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2021.08.03

世界初の"条件付き自動運転"を実現したホンダの新型「レジェンド」とは一体!?

歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

世界で初めて「レベル2」を打ち破った市販車

1982年より米国で放映されたTVドラマ「ナイトライダー」をご存じだろうか。正義感溢れる青年の活躍を描いたアクションドラマだが、その彼の相棒は、「ナイト2000」と呼ばれるクルマだ。もちろん、普通のクルマではなく、人工知能「K.I.T.T(キット)」を搭載し、自分の意思を持ち、しかも感情があり、時にはジョークも飛ばす。もちろん、完全な自動運転車でもあった。当時は、自動車のハイテク化が始まりつつあったものの、まだ自動運転研究も初期の段階。現実味はなかったものの、ドリームカー「ナイト2000」の活躍は、子供から大人まで多くの人を魅了した。

あれから40年ほどの時が流れた今、自動運転技術は大きな進歩を遂げている。あまり意識していない人も多いと思うが、今や必須アイテムになりつつある衝突被害軽減ブレーキも自動運転のひとつだ。現在の自動運転の定義は、主に5段階に分けられており、運転支援のレベル1、部分自動運転のレベル2、条件付き自動運転のレベル3、高度自動運転のレベル4、完全自動運転となるレベル5となる。この定義だと、ナイト2000は、レベル5となるわけだ。

最新の市販車に搭載される高性能な運転支援機能は、自動車専用道路で一定条件を満たした場合のハンズオフ運転、つまり手放し運転までを実現している。もっとも有名なのが、「日産プロパイロット2.0」だろう。しかし、これを上記のレベル分けで示すと、レベル2に該当する。かなり高度な技術であるが、あくまで部分自動運転なのだ。現在の市販される自動運転技術は、レベル2まで。より高度な自動運転技術も話題となるが、それらは開発中の技術で、公道での走行は実証実験に留まる。なぜレベル2止まりなのかといえば、それはレベル3以上では、運転の主体がクルマとなるためだ。もし自動運転機能が作動中に事故を起こすと、それはクルマの責任となる。それだけに自動車メーカーと行政は、レベル3以上の自動運転に慎重なのである。ベル3以上の自動運転に慎重なのである。その壁を始めて世界で打ち破り、市販車でのレベル3を実現したのが、ホンダの新型「レジェンド」なのだ。

このクルマを簡単に説明すると、現行型レジェンドに、レベル3の内容を含む新たな運転支援パッケージである「ホンダ センシング エリート」を搭載したもの。そのため、ビジュアルは、現行型レジェンドとほとんど同じ。内装にも大きな変化はない。しかし、良く観察すると、ボディに装備されたセンサーの多さに気がつく。カメラとセンサーの総数は、なんと12個にも及び、そのうち5つは、高精度なライダーセンサーだ。これらのセンシング機能がクルマの目の役割を担う。

さらに高度な運転支援の実現には、高精度地図とGPSや準天頂衛星などを用いた正確な自車位置認識も必要だ。これらの情報を総合し、車両側のコンピューターが、認知・予測・判断を行い、アクセル、ブレーキ、ステアリングの制御を行う。もちろん、アクシデントに備え、ブレーキやステアリングなどの作動系統を二重に備え、サイバーセキュリティにも対応するなど極めて信頼性の高いシステムが構築されているのも特徴だ。

レジェンドの世界初となるレベル3の運転支援機能は、「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転機能)」だ。これはハンズオフ機能付車線内運転支援機能で走行中に、渋滞に遭遇すると、一定の条件下で、システムがドライバーに代わり、周囲の監視を行いながら、運転を行うというもの。この間、ドライバーは、運転操作の周囲の監視の両方から解放される。その間は、通常走行中は行えない、ナビの操作、テレビやDVDの視聴などができるのだ。もちろん、渋滞が解消され、ドライバーとの運転交代が必要な際には、即座に対応する必要がある。そのため、睡眠に加え、スマートフォンの操作や読書などの作業も禁止。それを防ぐべく、ドライバーの状態を監視するモニタリングシステムも備わっている。

実際に、渋滞に遭遇すると、音や表示で渋滞支援機能の作動を知らせてくれる。普通ならば安全運転の為に御法度となるDVDやTVを鑑賞できるのは、ちょっと感動的だ。これならば、長距離通勤や混雑時のドライブの負担もかなり減りそう。しかし、交通状況は刻々と変化する。そのため、レベル3の機能は、意外と継続されないのが現実だ。なので、移動時間に映画鑑賞というのはちょっと厳しい。

しかし、それはシステムが連続して細やかな状況判断を行っている証拠でもある。高速道路などで多用できるレベル2のハンズオフを含む運転支援機能のレベルの高さには、非常に驚かされた。設定した上限速度内で高速道路の流れに合わせて、スムーズに駆け抜けていく。レジェンドのシステムには、ハンズオフ時の高度車線変更支援機能もあり、前走車が遅いと自動的に車線変更による追い越しを行い、再び、元の車線に戻ってくれる。もし追い越しを行おうとした時に、追い越し車線の後方から急接近するクルマがいれば、追い越しを中止するので、かなり信頼度も高い。もちろん、レベル2の状態は、ドライバーに監視義務があるが、レジェンドのシステムと良いコンビを組むことができた。警告などの決まったセリフしか言わないが、まさに頼れる相棒を得た気分になった。

自らドライバーになれば機敏な乗り心地

目的地が近づき、一般道に下ると運転は、ドライバーである私に。そこでレジェンドの運動性能の進化に気が付かされた。ノーマルのレジェンドは、主要マーケットであるアメリカを意識したゆったりとした乗り味が特徴。しかし、ホンダセンシングエリートを備える新レジェンドは、しっかりとした乗り味で動きも機敏。クルマ好きにも刺さるスポーツセダンにブラッシュアップされている。まるでレジェンドが、アメ車から欧州車に転身したという表現も大げさではないだろう。実は、この違いが、高度な運転支援機能を安定して作動させるための隠し味なのだ。

例えば、Gに変化が生じやすい旋回時、車体の姿勢変化が大きいと、車線内走行維持にも影響が出やすくなる。また俊敏かつ安定した動きは、連続した制御への影響も抑えられ、車両からの正確なフィードも得られる。それでいて違和感のない走りを実現しなければ、乗員の酔いにも繋がる。つまり、自動運転の進化とクルマの運動性能には、密接な関係があるのだ。

一般的には、自動運転はクルマをつまらなくすると言われているが、自動車メーカーが磨き上げてきた心地よい走りの味は、自動運転でも重要な価値となることを改めてレジェンドは教えてくれた。もちろん、今後も進化を続ける自動運転技術だが、市販までは様々なハードルが待ち構える。この先しばらくは、人とクルマが手を取り合いながら、安全な運転を実現していくことになる。リアルなナイト2000の登場は、まだ夢といえる。事実、市販された新レジェンドも、壮大な計画の一歩に過ぎない。ベースのレジェンドが724.9万円に対して、ホンダ センシング エリートを搭載する新レジェンドは、なんと1,100万円。しかも100台限定で3年間のリース販売のみと、ユーザーになるハードルも高いのだ。ただ開発費と手厚いバックアップ体制、高価なシステムなどを鑑みれば、これでもバーゲンプライスだ。

自動運転は、安全な交通社会やインフラの強化など様々な社会課題の解決策のひとつである。ただ世界初のレベル3を実現させたレジェンドは、味や個性という自動車メーカーのこだわりも、自動運転の性能を左右することを教えてくれた。もっとも運転の主体がクルマとなるレベル3は、まだ入口に立ったばかり。どんな進化を遂げ、どんなクルマが誕生するのか、期待は膨らむ。もうひとつの期待は、ナイト2000のAIである「K.I.T.T」のように会話が出来るクルマの実現だ。AIの研究開発も日進月歩を続けている。ひょっとすると、完全自動運転の実現の前に喋るクルマが現れるかもしれない。そんな空想も膨らんだ新レジェンドとのドライブであった。

TEXT=大音安弘

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