9月14、15日、富士スピードウェイでFIA世界耐久選手権(FIA World Endurance Championship:WEC)の第7戦『富士6時間耐久レース』が行われた。実はいま世界的にモータースポーツが盛り上がっている。下火といわれた日本でも過去最多の観客が訪れたのだ。現場では何が起きているのか、富士スピードウェイからレポートする。
レースはマーケティングであり、技術開発であり、人材育成の場
WECとは、その名に“Endurance”とあるように世界最高峰の耐久レースシリーズ。2024年シーズンは、8ヵ国、全8戦で争われており、毎年6月に行われるもっとも有名な「ル・マン24時間レース」は、このWECの第4戦という位置づけにある。
実は近年、世界的にレースの人気が高まっている。F1などはその最たるもので、2024年シーズンは史上最多の21ヵ国、24戦と、単純計算でも毎月2戦という超過密スケジュールをこなしている。
F1の舞台裏を追いかけたNetflixのドキュメント番組をひとつのきっかけに、これまでF1の人気が低迷していた米国でも話題となり、アメリカ国内だけで年間3レースも行われるなど異常な過熱ぶりをみせている。
また今年のル・マン24時間レースでは史上最多の約32万9000人の観客を動員した。ル・マン24時間はおそらくいま世界でもっとも集客力のあるレースといえるだろう。
モータースポーツは下火と言われる日本でも、この数年着実に観客動員数が増えている。国内でもっとも人気のレースシリーズは「スーパーGT」だが、今年のゴールデンウイークに富士スピードウェイで開催された第2戦には、2日間で延べ8万8400人が訪れた。
これは前年比約10%増だ。一方で国内トップカテゴリーのフォーミュラカーレース「スーパーフォーミュラ」は長年集客に苦戦していたが、7月20日、21日に開催された第4戦では2日間で延べ49,200人を集客。これは前年比約1.5倍の数字だ。
舞台となる富士スピードウェイでは、キッチンカーやヒーローショーなどの縁日イベント、夜間の音楽ライブなど子どもたちや若者がレース以外にも楽しめるコンテンツを充実させている。そして近年は、サーキット内にキャンプサイトを設けることで人気に拍車がかかった。長時間走り続ける耐久レースとキャンプの相性はまさにぴったり。かくして今年の富士6時間耐久レースには、過去最多、前年比約20%増の6万5800人が訪れた。
あらためて、そもそもなぜ自動車メーカーはレースをするのか。これまでさまざまなブランドのトップにこの質問を投げかけてきたが、おおむね以下のような回答に集約される。
・技術開発とテスト場としての役割
先進的な技術を極限の環境であるレースの現場で試し、のちの量産車開発に活かす
・マーケティングと広告効果
グローバルなマーケティング活動の一環として。レースでの勝利はメーカーの技術力や信頼性の高さを示し、認知向上につながる。またブランド力の向上、ファン層の拡大といった効果が見込める。
・人材育成
レースチームを運営することでマネジメントやエンジニア、ドライバーなどの人材育成を行う。レーシングチームと市販車開発チームの人材交流を行うなどして得られる経験は、とても貴重なもの。つい最近の大きなニュースとしては、トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)とハースF1チームが業務提携を発表。トヨタのエンジニア、メカニック、育成ドライバーなどがハースF1のテストに参加するなどすることで、人材育成の強化に取り組んでいくという。
そしてマーケティング活動の裏付けとなるものとして、そのブランドのモータースポーツに対する歴史や文化がある。ポルシェやフェラーリなどはその最たるもので、創業時からレースに参加するという文化を育み、勝利することがレゾンデートルであるという企業としての精神や伝統を表現する場としてレース活動を積極的に行っているというわけだ。
フェラーリとポルシェとトヨタのプライドを賭けた戦い
最終戦を次に控えたWEC富士ではタイトル争いも佳境を迎えており、ハイパーカークラスでは、6号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)がポイントトップ。これに続くのは7号車トヨタGR010ハイブリッド(TOYOTA GAZOO Racing)と、50号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)。
決勝レースは、レース中盤にトップに立つとそのまま212周を走りきった6号車ポルシェ963が見事に優勝。地元での勝利を期待されていたTOYOTA GAZOO Racingは、アクシデントに見舞われ、7号車がリタイヤ。8号車はレース終盤、3番手と表彰台圏内を走行するもドライブスルーペナルティが課され10位フィニッシュとまさかの展開に。
予選3番手からペースを維持した15号車BMW MハイブリッドV8(BMW MチームWRT)がチームとして初めてハイパーカークラスの2位表彰台を獲得。また36号車アルピーヌA424(アルピーヌ・エンデュランス・チーム)は、元F1ドライバーのミック・シューマッハーの活躍もあり、このマシンでは初の3位に入った。
LMGT3クラスでは、54号車フェラーリ296LMGT3(ビスタAFコルセ)が優勝。92号車ポルシェ911 GT3 R LMGT3(マンタイ・ピュアレクシング)が2位に。92号車はこれでLMGT3クラスの初代王者を確定させた。3位には、元MotoGPの伝説のライダー、ヴァレンティーノ・ロッシの追い上げもあり、46号車 BMW M4 LMGT3(チームWRT)が入った。
2024年のWEC最終戦は、10月31日~11月2日、中東のバーレーン・インターナショナル・サーキットで行われる。現在トップのポルシェ、それを10ポイント差で追うトヨタ。マニュファクチャラーズチャンピオンシップを狙う両者のプライドをかけた白熱のバトルが繰り広げられることは間違いない。