連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『リリーのすべて』を取り上げる。
愛する人の秘密と変化。 どこまで愛せるか、どこまで許せるか
季節が巡るのは早いもので、また、アカデミー賞の季節がやってきました。
昨年は最優秀主演男優賞に、『博士と彼女のセオリー』のエディ・レッドメインをいち推しして、見事、当てた滝藤でございます。そして、今年も再びエディを推したいと思います。30代前半の伸び盛りの俳優っていいですね。まあ、僕は32歳までアルバイトをしていましたけど、それが何か?(笑)。
でも、いいのでしょうか? 主演女優賞じゃなくて。というのも、彼が演じているのは世界初の性別適合手術を受けた人物だからです。
時代は1920年代のデンマーク。エディ演じるアイナーは風景画家で、妻のゲルダも肖像画家。平穏な結婚生活を営んでいたふたりでしたが、妻の制作のため、バレリーナの肖像画のモデルを務めたアイナーに大きな変化が。眠っていた人格が殻を破って一気に自己主張しだすんです。その演技の組み立てが、今回も実に素晴らしい。ギリッギリのラインを攻めてます!
一方、妻のゲルダは激情の人。夫の人格が消えることに混乱し、もがきます。ゲルダを演じるアリシア・ヴィキャンデルのシーンごと魂のこもった芝居には、何度も胸を熱くさせられました。ただ、演技のトーンが激しさ一辺倒なのが惜しい。個人的にはもう少し抑揚が欲しかった。
本作で僕が考えさせられたのは、愛する人の変化や秘密をどこまで受け入れられるのか、ということでした。僕は、自分も知らなかった本来の自分に目覚めるということはこの先もないと思いますが、もしかしたら身近な人には起こりうるかもしれない。以前、臨床心理士の先生にお会いした時「相手を許すのではなく、自分を許してください」という言葉をいただきました。愛する人が、自分の望みから遠く離れた行動をした場合、それを見過ごし、見守る自分を許してあげる。そういった意味で、夫の変貌をすべて受け入れるゲルダの決断は胸に響きました。さて、皆さんはどう思われるのでしょうか?
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!