美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が、"買う"という視点でアートに切り込む本連載。映画などでは見たことがあるオークション。会場に座って、狙いをつけた作品が登場したら、パドル(番号札)を上げる。その値段なら欲しい、自分以外にもパドルを上げているライバルがいる。予算額上限に来て、まだ頑張るか、降りるのか、迷う。そんな競りにいつかは参加したいと思いませんか? 先日行われた現代美術オークションを見てきました。
お買い物というよりも力(資金力)でねじ伏せるハンティングに近い!?
「オークション」と聞くと、まず何を思い浮かべるでしょうか。「レオナルド・ダ・ヴィンチの幻の作品が500億円以上で落札!」は驚天のニュースだったねという人、「映画『セックス・アンド・ザ・シティ』の始まりで出てきた宝石のオークション」に憧れる人、「僕、いろいろとネットオークションで買ってますよ」という人までいろいろでしょう。
有名オークション会社が扱うものというと、美術品、宝飾品、時計、ワインなどありますが、頻度も多く、常に話題になるのは美術品でしょう。古美術、近代美術などジャンルは分かれていますが、やはり現代美術が一番の華。それは落札額が大きいということ、つまり欲しがる人が多くて競り上がりやすいということ、もともとの美術品の値段をある程度、知ってて、(ちょっと前はあの値段で買えたのに…的な)その上昇ぶりに夢を見たり、悔しい思いをするということもあると思います。
先日、日本の現代アートシーンのなかで重要な位置を占めている「SBIアートオークション」に行ってきました。現代美術コレクターを自認する人なら聞いたことがあるでしょう。10年ほどの歴史ながら、現代美術に特化したオークションで、日本では最も注目されているオークションと言えます。
特に去る2022年3月12日に行われたオークション「Tokyo Contemporary: Redefined」はいつにも増して、特別な盛り上がりがありました。というのも、現代美術のマーケットが活性化している状況のなか、日本最大級の国際アートフェアである「アートフェア東京」(2022年3月10日~3月13日、東京国際フォーラムにて開催)と会期と場所を一致させて行うという画期的な試みだったからです。
オークション会場として、東京国際フォーラムの一つのホールを使っていたので、天井も高く、オークショニア(オークションを仕切り、落札時にハンマーを打つ人)の声も響き、なんとなく海外のオークションに来ている感じで、気分も上がります。オークションカタログは、オークションされる順番に作品の写真や作品データ、来歴(扱ったギャラリーや展覧会出品記録など)が載った豪華なもので、そのページを繰りながらオークションの進行を見ていくのですが、今回のカタログはクロス張り装丁で一層、プレステージを感じます。
オークションのタイトルどおり「東京の現代美術を再定義」できたのでしょうか。結果から言うと、11億円を超える総計落札額は大成功でしょうし、総ロット75のうち、74ロットが落札されました。しかも、予想落札価格の枠を大きく超えて、落札された作品がいくつもありました。自身のオークションレコードを更新したアーティストも複数いて、東京の現代美術マーケットの活況ぶりを「再定義」したかもしれませんね。
後半に入ると人気アーティストが続きます。ロッカクアヤコ(予想落札額1,500万円〜2,500万円に対して、落札額8,050万円[手数料込。手数料の消費税別])、奈良美智(予想落札額5,000万円〜8,000万円に対して、落札額1億810万円[手数料込。手数料の消費税別])、草間彌生(予想落札額8,000万円〜1億4000万円に対して、落札額1億6100万円[手数料込。手数料の消費税別])などはその例です。
終盤は海外作家です。エド・ルシェ、アンディ・ウォーホル、イヴ・クライン、ジェニー・ホルツァー、ゲルハルト・リヒター、ダミアン・ハースト、カウズ、バンクシー、デイヴィッド・ホックニー…。
全体を通して、アートの人気ぶり、生々しい取り引き状況を見て、落札できる人に羨ましさを感じつつも、アートっていいねという思いが残りました。お買い物のショービジネス化という面もあるかもしれませんが、好きなミュージシャンのライブのあとの充実感とか心地よい疲労感に近いかな。
今回はいつもよりも点数を絞ったオークションだったこともあり、全体に人気アーティストの高額な作品が多かったのは事実ですが、オークションの回によっては、さらに若手の作品や版画、アートグッズ的なものを扱うこともあり、十数万円から落札できる場合もあるので、それなら参加もしやすくお薦めです。SBIアートオークションのカタログは立派な冊子(ウェブサイトのフォームから登録すると無料で送ってもらえる)とオンラインカタログがあります。
次回のSBIアートオークションは2022年4月15日(金)〜16日(土)。こちらはオンラインオークション。会場に参加できるオークションは2022年5月27日(金)〜28日(土)。代官山のヒルサイドフォーラムで。詳しくはオークションのサイトで確認してください。
Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。