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CAR

2021.10.13

音楽鑑賞空間としてのアウディEV「e-tron」

歴史ある名車の”今”と”昔”、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

EV専用の遮音対策

クルマの運転中に音楽を楽しむ人は多い。私自身も、そんなドライバーのひとりだ。しかし残念なことに私の愛車は、リスニング環境としてみると、かなり不向き。エンジン音が大きいことに加え、外から侵入する音も少なくないのだ。そんな愛車を擁護するわけではないが、クルマがリスニング環境としては芳しくないのも事実。走行中のクルマは、様々な音を発する。エンジン音を始め、タイヤによるロードノイズや走行中の風切り音など雑音は盛りだくさん。さらに周囲を走る車がいれば、それらの音も遠慮なく侵入してくる。もちろん、車種により遮音性能には差があるが……。

では、周りが静かなところで停車して音楽を楽しめば良いかと言えば、やはり自車のエンジン音が課題となる。ハイブリッドカーだって、イグニッションONの状態ならば、時折エンジンが唸りを上げる。それではエンジンを止め、音楽を楽しもうとすると、今度はエアコンが使えず、いずれ窓を開けることになる。そうなれば、外に音が洩れるのはもちろんのこと、同時に外からの音も侵入してしまう。また現行車は電気を多く使うため、バッテリー上がりの危険も付きまとう。なかなか厄介な環境なのだ。それではエンジンを持たないEVではどうなのだろうか。

まずノイズに関するメカニカルな特性について簡単に解説しよう。アウディの資料によれば、エンジンと異なり、電気モーターは、振動や機械的ノイズはほとんど発生しない。しかし、静かな分、これまで意識していなかったノイズが耳障りとなる可能性も指摘する。つまりエンジンなどの他の音で打ち消されていた音が存在感を増すケースもあるのだ。

また高電圧を扱うEVでは、特有の高周波が発生することもある。そこでアウディのEV「e-tron」の場合は、不快なノイズを遮断するために、シャシーにある設計上の開口部や中空箇所にはマイクロファイバーのフリースが詰められているという。モーター自体もノイズを低減させるために、カプセルの中に収められる構造をしている。つまりEV専用の遮音対策が施されているのだ。

先のモーターのノイズはほとんどないという表現と矛盾するように思うかもしれないが、ノイズ自体が小さくとも、人が耳障りだと感じれば、不快さに繋がるという意味である。さらにe-tronの場合、走行中にエンジン音などで打ち消せない風切り音を抑えるべく、空力特性も入念な調整が加えられている。EVが単に静かなのではなく、エンジン車よりも静かな特性を活かすべく、徹底した静音や吸音対策を施すことで、EV特有の快適な静かさを実現している。そこに各メーカーの知恵と努力があるわけだ。

リスニング環境としてのクルマを大きく飛躍

今回用意したアウディe-tron 50クワトロSラインには、オプションの「バング& オルフセン3Dサウンドスピーカーシステム」を装備。10スピーカーを備えるe-tron標準の高性能なオーディオシステムに対して、こちらは16スピーカーで構成されるものだ。さらに立体的な音の広がりを感じられる3Dサウンドを実現しているのが強み。大げさに言えば、何処にいても車内がライブ会場やコンサートホールに早変わりするというわけだ。ドライバーに求められるのは、お気に入りの音源を用意することだけ。私の場合、オンラインのサブスクリプションサービスによる音楽鑑賞を楽しんだが、ロックもポップスも、かなり臨場感のあるクリアなサウンドが楽しめた。

それでは、走行中はどうなのか。高級車であるアウディは、かなり静粛性に気を配ったクルマづくりをしているが、EVとなるとクルマ自らが発する音はより小さくなるので、まるで移動するライブ会場のよう。特に夜間の都市部の高速道路は、周囲の美しい夜景もライブを盛り上げるイルミネーションのように思えてくる。音楽の存在が、外と車内が良い意味で切り離されているのだ。無駄な音が削がれることは、移動中に音楽を聴く楽しみをここまで広げてくれるのだと実感する。

もちろん、周りの音を打ち消すような大音量も必要としないから、周囲の危険を発する音は、しっかりと耳に届く。e-tron自身も、移動中の快適さを失わず、クルマからの通知音や警告音などに不快さを感じさせないようにしながらも、しっかりと伝えるようにチューニングを行っている。そこまでの配慮が可能になったのは先進機能を含めた技術の進歩に他ならない。

EVは、リスニング環境としてのクルマを大きく飛躍させる存在となるだろう。実際に、音楽を含め、エンタメ機能を強化し、それを売りとするEVもあり、愛嬌のあるEV「ホンダe」もそんな一台だ。さらにアウディは、RS e-tronGTのようなEVの高性能モデルでは、疑似エンジン音を追加することで、これまでの高性能エンジン車のようなパフォーマンスを耳で感じる、ユニークな機能にも取り組んでいる。最新のカーオーディオは、ノイズキャンセルのように快適性を増すために音を打ち消す機能だけでなく、音を足すことの魅力にも挑戦している。それらの進化が、EVの車内環境をどのように進化させるのかも非常に興味深い。とにかく、EVは音楽を楽しむ場としても興味深い存在であることは間違いない。やってくるEV時代に向けて、少し楽しみが増したように思えたアウディe-tronとのドライブであった。

TEXT=大音安弘

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