CAR

2021.04.29

【試乗】EV化の世界情勢でジャガーIペイスが持つ存在感とは?

歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

EVラグジュアリーカーブランドに

英国を代表する高級車ブランド「ジャガー」は、2021年2月に発表した新世界戦略「リイマジン」で、'25年からEVラグジュアリーカーブランドに生まれ変わることを宣言した。

昨年、欧州を中心とした厳しい環境規制をクリアすべく、自動車の電動化が急加速。自動車メーカー各社は、新EVに加え、既存モデルのマイルドハイブリッド(MHV)やプラグインハイブリッド(PHV)などの電動化車の投入が進めてきた。

さらに今年に入り、近い将来にフルEVメーカーへの生まれ変わりを宣言する自動車メーカーも現れた。この流れは、英国政府が昨年11月に、'30年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止すると発表したことが大きい。最初に掲げられた'40年というタイムリミットが10年も繰り上げられたのだから、その中で生き残りを掛ける自動車メーカーとしての覚悟を示したともいえるだろう。もちろん、電動車であるハイブリッドカーの新車は、'30年以降も販売可能だ。

しかしながら、'35年までに、実質的に排出ゼロとする極めて厳しい条件をクリアしたものでなければ販売できなくなるという条件付きである。世界的なカーボンフリーの流れも考慮すれば、英国を拠点とするジャガーとベントレーが、早々にEVブランドへの転身を発表したことは現実的な選択といえるだろう。確かに地球温暖化や環境保護という観点では、カーボンフリーを目指すことは大変意義があり、重要なことだ。しかしながら、急激な変化による反動が生じないかという懸念もある。

そんなニュースを受けて、改めてジャガーIペイスに乗ってみたくなった。Iペイスは、ジャガー初のEVとして'18年に発表されたクルマで、同年より日本での販売も開始された。翌年となる'19年の春先には、私も試乗を行っている。たった2年前のことだが、久しぶりに対面したIペイスに懐かしさを覚えた。その感覚は、この2年間に電動車が置かれた状況の変化を物語っている。もっとも国内EV普及率は、1%程度に過ぎない。つまり、それだけ関連ニュースや新型車が多かったということである。

異端的なクルマ

デザインのモダナイズやSUVラインアップの展開など、近年のジャガーは意欲的に改革に取り組んできたが、その中でもIペイスは異端といえる。もっとも特徴的なのは、そのスタイリングだ。腰高のSUV風に仕立てられているが、ルーフラインはクーペのよう。しかもボンネットは短く、その上、穴まで開いているのだから……。もちろん、このボンネットスクープには役割がある。フロントにエンジンが存在しないことを証明し、ノーズの低さも強調。性能面では、走行中にグリルから取り込んだ空気をこのスクープに流すことで、ルーフラインに綺麗な空気の流れを作り出す。これにより空気抵抗を低減させているのだ。

異端的なのはリヤスタイルも同様だ。大型のテールゲートをわざと段付きのデザインとし、ノッチバッククーペのような雰囲気を演出。そして、フロント部からの流麗なスタイルを断ち切るようなスクエアなリヤテールを与えている。単に流麗なスタイルでスポーティさを表現するのではなく、個性的なフォルムで躍動感をアピールすることで、Iペイスが単にジャガー初のEVでなく、新ジャンルの高性能車であることを表現したかったのだろう。

コクピットも先進性を示すべく、ジャガーの中で最も未来的なデザインに仕上げられており、メカニカルなボタンは最小限に留められ、シフトレバーもプッシュボタン式にするなど徹底したシンプルさを追求する。多くの車内装備の操作は、タッチスクリーンを通じて行う仕組みだ。走行性能についてはシンプルな設定のみで、ドライブモードによる味付けと回生ブレーキも強弱のみ。このシンプルさも、EVだからと気負わせない配慮かもしれない。

IペイスがSUVルックであるのは、ある意味必然ともいえる。大容量のバッテリーを内蔵させた上、快適なキャビンも与えなくてはならないからだ。そうなれば、キャビン下に大容量バッテリースペースを確保しやすいSUVは、EVに打ってつけ。しかし、そのSUVルックでもスポーツカー的なキャラクターを仕上げられるのが、EVの美点でもある。

その秘密は、モーターやバッテリーなどの重量物を全てフロア下に収めることで、低重心化が図れることだ。つまりドライバーの搭乗位置よりも車両の重心は低いので、クルマに機敏な動きをさせても走行安定性が高い。その運動性能の高いボディに、強力な電気モーターを組み合わせた。そんなIペイスの動力性能は、最高出力400ps、最大トルク696Nmにもなる。因みに、この最大トルクは、日本を代表するスポーツカー日産GT-Rの637Nmを上回るので、約2.2トンのIペイスの車重でも強烈な加速が生みだせるのだ。

実際、Iペイスのフル加速は、まさに猪突猛進。高速道路であっても瞬間的にしかフルスロットルは行えないほど。この加速の良さがEVの持ち味のひとつとなる。しかも駆動用バッテリーも90kWhの大容量のものを搭載するので、航続距離438km(WLTCモード)と長い。実際に、今回の試乗でも高速道路と市街地を合わせて360kmくらいは充電の心配なく駆け抜けてくれた。

高級車とEVの相性はいかに

Iペイスの快適な乗り心地や高い静粛性に触れると、高級車とEVの相性は悪くないと感じる。大容量バッテリーを搭載すれば、普段の充電に対する負担も少ない。しかしながら、EVが、真のグランドツーリングカーになれるかは、クルマだけでは解決できない問題でもある。例えば、旅の途中で、気軽に短時間で充電ができなければ、移動の自由は損なわれてしまう。それは些細なことかもしれないが、時として全てが台無しと感じるかもしれない。それはIペイスに限らず、EV全体が抱える課題である。将来的には、技術が解決してくれると期待する。そんなことを残り充電量が少なくなると、つい考えてしまう。それはIペイスが悪いわけでもなく、我々の気持ちの改革も必要なのだろう。新しく生まれたものに全てを求めるのは酷ではないかと……。

もちろん、楽しみもある。それはジャガーネス。つまりジャガーらしさが、今後EVでどう表現されるかという点だ。Iペイスには凄みはあるが、まだ味わいの境地には至っていない。ワインやウィスキーが熟成するように、ジャガーがどんなEVを生み育てていくのか、その過程も楽しんでいきたい。

TEXT=大音安弘

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