3月6日(土)、7日(日)に開催される「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021」。このフェアを手がける現代美術家・椿 昇氏と彫刻家・名和晃平氏に、未曽有の危機の時代にアートが必要とされる理由について聞いた。
アーティスト自らが作品を届ける“産地直結型”のフェア
ーー今回で4回目を迎える、アーティスト主導のアートフェア「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021」。作家自身が企画、運営、出品するという新しいスタイルのフェアとして、国内外から大きな注目を集めている。このフェアのディレクターである椿 昇氏とアドバイザリーボードの名和晃平氏は、ともに京都芸術大学で教鞭を取っており、和やかな雰囲気で対談は始まった。
椿 アーティストがアーティストを育てるアートフェア、それが「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021」です。もともとは、僕が学科長を務める京都芸術大学芸術学部美術工芸学科の卒業制作展を、お客さんを招待して学生の作品を販売するという形式にしたのがきっかけ。その卒展の評判を聞いた京都府からアートフェア開催の相談を受けて、同じ大学で教授をしている名和さんにお声がけをしました。
名和 当時、椿さんの構想を聞いた時はびっくりしましたよ。ギャラリーがメインとなって作品を展示、販売する一般的なアートフェアは、ビジネスのロジックで成立していますが、「ARTISTS’ FAIR KYOTO」はそうではありません。僕たちアーティストが推薦した若い作家が、作品の価格を自分で考えて決め、来場者たちに直接プレゼンテーションをして、その場で売る。ギャラリーやキュレーターなどを介さずに、すべて自分たちでやろうと。若手のアーティストたちがこの先、生き残っていくために、生の現場で勝負をさせる。そんな教育的な思想が根底にあるのが、普通のアートフェアとのかなり大きな違いです。
椿 アドバイザリーボードの方々も作品を出展するので、そのやり方を見て学べることも大きいですね。
名和 海外ではギャラリーの力がとても強いので、こういう試みはなかなかできません。世界的に見ても、かなり珍しいフェアだと思います。
椿 ギャラリストやキュレーターに見いだされたり、コレクターに作品を買ってもらえる作家は、ほんのひと握り。若手にとって、ギャラリーとの契約やアートフェアへの出品なんて夢のまた夢で、結局そこに到達する前に辞めてしまう人が多い。そんな状況を変えるためにも、若手が育つための仕組みづくりが必要だと、昔から感じていました。
名和 このフェアはコレクターにとっても、有望な若手の作品に確実に出合える数少ない場所。先輩アーティストが若手作家を推薦するカタチなので、質の高い厳選された作品が集まっています。
椿 言い換えれば“道の駅”みたいな。新鮮な才能を直接買いたい人へ届ける。生産者の顔も見える、まさに産直(笑)。いい作家に出会える機会を、アーティスト自身が作っている感じですね。それに、この「ARTISTS’FAIR KYOTO」でアートを初めて買うという方も多いと聞きます。
名和 アーティストだけではなく新たなコレクターが同時に生まれていることも、このフェアの大きな意義ですね。京都は美大も多いし、若いアーティストがどんどんインキュベーションされている都市。そういったエネルギーを感じてもらう象徴的な場所でもあると思います。
椿 ビッグコレクターも初心者コレクターも、若手もベテランのアーティストも、全員対等に平場で真剣勝負できるのがこのフェアの醍醐味。それに、会場は内部に金網を組んだデザインになっているので、全員檻のなかに入れられて、まさに金網デスマッチみたいな雰囲気になっています。
名和 確かに(笑)。あと、根本にあるのはアーティストの自立支援。以前のフェアでは、僕が推薦したアーティストの作品が売れたのですが、本人は感動して泣いていました。そのアーティストの作品が生まれて初めて売れた瞬間に立ち会ったんです。誰かが自分の作品を理解してくれることは、作家にとって心強いことですし、創作を続ける大きなモチベーションにもなります。
椿 このフェアに来れば、「アーティストの未来に投資していきたい!」という気持ちになると思いますね。
名和 僕も大学院時代に初めて作品が売れた時は、自分の表現が肯定されて受け入れてもらえたのだと感じて、すごく嬉しかった。でも同時に、自分の作品に値段がついたことにも驚いたんです。自分のやっていることにはどんな価値があるのか、改めて考えさせられました。
椿 名和さんが言うように、このフェアがアートの価値とは何かということを問い直すきっかけになればいいと思います。一般的なプロダクトの価値は「この商品はいくら」という交換価値。でも「ARTISTS’ FAIR KYOTO」を通して得られるのは、“体験価値”です。作品に出合い、生身のアーティストと話して作品の意味を知ることで、これまで自分が考えてもいなかった新しい価値観の扉が開いていく。そういった体験が人生にもたらすものは、大きいのでは。
名和 作家自身の価値観で生まれるのが、アート。そんなフィジカルな感覚を内包していることは、大量生産されるプロダクトの価値観とはまったく違うものだと思います。
椿 そこには、今だからこそアートが必要とされる意味もある。コロナによってみんな、心の拠り所がなくなっているというか、浮遊感のなかで生きているような感覚に陥っていると思います。でも、アート作品からは生のアーティストの息遣いや存在を感じることができます。そんなアートが持つ“物質感”に、多くの人が魅力を感じているのではないかと。「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021」でも、そんな体験を味わってみてほしいですね。
アートシーンの最前線を体感
京都を舞台に開催される「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021(アーティスツ フェア キョウト)」。若手アーティストを推薦するアドバイザリーボードには、名和氏のほか塩田千春、加藤 泉、松川朋奈、ヤノベケンジ、宮永愛子など錚々(そうそう)たる現代アーティスト17名が参加。それぞれの視点で若手アーティストを選出し、公募含め43組の作品が並ぶ。
ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021
日程:2021年3月6日(土)、7日(日)
会場:京都府京都文化博物館 別館/京都新聞ビル B1
時間:10:00~18:00
料金:一般¥1,800、学生¥1,000、高校生以下無料
※京都新聞ビルB1は無料
※チケットはオンラインにて事前予約制、販売は1月中旬を予定
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問い合わせ
ARTISTS’ FAIR KYOTO実行委員会 TEL:075-414-4222(10:00~17:00/土曜・日曜・祝日休み)
Noboru Tsubaki
1953年京都府生まれ。京都芸術大学教授。長年アート教育に携わる。地域再生のアートプロジェクトや内需マーケット育成のための活動を続け、2018年に「ARTISTS’ FAIR KYOTO」のディレクターに。アートを持続可能社会実現のイノベーションツールと位置づける。
Kohei Nawa
1975年大阪府生まれ。Sandwich Inc.主宰。京都芸術大学教授。セル(細胞・粒)という概念を機軸として、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生みだしている。近年は、建築やパフォーマンスのプロジェクトも手がける。