トヨタのスポーツカー開発の勢いは止まらない。GRヤリスに続き、2022年中に発売を予定している自社開発スポーツカーがGRカローラ。GRヤリス譲りのターボエンジン、スポーツ4WDシステムはGRカローラ仕様に最適化。最高出力は304psに到達する。GRヤリスが3ドアなのに対してGRカローラは、ワイドな基本骨格を活かし、優れたスポーツ性能と5ドア・5人乗りの利便性を両立。今回の連載「NAVIGOETHE」では、そんな「GRカローラ・GRヤリス」をご紹介!【過去の連載記事】
GRが挑み続けるレースの実験場
メルセデス・ベンツの「AMG」、BMWの「M」、アウディの「アウディスポーツ」、いずれも元は各社のモータースポーツ部門の名称だ。レースに勝利するためには、そもそもベースとなる市販車の性能を高める必要がある。レースで得たデータを次の市販車開発に活かす。欧州の先達は自動車の黎明期からそれを実践してきた。そして、そういったモータースポーツ部門の名称を高性能車の証として市販車に冠してきたのだ。ドイツ御三家もモータースポーツ活動を行うと同時に、高性能車を開発する独立部門として確たる地位を築いている。
トヨタも同様に真似をすればいい。しかし、ことはそれほど単純ではない。例えばトヨタはグループでの世界販売台数が年間1000万台規模を誇る、2020年から2年連続で世界No.1の自動車メーカーである。ドイツ御三家の年間販売台数を全部足し合わせてもトヨタ1社には及ばない。それほどの大企業がステークホルダーの視線を横目に、おいそれとスポーツカーづくりには手をだせない。
しかし、豊田章男社長の陣頭指揮のもと、トヨタが’17年から展開しているスポーツカーブランドがGRだ。GAZOO Racing(ガズー・レーシング)の略称であり、「レースで勝つために鍛えたクルマを市販化する」というレース活動で得た知見を市販車へと注ぎこんでいる。またトヨタは今カンパニー制を導入しているが、独自開発した高性能車の販売で利益をだしながらモータースポーツ活動を行う。経営に影響を受けやすいレース活動をサステイナブルなものとするための試みだ。
’20年にはGRブランドを冠したスポーツカー、GRヤリスを発売。社長自らがマスタードライバーとして「クルマをつくっては壊す」を繰り返した。専用設計のボディに新開発エンジン、そしてスポーツ4WDシステムGR-FOURと、完成した市販モデルは今どき常識外れの仕様で好事家たちを狂喜乱舞させた。そして、たたみかけるように'22年6月には、「GRカローラ RZ」と「GRカローラ モリゾウエディション」を世界初公開。この“モリゾウ”仕様は、まさにマニア垂涎の逸品。社長自らの名前を冠するくらいなのだから、自信の表れ以外の何物でもないはずだ。
トヨタが参戦している主な世界選手権はふたつある。ひとつは'22年6月に5連覇を達成したル・マン24時間レースをはじめとする耐久シリーズのWEC(FIA世界耐久選手権)。そしてもうひとつがWRC(FIA世界ラリー選手権)だ。
トヨタのWRC参戦は1999年に一度途絶えていた。豊田社長の「もっといいクルマづくりを推進するために最高の舞台のひとつである」という強い意志のもとで2017年に再び参戦を開始。この時にチーム運営およびマシン開発を託したのが、WRCで4連覇を成し遂げ、現役引退後は地元のフィンランドでラリーチームを運営していたトミ・マキネン氏だった。トヨタにはドイツに直轄のレース活動拠点があり、社外の小さなプライベートチームに運営を任せることには、相当な抵抗勢力があったという。
しかし、豊田社長が不退転の決意でそれを実行に移し、復帰初年度、第2戦で初優勝をあげた。'18年にはチームタイトルを、'19年と'20年にはドライバー&コ・ドライバーのタイトルを獲得した。実はこの初期の段階からすでにチームは次期型ヤリスの開発にも参画。ラリーマシンは市販車の基本骨格部分を使用することが多く、例えば「これくらいのサスペンションストロークを稼ぎたい」、といった要件を最初に組みこんでおけば、より速いマシンをつくることができ、ひいては市販車の性能向上につながる。そうして生まれた新型ヤリスの基本性能の高さゆえに、いまのGRヤリスがあるのだ。
クルマの開発と並行して豊田社長が注力しているのが、人づくり。日本からエンジニアがチームに参画するのはもちろん、'15年からWRCで活躍できる日本人ラリードライバーを育成するため、WRCチャレンジプログラムを始動。フィンランドに移住し、トミ・マキネン氏のもとで武者修行を続けてきた勝田貴元選手が今WRCのトップカテゴリーに参戦中。'22年6月のサファリラリーでは見事に3位表彰台を獲得した。
'21年より、チーム代表はトミ・マキネン氏から'19年までトヨタのドライバーだったヤリ-マティ・ラトバラ氏に受け継がれた。大のトヨタファンを公言するナイスガイで、5月の富士24時間レースに来日、自ら水素エンジンカローラをドライブするなど、次世代車両の開発にも従事。“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”の好循環が生まれているのだ。
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