエッグをカッコよく作るシーンはビストロSMAPが頭を過ぎるはず。

ベーコンエッグをカッコよく作るシーンはビストロSMAPが頭を過ぎるはず。

一度、宮崎監督だって人間、全知全能の神ではないと思ってもう一度観てみる

「ハウルの動く城」は後半になればなるほど、解決しない問題(人物関係や呪いやなんやかんや)を取り込んで、ダンゴ状になっていくようなお話でした。ラスボスになるかと思っていた荒地の魔女も魔法が使えなくなってそのまま一緒に暮らし始めちゃったり、ベタなカタルシスが欲しいところでなかなかこない、ラストまでずっとそれの連続というか。

ベタなカタルシスがやってこれば良い作品というわけでは勿論ないのですが、やっぱりエンタメである以上、120分観ている以上、スッキリする感じは欲しいかなと。

で、何度か観直しているちょっと見方を変えて見返してみることにしました。

レビューの冒頭の方で宮崎監督をドラゴンボールの孫悟空っぽく扱ってしまいましたが、これまで凄い作品を残してきたからと言って、あんまり宮崎監督を神様扱いし過ぎてはいけないのかもしれないなと思ったんですね。ドラゴンボールには「神様」ってキャラクターも出てくるので例えとしてややこしいですが。宮崎監督ってすぐ怒るイメージあるし、あの白髪と髭の見た目も神様っぽいし。会ったことないからわかんないですけど。

でも監督も人間なわけで、これ、もしかしたら監督も結構悩みながらつくった映画なんじゃないかな?と、ジブリ童貞の勝手な(※)ジブリ妄想なんですが(※私が子供の頃「女性は屁などしない」と思い込んでいた頃の妄想みたいなもの)、そういう視点で観てみるとですね、少しだけ物語の構造が見えてくるというか、「動く城」自体もそういう収集のつかなくなったエピソードたちを絡めとった塊魂の「塊」にも見えてくるんですね。あ、「塊魂」っていうゲームが昔あったんですよ、フィールドをゴロゴロ転がして建物とか巻き込んで大きな塊を作って点数を競うゲーム。

この鑑賞の仕方で観てみると、監督の創作に向き合っている時の苦悩も感じられて、動く城が崩壊するあたりにピークポイントやカタルシスが置いてあることがより感じられるので、あまりハウルに釈然としない思いを抱いている人がもしいたら、一度観直してみることをオススメしたいです。動く城がぶっ壊れるところで、妙にスカッとするはず。

結論:どうやって観ても正直あんまり面白くはならなかったジブリの大作

ハウルファンの人には申し訳ないので言葉を選ぶべきだとは思うのですが、思ってもないことを書いて多方面に媚びててもあれなので…正直書きますが、やっぱりどうやって観てもそんなに面白い映画だとは思わなかった…というのが私の感想です。

特に後半からラストにかけての、よくわからないままサリマン先生のセリフで終わって締め括られてしまう感じ。「ハッピーエンドってわけね」や「戦争を終わらせてしまいなさいな」という、物語の尻を拭くような説明台詞は聞きたくなかったかもしれません。

いつもはこのレビューを書くのに10回は見返すんですが、ハウルは7回ほどでした。…7回も観てるんかいと、文字にしてみて自分でも思ったのですが、でも7回は観れるぐらいやっぱり表現は豊かで、ずっと観てられるアニメではあるんですよね。そこはもう、他のジブリ作品にもかけられてるジブリの魔法だと思ってるんですが、言ってみれば「底ジブリ力(そこじぶりりょく)」ですよね。

…と、ここまで長々と書いてきて、ハウルはたぶん「ハウル=歌舞伎町のNo. 1ホスト」だと思って観るともっとわかりやすくなる気がしてきました。

街の女性たちがハウルというイケメンホストについて噂をしていて、で、その多くの女性たちは「ハウルは自分のような女には手を出さない」と、劣等感を感じながらも皆が憧れている。そんな中、地味な暮らしを送るソフィーはハウルと運命的な出会いをするも、実際一緒に暮らしてみるとハウルの動く自宅はゴミ屋敷、メンタルもダメダメ。ソフィーの老婆心はそんなハウルのダメな部分も受け入れ始め、お互いにその存在を大切に思い始める…みたいな。

そうなると「戦争」の部分がな…いまいちしっくりお話とくっつかないというか、あ、ホストのNo. 1争い=戦争ってこと?…いや、全然違うな…。空から攻めてくる飛行機のシーンとか、監督の大好物だから、やっぱり趣味だったのかな…。

偉そうに綴ってきましたが、偉そうついでに。

ラストはソフィーが老いた姿のままのエンディングだったら、「老いに左右されない人生、愛」というテーマらしきものももう少し明確になって、創作話でも嘘のない、個人的に好みの作品だったかもしれません。

次回は「コクリコ坂から」でジブります!

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