リトラクタブルハードトップを持つ「ポルトフィーノ」に続き、新たに加わった2+シーターGTベルリネッタ(クーペ)のFRモデル。1950~’60年代における伊ローマのライフスタイル“La Dolce Vita(ドルチェ・ヴィータ:華やかで自由気ままな生き方)”を現代的に解釈したコンセプトから、その名が与えられている。連載【NAVIGOETHE】Vol.54
“アンダーステイトメント”跳ね馬流の新様式
歴史の重みと現代の賑わいが背中合わせとなった街、ローマ。マラネッロの新作、その名もフェラーリ ローマは、そんな古都のデカダンスを一身に浴びて登場したV8エンジン搭載のグラントゥーリズモだ。
商品コンセプトを端的に語るべくマラネッロが用意したフレーズが、「ラ・ヌォーバ・ドルチェ・ヴィータ」、新・甘い生活。世界が’50年代終わりのあの浮き立った時代を満喫したのちに、マラネッロはシンプルで美しいグラントゥーリズモを量産し始めていたーーあの時代を再解釈するGTを。新型ローマはシルヴィアを追ってトレヴィの泉に飛びこむマルチェロの現代クルマ版、というわけである。
たとえ古都ローマのような特別な場所でなくても、日常の移動を上質なひと時へと変えてくれるパートナーを、マラネッロはつくりたかったのだろう。いつもの交差点の信号待ちでさえ、心が浮き立つようなーー。
余分な意匠を廃したピュアなウマ味
ローマのスタイリングは写真で見るよりもはるかにグラマラスで美しい。そして何よりクリーンだ。スポーツカーらしい逞(たくま)しさとイタリアンプロダクトらしい繊細さの塩梅は絶妙で、ひけらかさないラグジュアリーという新しい次元を提案する。パフォーマンスのみをやたらと追求し、その成果をエアロダイナミクスの証左としてひけらかす最新スーパースポーツのあり方とは一線を画したと言っていい。
なかでも真横から見たロングノーズ&ショートデッキのシルエットがいい。完璧なクーペでは決してない。ノーズはやや不自然に下がり、キャビンはかなり後方にあって、デッキは前半と不釣り合いに小さく見える。この絶妙な“崩し”こそが飽きのこないエレガンスを生みだす。ドアを閉め、ちょっと歩きだしてはまた振り返って見たくなる。そんなスタイリングだ。
その走りもまた、街中をゆっくり流すような場面においてはジェントルに徹していた。ソリッドな身体をラバーで包みこんだかのようなライドフィールで、軽快な動きと心地よさとを両立している。よくできたグラントゥーリズモでもあって、長距離ドライブも快適にこなした。休日の気晴らしはもちろん、ビジネスエクスプレスとしても有用だろう。現代における“甘い生活”の中心にビジネスを据える紳士にはなおのこと……。
とはいえ、マラネッロ産の駿馬ではあった。ひとたび駆け回る舞台を与えたならば、そのキャラクターはキレッキレのスポーツカーへと一変。ステアリングホイールのセレクターを『RACE』に合わせれば、ローマはたちまちマシーンと化すのだ。
切れば切るだけ曲がっていくなどという生易しさではない。まるで道をよく知る優秀な馬の如く、鋭く正確に曲がっていく。そのシャープさにスリルを感じつつ、はやる心を抑えてコーナーを脱出し、先が見えたなら間髪を容れずに右足を踏みこむ。一連のコーナーワークを思いどおりに果たすこと。そこにはビジネスの駆け引きにも通じる醍醐味があった。
ニンブルなハンドリングはドライバーの技量を試し、回せば回すほどにV8サウンドは咆哮となって騎手をけしかける。なるほど、マラネッロもそう謳(うた)うように、ローマはドレスド・マシーンというにふさわしい。
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