断言しよう。今、自分のレストランリストに入れておくべきはカウンターの店だ。なかでも次世代を担う若手職人による鮨店は絶対に行きつけにしておきたい。今から通って応援したい、10年、20年後の名店になる可能性大の鮨店から、今回は福岡・西中洲の「我逢人」を紹介する。

陽気な人柄で常連から愛される西村氏。大阪や博多で料理人のキャリアをスタート。「口よりもまず目に入るものだからこそ、鮨は美しくなくてはいけない」と端正な握りを追求。2023年に博多で自身の店を開業予定。
大きく羽ばたくその日のために。福岡の次世代職人が奮闘
「子を思う親の心は日の光世より世を照る大きさに似て」とは、日本を代表する作家、有島武郎の『小さき者へ』に記された句である。我が子のように育ててきた、愛弟子を送りだす日がくるまで……。
食都・福岡でミシュランの3つ星を獲得し続ける『鮨 さかい』の店主、堺大航(だいご)氏の“親心”の表れともいえるのが「さかい」と同ビル内に店を構え、そのDNAを受け継ぐ若手職人が腕を振るう『我逢人』だ。
和の設(しつら)えに心が安らぐ空間は、意匠が異なる3つの個室に分かれており、そのうち2室のカウンターの付け場にそれぞれ、堺氏の薫陶を受けた職人が立つ。ふたりにとって、ここは尊敬する親方が自分たちのために用意してくれた鍛錬の場であり、弛まぬ努力のもとに磨き続ける技を披露する晴れ舞台でもある。
今年、独立を控える西村陽一郎氏は16歳で料理の道に。尊敬する先輩の「福岡の鮨店で働くなら、さかい」というアドバイスで6年前にその門を叩いた。
割烹を営む実家で育ち、幼い頃から料理を身近に感じていた川島忠氏は、20歳の時に移転前の『さかい』で修業を始める。2番手として親方を支え、人として職人として、数え切れないほどの学びを与えてもらったと話す。

丁寧で場を和ませる接客にも定評のある川島氏。佐賀県で割烹を営む実家に育ち、博多『桜坂観山荘』を経て、20歳の時に『鮨 さかい』に。「コンディションを整えて、技と心を安定させるのがプロ」とストイックな一面も。
年齢こそ近いが、気質は、まったく異なるふたり。ネタもシャリも「さかい」と同様のものを使っているが「それぞれの感性を大切にした鮨を」という親方の言葉どおり、つまみや握りを供する順番、切りつけ、握り方にも個性の違いを見て取れるのが、ふたりの職人が別々のカウンターで切磋するこの店の面白さだ。
西村氏が「握りは温度と香りと美しさ。食感も大切にしながら、美しく見せるための切りつけを意識しています。シャリとネタの温度感も大切で、車海老は茹でたてを握って、香りと食感を際立たせています」と言えば、川島氏は「見えないところにいかに手をかけるかが鮨の美学だと思う。鮨の仕事が凝縮されているので、春子が特に好きです」と朗らかに話す。そして、ふたりに共通するのは「技術を磨く以上に精神と心を磨くという親方の教えを大切にしたい」という想いだ。
コースは2万7500円で、つまみ8品に握り11貫が登場。職人の“指名”も可能だ。福岡の名職人の意志を受け継ぎ、未来の担い手として輝く才能を今、目と舌で確かめたい。
西村陽一郎氏のつまみと握り

ふぐとあん肝ソース(写真は ¥27,500のコースの一例)。とらふぐの身と皮を濃厚なあん肝ソースとともに。季節によってつまみは8種前後登場。

赤身。歯触りを残すために“あっさり漬け”に。

小肌。1日かけてゆっくりと酢を入れた小肌は酸味がマイルドでしっとり柔らか。美しく握るための切りつけにも注目。

車海老。温かい赤酢のシャリとの相性を考慮。茹でたてを握り、プリッとした弾力と香り、上品な甘みを引きだす。
川島忠氏のつまみと握り

香箱ガニとイクラ。醤油漬けにしたイクラは粒の大きさもほどよくカニのフレッシュな甘みと融合。旬物を使ったつまみも楽しみ。

中トロ。噛むほどに旨みと甘みが感じられるように厚めに切りつける。人肌とほぼ同温度のシャリと合わさることでまろやかな風味の余韻が長く続く。

春子。鮨の技法が凝縮した、川島氏の「一番好きなネタ」。しっとりとした食感を楽しませる。

ウニ。海の香りが口いっぱいに。
我逢人/Gahoujin
住所:福岡県福岡市中央区西中洲3-20 LANEラウンドビル3F
TEL:092-731-2259
営業時間:13:30〜、18:00〜/20:30〜 土曜11:30〜/13:30〜、17:00〜/19:30〜(一斉スタート)
定休日:日・月曜、祝日
座席数:個室カウンター6席×2室、個室カウンター4席×1室
料金:コース ¥27,500