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2022.03.29

現代アートのオークションに行ってみよう──鈴木芳雄 連載「アートというお買い物」Vol.1

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が、"買う"という視点でアートに切り込む本連載。映画などでは見たことがあるオークション。会場に座って、狙いをつけた作品が登場したら、パドル(番号札)を上げる。その値段なら欲しい、自分以外にもパドルを上げているライバルがいる。予算額上限に来て、まだ頑張るか、降りるのか、迷う。そんな競りにいつかは参加したいと思いませんか? 先日行われた現代美術オークションを見てきました。

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入札者が複数いるうちはオークショニアが価格を5%〜10%刻みで吊り上げていく。「500万円、530万円、550万円、570万円、600万円・・・」。最後は降りる側に最終価格を確認して終わる。写真/SBIアートオークション株式会社

お買い物というよりも力(資金力)でねじ伏せるハンティングに近い!?

「オークション」と聞くと、まず何を思い浮かべるでしょうか。「レオナルド・ダ・ヴィンチの幻の作品が500億円以上で落札!」は驚天のニュースだったねという人、「映画『セックス・アンド・ザ・シティ』の始まりで出てきた宝石のオークション」に憧れる人、「僕、いろいろとネットオークションで買ってますよ」という人までいろいろでしょう。

有名オークション会社が扱うものというと、美術品、宝飾品、時計、ワインなどありますが、頻度も多く、常に話題になるのは美術品でしょう。古美術、近代美術などジャンルは分かれていますが、やはり現代美術が一番の華。それは落札額が大きいということ、つまり欲しがる人が多くて競り上がりやすいということ、もともとの美術品の値段をある程度、知ってて、(ちょっと前はあの値段で買えたのに…的な)その上昇ぶりに夢を見たり、悔しい思いをするということもあると思います。

先日、日本の現代アートシーンのなかで重要な位置を占めている「SBIアートオークション」に行ってきました。現代美術コレクターを自認する人なら聞いたことがあるでしょう。10年ほどの歴史ながら、現代美術に特化したオークションで、日本では最も注目されているオークションと言えます。

特に去る2022年3月12日に行われたオークション「Tokyo Contemporary: Redefined」はいつにも増して、特別な盛り上がりがありました。というのも、現代美術のマーケットが活性化している状況のなか、日本最大級の国際アートフェアである「アートフェア東京」(2022年3月10日~3月13日、東京国際フォーラムにて開催)と会期と場所を一致させて行うという画期的な試みだったからです。

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下見会の様子。中央にイヴ・クライン《サモトラケのニケ》、右端は河原温のデートペインティング、その左は草間彌生のインフィニティネット。写真/SBIアートオークション株式会社

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こんなに近くで、ガラスも無く作品を見ることができるなんて、と初めての時は下見会に驚く。写真/SBIアートオークション株式会社

オークション会場として、東京国際フォーラムの一つのホールを使っていたので、天井も高く、オークショニア(オークションを仕切り、落札時にハンマーを打つ人)の声も響き、なんとなく海外のオークションに来ている感じで、気分も上がります。オークションカタログは、オークションされる順番に作品の写真や作品データ、来歴(扱ったギャラリーや展覧会出品記録など)が載った豪華なもので、そのページを繰りながらオークションの進行を見ていくのですが、今回のカタログはクロス張り装丁で一層、プレステージを感じます。

オークションのタイトルどおり「東京の現代美術を再定義」できたのでしょうか。結果から言うと、11億円を超える総計落札額は大成功でしょうし、総ロット75のうち、74ロットが落札されました。しかも、予想落札価格の枠を大きく超えて、落札された作品がいくつもありました。自身のオークションレコードを更新したアーティストも複数いて、東京の現代美術マーケットの活況ぶりを「再定義」したかもしれませんね。

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平子雄一《Lost in Thought 5》2014
カンヴァスにアクリル 裏面にサインと日付
2018年、東京オペラシティ アートギャラリーでの展示記録あり
予想落札価格 300万円〜500万円に対して、最後、会場とオンラインの一騎討ちになり、落札価格は2,760万円(手数料込。手数料の消費税別)。予想落札価格超えはオークション序盤の若手作品で特に際立っていました。ハビア・カジェハ、大山エンリコイサム、中園孔二、井田幸昌、今井麗、さいあくなな、中村萌、平子雄一。いずれも、1980年代〜90年代生まれのアーティストたちです。

草間彌生作品は3点出品されていた。カボチャの立体と平面。そしてこのインフィニティネット。どれも人気モティーフだが、これが最大で最高額。落札額は1億4000万円、これに手数料が15%、その手数料に消費税がかかる。

後半に入ると人気アーティストが続きます。ロッカクアヤコ(予想落札額1,500万円〜2,500万円に対して、落札額8,050万円[手数料込。手数料の消費税別])、奈良美智(予想落札額5,000万円〜8,000万円に対して、落札額1億810万円[手数料込。手数料の消費税別])、草間彌生(予想落札額8,000万円〜1億4000万円に対して、落札額1億6100万円[手数料込。手数料の消費税別])などはその例です。

終盤は海外作家です。エド・ルシェ、アンディ・ウォーホル、イヴ・クライン、ジェニー・ホルツァー、ゲルハルト・リヒター、ダミアン・ハースト、カウズ、バンクシー、デイヴィッド・ホックニー…。

全体を通して、アートの人気ぶり、生々しい取り引き状況を見て、落札できる人に羨ましさを感じつつも、アートっていいねという思いが残りました。お買い物のショービジネス化という面もあるかもしれませんが、好きなミュージシャンのライブのあとの充実感とか心地よい疲労感に近いかな。

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NFT作品も1点出品された。
エキソニモ《Web Safe Cups #000000-#FFFFFF》2022年
予想落札価格 50万円〜100万円のところ、189万7500円(手数料込。手数料の消費税別)で落札された。

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会場正面に向かって右側にはオンライン入札者と電話入札者の対応をするスタッフのブース。つまり、今このオークションに世界中から参加してる人がいるということ。写真/SBIアートオークション株式会社

今回はいつもよりも点数を絞ったオークションだったこともあり、全体に人気アーティストの高額な作品が多かったのは事実ですが、オークションの回によっては、さらに若手の作品や版画、アートグッズ的なものを扱うこともあり、十数万円から落札できる場合もあるので、それなら参加もしやすくお薦めです。SBIアートオークションのカタログは立派な冊子(ウェブサイトのフォームから登録すると無料で送ってもらえる)とオンラインカタログがあります。

次回のSBIアートオークションは2022年4月15日(金)〜16日(土)。こちらはオンラインオークション。会場に参加できるオークションは2022年5月27日(金)〜28日(土)。代官山のヒルサイドフォーラムで。詳しくはオークションのサイトで確認してください。

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

TEXT=鈴木芳雄

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