イタリアワイン好きがその名を聞いただけで“気分が上がる”のが「ビオンディ・サンティ」。1888年の誕生以来、“ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの最高峰”を守り続ける理由を、来日した最高栽培醸造責任者のフェデリコ・ラディ氏が教えてくれた。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ誕生秘話
バローロやバルバレスコと並んで“イタリア三大銘酒”と称されるのがブルネッロ・ディ・モンタルチーノだ。芳醇でまろやかな味わいで、限りなくエレガントなスタイル。そのオリジナルであり、“最高峰”と熱狂的支持者が多いのが「ビオンディ・サンティ」だ。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの誕生は1865年に遡る。ビオンディ・サンティ家の2代目であるクレメンテ・サンティ氏が、畑に植えられていたサンジョヴェーゼが、この地で「ブルネッロ」と呼ばれていたサンジョヴェーゼ・グロッソであることに気づいた。その後、3代目のフルッチョ・ビオンディ・サンティ氏がこのサンジョヴェーゼ・グロッソのみを用いたワインの醸造を開始、1888年に“ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ”と名づけられたワインが誕生した。
最高栽培醸造責任者のフェデリコ・ラディ氏はこう話す。
「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを生み出したのは、確かにビオンディ・サンティでした。ですが、サンジョヴェーゼ・グロッソという品種を生み出したのかというと、厳密には少し違います。実は、サンジョヴェーゼという品種は、テロワールに影響されやすい品種で、育成環境によって容姿が異なるという特徴があります。実は、サンジョヴェーゼ・グロッソも遺伝子的にはサンジョヴェーゼと同じであることが近年の研究で判明しています。ただ、モンタルチーノの土地で育てると粒が大きく、果皮が厚くなるという特徴を持つため、当時の農学者たちはその様相からサンジョヴェーゼ・グロッソと命名したのです。サンジョヴェーゼは“生みの親”より“育ての親”の影響を受けやすい品種といってもよいかもしれません(笑)」
では、それだけで、“ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの最高峰”と言われるワインが誕生したのかというと、それも違っている。
「サンジョヴェーゼは酸味と渋みが強い品種で、当時はまろやかな味にするためにマルヴァジァなどの多品種をブレンドしていました。ですが、フルッチョは、サンジョヴェーゼに熟成の大きなポテンシャルがあることに気づいたのです。そこで、サンジョヴェーゼ100パーセントのワインを造り、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノと名づけて熟成させたのです。結果、素晴らしいワインが誕生しました」。
“歴史”を物語る深い魅力
その後のブルネッロ・ディ・モンタルチーノの躍進は周知の通り。瞬く間に世界の舞台へと躍り出、高い評価を得た。モンタルチーノでは「ビオンディ・サンティに続け」とばかりに多くの生産者がブルネッロ・ディ・モンタルチーノを手がけ、ビオンディ・サンティのようにクラシカルでエレガントなスタイルがある一方、果実味にフォーカスしたモダンでスタイリッシュなスタイルのワインも誕生し、今では百花繚乱の様相を見せている。だが、数あるブルネッロ・ディ・モンタルチーノの中でも「ビオンディ・サンティ」が特別な存在であり続ける理由はなぜなのか。
その問いにラディ氏は満面の笑顔で答えてくれた。
「ビオンディ・サンティを飲むことは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの歴史の扉を開けるような高揚感を覚えるからではないでしょうか。私自身、この役職に就いた時は光栄に思いつつ、緊張しましたからね(笑)」。
現在、ラディ氏はこの“歴史ある味”をさらに進化させるために、4つの柱を指針とし、栽培を行っているという。
「1つ目は再生農法の導入です。畑をより健康にするために除草剤は不使用、土壌中に有機物をもたらすカバークロップを植えるなど畑作りに注力しています。2つ目はそれぞれの畑の区画をより詳細に知るために、畑の深部まで掘削し、マイクロテロワールの調査を行っています。3つ目は樹齢の高い樹の遺伝子を守るために、畑の中から優良な樹を選んで接ぎ木をするマッサール・セレクションを実施。そして4つ目は地球温暖化に対応するために、ブドウの垣根栽培をI字型からV字型に変換し始めています。これにより、ブドウの房は葉に守られ、直射日光を受けにくくなるのです。緻密な栽培により良質なブドウができることで、私たちの味も守られ、次世代に繋げることができると信じています」。
歴史と栄光に頼ることなく、常に未来を見据えて“今できること”を着実に行うビオンディ・サンティ。揺らぐことのない王座を守り続ける秘密に触れた気がした。
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