世界の最新潮流を知るクラフトボトルショップオーナーが日本の気鋭ブルワリーの注目銘柄をピックアップ。【特集 ニッポンのSAKE】
次世代ブルワーが台頭する日本のクラフトビール
通説ではビールの歴史は5000年以上。そもそもは、土地で収穫した麦や農作物を発酵させた飲み物。その意味で、ビールは土地の個性を反映させた農作物、と言ってもいいかもしれない。
時はくだって1842年、冷蔵技術の発達に伴いチェコでラガー革命が起こると、ビールは大量生産の時代に突入した。特にアメリカでは、大手メーカーによるビールの画一化・均質化が進んだ。
「そんな大手のビールに対するアンチテーゼであり、カウンターカルチャーとして1980年代の西海岸で産声を上げたのがクラフトビールです」と語るのは、世界のクラフトビールシーンに精通する村越剛人氏。
米国産ホップを効かせたIPAやペールエールなどが次々とブームとなり、その波は日本へも。現在は30〜40代の次世代ブルワーが台頭し、ヨーロッパ伝統製法の新解釈、地産農業への回帰、新たなラガーへの試みなど、興味深い動きが起きているという。
そんな日本のクラフトビールの“今”を体現する銘柄を村越氏に厳選してもらった。「日本のクラフトビールは間違いなく面白くなっています」
1.神奈川・鎌倉|YOROCCO BEER「UME 2021」
日本のクラフトビールの最前線
2012年に逗子で創業し、クラフトビールを湘南に根づかせたのがヨロッコビール。「ウメ 2021」は地元産の梅を使ったセゾンを赤ワイン樽で2年間熟成させたもの。さらに熟成させることで、風味の移り変わりも楽しめる。「微かな樽香(たるこう)、ビネガーのような酸味、複雑なのにキレのある味わいです」
2.山梨・小淵沢|UCHU BREWING「BLAZAR」
ホップの個性弾ける東海岸スタイル
うちゅうブルーイングは、ホップを惜しみなく使用するアメリカ東海岸スタイルのビールで人気の新進ブルワリー。商品名の「ブレイザー」のとおり、宇宙爆発のようにホップが弾け、ドライホップを2回加えたジューシーな味わい。パイナップルやパッションフルーツ、和柑橘のような印象も。
3.静岡・富士宮|Bayern Meister Bier「Prinz」
南ドイツスタイル×富士山麓の名水
バイエルンマイスタービールは日本初、ドイツ人ビールマイスターによる富士山麓のビール醸造所。代表銘柄の「プリンス」は、透きとおった黄金色のビールの色と、洗練された清々しい味わいでまさにビールの王道。「ビール通が一周回って最後に戻ってくるようなビールです」
4.岩手・盛岡|Baeren Beer「KELLER ※無濾過・蔵出し限定ボトル」
定番ラガーの無濾過・非加熱ボトル
ローカル志向、ドイツスタイルで地元・盛岡に親しまれているベアレンビールからフラッグシップビール「クラシック」の無濾過・非加熱バージョンが誕生。「ケラー」は普段は現地でしか飲めない特別なビールの限定リリース版。「雑味も旨味として捉え、弱炭酸によりモルトの味わいが一層際立ちます」
5.神奈川・鎌倉|YOROCCO BEER「SWING&BOP」
サンマの塩焼きに合う黒ビール
奥行きのあるモルトフレーバーと麦芽の甘みが合わさって、アルコール度数は低めながら、飲んだ時に十分な満足感を得られる1本。コクや苦み、滋味深いモルト感があるのに、飲み心地はすっきりなめらか。「ひと口飲めば、またもうひと口と手を伸ばしたくなるような、そんなビールです」
6.静岡・用宗|West Coast Brewing「STARWATCHER」
直球ド真ん中の西海岸スタイル
オーナーはシアトル出身、ヘッドブルワーはLA出身と、その名のとおりアメリカ西海岸スタイルを追求するウエストコーストブルーイング。「スターウォッチャー」はシトラスやマスクメロンのフレーバーに、ウッディーなアクセントも。「穏やかな甘みに寄り添うように、苦みの余韻もバッチリです」
7.三重・伊勢|Himitsu Beer「SUNLIGHT IPA」
農家出身の同級生ふたりが紡ぐIPA
ひみつビールはヨロッコビール出身の藪木啓太氏と、伊勢角屋麦酒出身の佐々木基岐氏の、農業に家族のルーツを持つふたりが立ち上げた醸造所。カニのラベルが特徴的な「サンライト IPA」は爽やかな柑橘に、白桃の香りを感じさせる。「とろっとした飲み心地と、甘くスパイシーな香りが最高です」
8.東京・八王子|TAKAO BEER「Ms.599」
トレラン後の喉の渇きを癒やすなら
高尾山の麓の街にある地元密着型のブルワリーが、高尾山を拠点とするトレイルランニングブランドとコラボした1本。ホップのアロマと軽快な飲み口、低アルコール度数を特徴としている。「トレラン後の喉の渇きを潤すビールとして開発されたそうです。商品名も高尾山の標高599mからだとか」
9.東京・目白|Inkhorn Brewing「Java Finch 2023」
ビール通が注目するシティ派醸造所
クラフトビール黎明期のアメリカ西海岸ポートランドで学生時代を過ごした中出駿氏が、2021年に設立した都市型マイクロブルワリー。定番ラインの「ジャバ フィンチ」はクラシカルさを残しつつも、柔らかく、飲みやすい。「アーティスト気質の中出氏が手がけるIPAは、今飲むべき1本です」
10.愛知・長久手|Totopia Brewery「Microphobia」
実験的でありながら常にハイクオリティ
カリフォルニアで修業を積んだアメリカ人ブルワーが醸造を手がけるトートピアブルワリーの新作「マイクロフォビア」は、濁り酒のようなホワイトヘイジーカラーとシルキーな舌触りでなめらかな口あたりが特徴。味わいはスイートグレープを想わせる穏やかな甘みとホップのジューシーさが際立つ。
11.北海道・鶴居|Brasserie Knot「FLOWER」
北の大地が生んだベルジャンホワイト
ブラッスリーノットは実力派のブルワー植竹大海氏が、海外のブルワリー勤務などを経て2022年に開業。代表銘柄の「フラワー」は大麦麦芽をベースに小麦麦芽、オーツ麦芽、さらにコリアンダーシードとオレンジピールを原料に使用。「フルーティでありながらクリア&クリーンな味わいです」
この記事はGOETHE 2024年1月号「総力特集: ニッポンのSAKE」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら