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2024.05.16

電気自動車だから実現できた!? 東京初の公道レース「フォーミュラE」レポート

2024年3月30日、FIAフォーミュラE世界選手権が日本に初上陸。東京都としては史上初の公道を使った自動車レースが行われた。電気自動車のレースはどんなものなのか? 公道レースにはどんな意味があるのか? 現地取材をしたジャーナリストの藤野太一がリポート。

スタートシーン
スタートシーン。ポールポジションはホームレースとなるニッサン・フォーミュラEチームのオリバー・ローランド選手。

排ガスも騒音もなく、アクセスも良好

フォーミュラEとは、2014~2015年シーズンにはじまった100%電動フォーミュラカーによるレース。最大の特徴は、電気自動車ゆえ排ガスも騒音もないため、基本的に人里離れた場所にあるサーキットではなく大都市やリゾート地などの市街地コースで行われること。公共交通手段を使ってアクセスできるため、これまでレースを見たことがない人との接点をつくりやすいのもひとつのメリットだ。

ホームストレート
東京ビッグサイトの臨時駐車場につくられたホームストレート。さすがに駐車場の荒れた路面は危険なため、アスファルトは新しいものが敷かれていた。奥には豊洲・有明エリアのタワマン群が!

日本でも数年前から横浜市や東京都などでの開催が検討されてきたが、近年のZEV(ゼロエミッションビークル)の普及、そしてカーボンニュートラル社会の実現といった目標と合致することあり、小池百合子都知事の陣頭指揮のもと「東京E-Prix」が実現したという経緯がある。

「東京E-Prix」のコースは、東京・有明にある東京ビッグサイト(東京国際展⽰場)の周囲を走行するレイアウト。ピットやピットレーンは東京ビッグサイトの臨時駐車場に設営し、ホームストレート越しには有明や豊洲のタワーマンション群をのぞむというシチュエーションだった。

マップ
コースは1周約2.6kmでコーナーの数は20。道幅が狭く、追い抜きが難しいコースだけに予選の順位が勝敗を大きく左右する。

10年をかけて、バッテリーもモーターも大幅に進化

2024年で10シーズン目を迎えるフォーミュラEのマシンは、約10年の歳月をかけて第3世代である「GEN3」に進化している。先代のGEN2と比べ車両重量を大幅に軽量化。最高出力は250kWから350kWにまでパワーアップし、最高速度は300km/hを超える。

現行のフォーミュラEのルールでは、新規参戦メーカーのコスト負担を軽減するため、シャシーや空力パーツ、そしてバッテリーなどは共通の部品を使用。モーターやトランスミッションなどのパワートレインをのぞけばほぼワンメイク仕様となっている。フォーミュラEのことを「F1のEV版」のように例えたりするが、F1は空力パーツもパワートレインも自由競争で必要なコストは何倍にもなると言われており、そういう意味では趣が異なる。

したがって、フォーミュラEは、マシンがほぼワンメイクだけにドライバーの腕とレース中にエネルギーをいかに効率的に使うかというチーム戦略によって勝敗が決まる。スタートダッシュを決めて、あとはひたすらトップが変わらない最近のF1とはまったくの別もので、最後までめまぐるしくバトルが繰り広げられる展開の面白さが魅力だ。今回、初めてレース観戦をしたという人にも話を聞いたが、想像していた以上に楽しかったという声がたくさんあった。

今シーズン自動車メーカーとしてワークス参戦しているのは、ジャガー、ポルシェ、DSオートモビル、マセラティ、そして日本のメーカーとしては唯一、日産自動車が顔を並べる。全11チーム、22台、22名のドライバーによって、全16戦で争われる。

これらの顔ぶれを見ればわかるように、ジャガーiペイス、ポルシェタイカン、マカン、 DS3クロスバックE-TENSE、マセラティグラントゥーリズモフォルゴレ、日産アリア、リーフ、サクラなど、参戦しているすべてのメーカーがすでにEVを市販している。

桜色に塗られたポルシェのマシン
東京にあわせて桜色に塗られたポルシェのマシン。「有料駐車車両」などの道路表示がそのままなのが、いかにも日本の公道の雰囲気。

チケットは即完売。都心で行われるレースの可能性をみた

快晴に恵まれた2024年3月30日に予選と決勝レースが行われた。1日でまとめて予選と決勝が見られるスケジュールのコンパクトさもフォーミュラEのメリット。約1万席分用意されたチケットはおよそ3分で完売。主催者発表によると最終的に約2万人の観衆が訪れた。

予選では、初のホームレースとなった、ニッサン・フォーミュラEチームのオリバー・ローランドがポールポジションを獲得。日産の応援スタンドも大いに盛り上がった。そして、決勝レース前には、フォーミュラEの東京への誘致を陣頭指揮した小池百合子東京都知事と、岸田文雄首相がスターティンググリッドにサプライズ登場。政府として目標を掲げている2050年のカーボンニュートラルに向けた活動をアピールした。

コースサイドから見たレース
ニッサン・フォーミュラEチームのオリバー・ローランドと抜きつ抜かれつのバトルを展開。コースサイドからの距離の近さもこのレースの魅力。

決勝レースは、ポールポジションのオリバー・ローランドと2位につけたマセラティMSGレーシングのマキシミリアン・ギュンターがデッドヒートを繰り広げ、最終的にマセラティのギュンターが勝利。ニッサンのローランドは惜しくも2位となった。

優勝したマキシミリアン・ギュンター選手とハイタッチ
表彰式はコースサイドではなく、観客の前をとおった先にある特設ステージで行われる。優勝したマキシミリアン・ギュンターとハイタッチできる近さ。

実は決勝レースの前日、マセラティのレース活動を統括するマセラティコルセの責任者、ジョバンニ・スグロ氏にインタビューすることができた。世の多くの自動車メーカーがそうであるように、マセラティもICE(内燃エンジン)とBEV(電気自動車)の両方の開発を同時並行で進めている。今後さらに電動化が進み、これまでマセラティの特徴であったエンジン音が失われていくなかで、ブランドをどう表現していくのか。

「よく聞かれることですね。マセラティに乗ると、さまざまな要素が組み合わさっていることがわかると思います。優れたエンジニアリング、美しいデザイン、そして高いパフォーマンス、そのすべてを備えている。マセラティはラグジュアリーブランドなのです。エンジン音があろうと、モーター音であろうと、サウンドがどうであれマセラティで得られる体験は他の誰にも真似できないユニークなものです。常に一貫して、メイド・イン・イタリーの独自性にこだわり続けています。そして、私たちは近い将来、最もラグジュアリーなイタリア製の電気自動車を生産することになると思います。それは、世界中の多くのユーザーにとって非常に魅力的なものであり、決して忘れることのできない経験を与えるものになるはずです」

「東京E-Prix」で優勝したマセラティMSGレーシングのチームスタッフとマキシミリアン・ギュンター選手
初開催となる「東京E-Prix」で優勝したマセラティMSGレーシングのチームスタッフとマキシミリアン・ギュンター。

エンジン音のないレースなんてつまらないと思い込んでいる人には、ぜひ生での観戦をおすすめする。テレビの画面ごしではわからないライブ感が確実にある。ドライバーやチームとの距離の近さもフォーミュラEの魅力だ。「東京E-Prix」は3年契約といわれており、今大会の成功をうけて、2025年はさらに盛り上がりをみせることになるはずだ。

TEXT=藤野太一

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