役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
勝つことへの執念と勝ち方の美学。見習いたい!
今回ご紹介する『女神の見えざる手』、めちゃくちゃ面白いんです。ヒロインはこのロビイストであるエリザベス・スローン。とてつもなく冷酷で目的のためなら手段を選ばない完璧主義者。一見、あまりの鉄人ぶりに自分とはかけ離れた存在に思えますけど、私生活での不完全さが絶妙に描かれていて「ああ、敏腕ロビイストも、同じ人間なんだなぁ」と感じさせてくれるところも魅力的。
物語は、彼女が銃擁護派団体から銃規制法案を潰すプロジェクトの依頼を受けるところから始まります。圧力団体は、「女性が銃を持つ必要性を認識させたい」と。しかし彼女は自分の信条に合わないと、この依頼を断固拒否。そこから実にえぐい工作のかけ合いが開始。ノンストップで一気に畳みかけてきます。
台本2冊分はあるのではないかと思わせるセリフ量。場面展開の早さ、膨大な情報量。正直、始まった途端、ついていけないかもと心折れそうになりましたが、ジェシカ・チャステインの魅力がスクリーンから心を離れさせない。以前、本連載でご紹介した『アメリカン・ドリーマー』では、したたかなマフィアの娘を、『ゼロ・ダーク・サーティ』ではビン・ラーディンを追い詰めるCIAのエージェント、『オデッセイ』では部下思いのチームリーダーと、彼女はどれも素晴らしかったですよね。
気づけばスクリーンにかじりつき、完璧にエリザベス・スローンに欺(あざむ)かれ、ラストはもんどりうって倒れるほどの衝撃が次々と襲いかかってきます。アメリカドラマ『ハウス・オブ・カード』を彷彿とさせる、私にとっては堪らないテイストの作品でございました。
しかし、ロビイストって仕事はカッコいい。仲間にも作戦を打ち明けず、淡々と戦略を重ね孤独なスパイのよう。私も生まれ変わったらぜひロビイストになりたいと思います。
『女神の見えざる手』
2016年/フランス・アメリカ合作
監督:ジョン・マッデン
出演:ジェシカ・チャステインほか
配給:キノフィルムズ
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中