前澤友作氏が2012年に設立した現代芸術振興財団。同財団が主催するアートアワード「CAF賞」「CAFAA賞」は、数多くの若き才能を見いだしてきた。そこでディレクターの渡部ちひろさんに、過去の受賞者から今注目すべきアーティスト6名を選んでもらった。
川内理香子/『Forest of the night』
根源的な身体活動を表現研ぎ澄まされた線に惹かれる
ドローイングやペインティングのほか、針金や樹脂、ゴムチューブ、ネオン管など多彩な素材を用いて、身体活動をテーマにした作品を制作。食事やセックスなど、肉体的コミュニケーションのなかで見え隠れする、自己や他者の曖昧な関係性を表現する。「彼女は食に対する思い入れが強く、その興味をダイレクトに表現しながら、アートに昇華させています。自らの身体感覚から生みだされた、繊細な線描(せんびょう)が魅力ですね。11月に『Rikako Kawauchi drawings 2012-2020』が刊行されたばかり。初のドローイング作品集で、彼女の“線”を堪能してください」
Rikako Kawauchi
1990年東京都生まれ。多摩美術大学大学院美術学部絵画学科油画専攻修了。東京を拠点に、個展や作品集の刊行など、幅広い活動を行っている。2014年に「CAF賞」保坂健二朗賞を受賞。
サカイケイタ/『ミッケ』
ディスレクシアの視点から「見る」という行為を探求する
文字が模様に見え、読み書きが困難になるディスレクシアという障がいを抱えるサカイケイタは、日常生活で感じる周囲との「認識のズレ」をテーマに、彫刻作品やインスタレーションを制作している。「文字の意味がぼやけ、曖昧なものとして見える。そんな経験を誰もが一度はしたことがあるのではないでしょうか。そうした“エラーで見る世界”は意外に身近。特殊なようでありながら、すっと心に入りこんでくるものでもあります。12月30日まで個展『Underline ― 生活の記号と関わる』が、渋谷ヒカリエ8Fにて開催中。彼の作品はとても見ごたえがあります」
Keita Sakai
1997年東京都生まれ。武蔵野美術大学大学院蔵系研究科美術専攻彫刻コースに在籍中。「Rulebook Exhibition」や「へーはーほー展」など、精力的に個展を開催する。2019年に「CAF賞」最優秀賞を受賞。
畑山太志/『空に返す』
真っ白なキャンバスから緻密な描写が浮かび上がる
目で捉えることはできないが、身体が確かに感じとる空気感や存在感の視覚化に挑む畑山太志。その代表作といえる白基調の絵画シリーズは、色彩が削ぎ落とされ、一見、何も描かれていないように見える。だが、そこには何かがある。「作品から距離をおいて立ち、徐々に近づいていくと、遠くからは見えなかった緻密な描写が立ち上がってくる不思議な感覚を体験することができます。白い絵のほか、色彩を取り入れた新しい展開も。ギャラリーのほか、セゾン現代美術館や明治神宮ミュージアムでも作品が紹介され、活躍の場を着実に広げています」
Taishi Hatayama
1992年神奈川県生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画研究領域修了。身体が持つ知覚を手がかりに、目に見えない世界を表現。2014年に「CAF賞」優秀賞・名和晃平賞を同時受賞。
木村翔馬/『White Draw(1)』
アナログとデジタルが交差する現代のもどかしさをアート化
筆や絵具を用いる従来の絵画と、3DCGやVRによる作品の両方を制作している。デジタル技術は浮遊する線や色面といった新たな表現の可能性を開くが、その一方でリアルな筆とは違って思うように扱えないもどかしさがある。そんなデジタルとアナログが重なり合う現代ならではの身体的、視覚的感覚をアート化している。「『CAF賞』受賞時はデジタル・ネイティブ世代のアーティストという印象。でも、その後の活動を追っていくなかで、“絵画を更新したい”という野心的かつ伝統的なテーマが見えてきました。めざましい速度で成長を続ける作家さんです」
Shoma Kimura
1996年大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻修了。2020年、京都市京セラ美術館にて、個展「木村翔馬:水中スペック」を開催した。’17年に「CAF賞」最優秀賞を受賞。
根本祐杜/『NEW SHIT PRESIDENT』
ユニークな作風の裏に潜む社会風刺に考えさせられる
2020年の個展で、『NEW SHIT PRESIDENT』、別名『うんこに埋まっているおじさん』という立体作品を発表し、観客の度肝を抜いた根本祐杜(ゆうと) 。うんこのおじさんが面接会場に現れるという設定で、社会というシステムに迎合できるようフォーマット化して行われる面接について、考察していく。「鑑賞者の笑いを誘うユーモラスな作風の裏には、根本さん自身の体験が潜んでいます。『NEW SHIT PRESIDENT』も、面接でうまく振る舞えたことがほぼないという根本さんの過去の実体験がベース。彼の作品を見た後は、社会のあり方についてじっくりと考えさせられます」
Yuto Nemoto
1992年千葉県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程彫刻専攻に在籍中。絵本制作からラップ制作まで、多様なメディアを横断しながら活動している。2018年に「CAF賞」最優秀賞を受賞。
松下まり子/『蛇の夢』
多彩なメディアを駆使して剥きだしの生を表現する
ロンドン・デルフィナ財団のアーティスト・イン・レジデンスに参加した経験を持つ松下まり子。生々しい肉体を描いたペインティング、ロンドンの街中に生息するキツネを追いかけた映像作品など、多様な表現方法で作品を制作する。「どの作品からも共通して、血肉の匂いまで漂ってくるようなズシンとした力を感じます。彼女自身が目撃した、あるいは全身で体験した事象が作品に昇華されていて、ずっと追いかけていきたいと思わせてくれます。12月30日まで銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUMにて個展を開催しているので、足を運んでみてください」
Mariko Matsushita
1980年大阪府生まれ。京都市立芸術大学油画専攻卒業。主な個展に2018年「RAW」、’19年「Oasis」、’20年「居住不可能として追放された土地」などがある。’16年に「CAFAA賞」最優秀賞を受賞。
「CAFAA賞2020」のファイナリスト3名を選出!
次世代の柱となるアーティストを選抜し、国際的な活躍を後押しすることを目的に、2015年より不定期に開催されている「CAFAA賞」。今年で3回目を迎え、300件を超える応募のなかから3名のファイナリストが選出された。2021年春に、個展および最終選考・表彰式が行われる予定だ。
田口行弘
1980年大阪府生まれ。東京藝術大学美術学部油絵科卒業。訪れた場所で見つけた素材や廃棄物を使ってインスタレーションを制作。その過程やイベントを映像に落としこみ作品化する。
金沢寿美
1979年兵庫県生まれ。京都精華大学大学院芸術研究科修士課程修了。2013~’14年には北朝鮮に最も近い島、ペンニョン島に滞在し、実際の鉄条網を使ったプロジェクト作品を発表した。
AKI INOMATA
1983年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。生きものとの関わりから生まれるもの、あるいは、その関係性を提示した作品を制作している。
Chihiro Watanabe
公益財団法人現代芸術振興財団ディレクター。1988年神奈川県生まれ。慶應義塾大学にて美学美術史学を専攻。2015年より前澤友作氏が会長を務める現代芸術振興財団に勤務。前澤氏の作品購入のサポート、展覧会の企画などを担当。