GOURMET

2023.02.10

枯淡|次世代スターが握る、福岡の魚と江戸前の技で表現した“独自の鮨”

断言しよう。今、自分のレストランリストに入れておくべきはカウンターの店だ。なかでも次世代を担う若手職人による店は絶対に行きつけにしておきたい。今から通って応援したい、10年、20年後の名店になる可能性大の鮨店から、今回は福岡・桜坂の「枯淡」を紹介する。

福岡「枯淡」のカウンター

茶室をイメージした空間。鈍角の変形カウンターは「一体感が生まれるように」という想いから。

「福岡で鮨を食べる理由」がこの店にはある

新旧問わず“鮨の猛者(もさ)”が揃う福岡で、今多くの食通が関心を寄せる店がある。

桜坂の住宅街でひっそりと暖簾を掲げる『枯淡』。店主の野口和暉氏は、30歳という若さながら東京の「鮨 水谷」(現在閉店)や「鮨はしもと」で修業を積み、その技や鮨と向き合う姿勢を学んできた。

「昔から漠然と職人に憧れがあったんです。どの道に進むかと考えた時に、お客さんの反応が間近で見られるカウンターの仕事がいいなと。それなら、自分は鮨をやりたいと思った」と東京を目指したのは、明確な理由があった。

伝統的な鮨の種類には“押し”、“熟(な)れ”、“鮒(ふな)”など、さまざまあるが“江戸”と土地の名前がついた鮨は、他にないと思った。もちろん、大阪鮨や福岡鮨は知ってはいたけれど「江戸前の仕事、というのを見てみたかったんです」と話す。

上京して驚いたのは、鮨店の多さと、そこで働く、自分と年齢がさほど変わらない若い衆の数だった。「このなかで抜きんでるためには、自分はとにかくがむしゃらに働くしかない」と決意を固めた。

東京で8年、研鑽を積み福岡へと戻ったのは、生まれ育った糸島のそばで、江戸前の鮨を出す店をやりたいというかねてからの想いがあったゆえ。

日本の鮨店が、江戸前のスタイルばかりになってしまったと嘆く鮨好きもいるが、野口氏が目指すのは、江戸前の技法を用いながら地元の魚を使った握りを楽しませる鮨店だ。

変形カウンターが印象的な数寄屋造りの美しい空間で供するのは、つまみ8種と握り13貫前後で2万2000円のコース。今の季節ならば、天草の小肌に対馬の鯖、九州の鮨店ではメジャーなやいとがつおや、糸島が漁獲量全国1位を誇る真鯛も登場する。

福岡「枯淡」のあん肝

あん肝(写真は ¥22,000〜のコースの一例)。濾(こ)してなめらかな舌触りに仕上げたあん肝に、刻んだ奈良漬とたくあんを合わせた逸品。

福岡「枯淡」のやいとがつお

やいとがつお。九州の鮨店ではおなじみの魚で、冬から春にかけて風味が増す。「やいと」は方言でお灸の意味。魚名は腹部に灸をすえたような模様があることに由来。

福岡「枯淡」の真鯛

真鯛。店主の地元、糸島産を使用。皮がしっかりついた真鯛は脂ののりがよい証拠。大きめに切って皮の中心に刃を入れ、その食感と味の豊かさを楽しませる。

握りはぽってりと丸みを帯びたフォルムで、口に運べば粒立ちのよい米とネタが合わさり、ふわりとほどけながら美味の余韻を残す。シャリには酒粕だけで作った粕酢と米酢をブレンドしており、独特の発酵した香りがほのかにあるが、ネタとのバランス感がちぐはぐになることなく見事に融合。

福岡「枯淡」の小肌

小肌。肉厚な天草産。新鮮なうちに塩を多めに当て、水分を抜きながら旨みを凝縮。

福岡「枯淡」の鯖

鯖。酢と塩でしっかり締めることで身とシャリのバランスが一体となるように。

九州では生姜醤油で食すことが多い鯨のうねを味噌漬けにアレンジしたつまみなど、独自性を追求しており「福岡で鮨を食べる理由」がこの店にははっきり存在する。紛うことなき、次世代のトップスター。今訪れなくては、確実に後悔する。

福岡「枯淡」の鯨畝酢の味噌漬け

鯨畝須(うねす)の味噌漬け。福岡で常食される鯨の“うね”(腹部)を味噌に漬けたもの。

鮨を握る福岡「枯淡」の野口氏

「握りにもできるだけ地産の魚を使っていきたい」と店主の野口氏。

枯淡/Kotan
住所:福岡県福岡市中央区桜坂1-5-15
TEL:092-600-9478
営業時間:11:30〜(一斉スタート)、 17:30〜20:30(最終入店)
定休日:火・水曜
座席数:カウンター8席
料金:コース ¥22,000〜

TEXT=小寺慶子

PHOTOGRAPH=松隈直樹

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