役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!! 今月は『沈黙 ─サイレンス─』を取り上げる。
ショッキングにして茫然。観終わって、まさに沈黙。
私、滝藤は青春時代、マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』『ミーン・ストリート』『レイジング・ブル』『ケープ・フィアー』などを観て過ごしました。そして、スコセッシ作品に出演しているロバート・デ・ニーロにガッツリ影響を受けたからこそ、この世界に入ったといっても過言ではありません。俳優の道を志してからずっと、スコセッシ作品に出るのが夢でした。そのスコセッシ監督が日本を舞台に映画を撮った? チクショー! いつオーディションしていたんだ!
さて、今回の『沈黙 ─サイレンス─』ですが、舞台は17世紀のキリスト教禁令下の江戸初期。まるで、それが自分の生まれてきた使命かのように、わざわざ苦難を背負いに来るポルトガルの宣教師たち。どんなにむごい罰を受けようとも、死してなお、信仰を捨てない隠れキリシタンたち。なぜ、こんなにも頑なに受難の道を選ぶのか......。僕にはいくら考えても理解するのが困難で、観終わってしばらく沈黙......。本来ならば映画の主題である「宗教とは?」「信仰とは?」「神とは?」と崇高なことを考えるべきかもしれないのですが......。またまた沈黙......。
拷問シーンもあり目を背けたくなる場面も多いですが、そのなかでもやはり日本人キャストが皆素晴らしい! 窪塚洋介さんやイッセー尾形さんの芝居が、実に愉快です。悲惨なシーンのはずなのに、しっかりおふたりのユーモアが盛り込まれている。
一方で塚本晋也さんや浅野忠信さんがすぐさま悲惨な現状に引き戻してくるから凄まじい。特に塚本さんのシーンは痛々しく、見ていて本当に苦しかったです。この作品の為に相当身体を絞ったのでしょう。まるで棒切れのようでした......。
この『沈黙』もそうですが、日本の俳優が海外の作品に出た時、伸び伸びと演じている印象を受けることが多いです。なぜだろう。うらやましい......。自分の信じる道を突き進み、人生を全うした隠れキリシタンのように、「日々精進、生涯修行」。私もいつかあのステージに立てるよう努めたく存じます。
『沈黙 ─サイレンス─』
マーティン・スコセッシが、遠藤周作の同名小説を30年近くかけて映画化にこぎつけた。主役は『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド。師の棄教の真相を知るため、ポルトガルから日本に潜入する宣教師の受難劇。映画監督・塚本晋也を筆頭に、80代の笈田ヨシ、小松菜奈など日本人キャストの演技も印象深い。
2016年/アメリカ
監督:マーティン・スコセッシ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、窪塚洋介 ほか
配給:KADOKAWA
全国公開中