役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
包容力溢れる映画に心を奪われました
滝藤、今年もよく働かせていただきました。
夢のひとつであった朝ドラでヒロインのの父親役。連続ドラマで主演もやらせていただき(※『探偵が早すぎる』ですよ、ご覧になってない方はぜひ!)、穏やかに平成最後の年を終えられそうです。と思った矢先、出会ってしまいました……。『南極料理人』や『ペコロスの母に会いに行く』『福福荘の福ちゃん』を観て以来の、「うぉー! この映画に出たかった!」と尋常ならざる嫉妬にかられる作品に。
野尻克己監督デビュー作『鈴木家の嘘』です。
大森南朋さんが、超プラス思考の素っ頓狂な役で作品に光をもたらしていて、よかったなあ。後半、突然出てきて話を引っ掻き回す宇野祥平さんの役回りもいいなあ。作品のテイストを一気にシリアスな方向へと引きずりこむ加瀬 亮さん。重い……重すぎる……。唐突に現れる超うさんくさい霊媒師? 何だったんだ、あいつは……。最高!
あっ、興奮しすぎてストーリーをお伝えしていませんでしたね。
長年、部屋に引きこもっていた長男が突然死んでしまい、ショックでその記憶を失った母親に対して、周囲が咄嗟に、「お兄ちゃんはアルゼンチンで働いている」と嘘をつく話です。
これだけ聞いても、めちゃくちゃ面白そうじゃないですか?
話が変わりますが、まず、映画を観て一番に感じるのは、映画のなかで行われている嘘を信じられるかどうかだと、ひねくれ者の私なんかは思ってしまうのです。虚構の世界で演技をしている訳ですから、もちろん真実ではない。だから、騙してほしいというか、全力で嘘をついてほしい。どんな形であれ、この嘘を真実だと信じさせてくれる作品に私は魅せられてしまうのです。
そして、この『鈴木家の嘘』は、映画としての嘘も、母親につき続けている嘘も全力で、抜群に面白かったです! 原 日出子さんの存在がピカイチ素晴らしい! クスクス笑えるような言動を連発しているのにリアリティに溢れている。また、ひたすら子供を信じて待つ姿は、4人の子供を持つ私には強烈に響きました。
『鈴木家の嘘』
野尻克己監督デビュー作。兄が自死した経験をもとに自ら脚本を書き、笑って泣ける良質のコメディを作り上げた。長男役は加瀬 亮、妹役は『菊とギロチン』のヒロイン役でも注目された木竜麻生が演じている。原 日出子の母親像が出色で、素晴らしい演技を見せている。
2018/日本
監督:野尻克己
出演:岸部一徳、原 日出子、木竜麻生、加瀬 亮、岸本加世子、大森南朋ほか配給:松竹ブロードキャスティング/ビターズ・エンド
11月16日より新宿ピカデリーほか全国公開