40、50歳になると、仕事や人生の大枠が見えてくる。今の自分のままでいいのだろうか。少しでも可能性があるのなら、時に大胆に舵を切ることによって人生がより楽しくなる。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vo.19。
自分へのリスタートをして、新たな自分を発見しにいく
パラリンピックの開会式で、全盲のギタリストらとともに、デコトラの上でギターを演奏した布袋寅泰(ほていともやす)さん。その姿を、心からカッコいいと思いました。布袋さんのような表に立ち、人を惹きつける人は他の人とは違う何かを持っています。でも人は誰しも、人とは違う部分を持って生まれてきている。それは誰もが平等に持っているものだけど、それを言えるか、言えないか。出せるか、出せないか。いわば個性、才能と呼ばれる部分を、自分がどう選択するかによって、今の自分があるのではないでしょうか。
布袋さんは常に自分の立場を俯瞰し、何ができるのかを探し、メッセージを発信し続けています。そんな布袋さんからは年齢を超えた情熱とエネルギーをいつも感じ、お会いするたび「今の僕はこれでいいのか」と考えるきっかけをもらっています。
20歳でBOØWYのギタリストとしてデビュー。わずか6年後に解散を発表し、1988年の「LAST GIGS」は、伝説の解散ライヴとなりました。そこからひとりのミュージシャンとなり、ギタリズム(ギターとリズムを組み合わせた布袋さんの造語)を確立し、プロデューサー、役者、コンポーザーなど、さまざまな分野で活躍。でもその環境に甘んじることもなく、2012年に長年の夢をかなえるべく「海外でチャレンジしたい」と家族とともに渡英。再びゼロからの挑戦を始めた姿勢には尊敬しかありません。
実は僕がデザイナーという仕事に加え、趣味だった写真で海外で勝負しようと思ったのは、そんな布袋さんの背中を見て、勇気をもらったからです。
仕事をしているとブレーキを踏みがちになります。そこでアクセルを踏みこむには、自分の知識と経験、それを上回る勇気が必要です。布袋さんはある意味自分へのリスタートが上手い人なのではないでしょうか。今必要なものさえも、次のものを手にいれるために、潔く新たな道へと踏みだしていく。そして大きく舵を切る大胆さ。なぜわざわざそれをするのか。それは単に自分が見たことがない自分を見たいからです。
でも、それが失敗したり、自分の思いどおりにいかなかったりすることも時にはあります。布袋さんも渡英した最初の頃は、厳しかったと聞きました。最近ではコロナ禍で皆が集まれずアルバムを作れない状況で、世界中の友人と連絡を取り合って1枚のアルバムを作り上げたりと、その場に置かれた状況を諦めないという姿勢があった。そんな布袋さんの姿に僕はいつも学ばせていただいています。窮地だからこそ、冷静かつ大胆にアクションすることで状況をも変えてしまう。時に失敗しながらも、繰り返し前進することで、周りを感動させたり、巻きこめる人になっていく。有事に冷静にはなれても、ピンチの場で大胆なアクションに出られる人は、あまり多くはありません。だからこそ、それを選択した人だけが得られる結果だと思うのです。
40、50代になると、仕事においても人生においても、自分という大枠がおおむね見えてきます。僕もそうでした。でも何か違うこともできるんじゃないかと、見えない自分への期待が高まるのです。新しい自分と出会うために、時に大胆に動く必要があるのかもしれません。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。