限界を知らない男、モノ、コト――過剰なモノを愛し続けたゲーテ編集部が贈る特集「最上級事典2023」。妥協を知らないゲーテ流の最上級とは何か。今回は、麻布十番「膳処末富」のフィレ丼を紹介する。【特集 最上級事典2023】
薪と炭が香る最強の「フィレ丼」
何を焼くかではなく、何で焼くか。料理人が食材を焼く時に必ず考えるのは熱源だ。肉や魚、野菜など、料理店で使う食材は多岐にわたり、食材ごとに適した焼き方があるはずと、末富信氏は考えた。そしてたどりついた答えが“焚き火”。
カウンター6席だけの小さな店。目の前には薪がくべられた焚き火が赤々と燃える。人類が最初に火を手に入れたのは石器時代まで遡るといわれているが、焼くという行為は人類が最初に行った調理であり、料理の原点といっても良い。
「膳処末富」では、薪や炭の他にも竹や藁などさまざまな熱源を使った焚き火で調理する。薪や藁の直火で炎を立てながら焼くこともあれば、炭の熾火(おきび)でじっくりと火入れすることもある。素材に応じた温度や水分の含有量などを考えることで、火の強さや薪や炭の置き方も変える。すべてはその素材の美味しさを最大限引きだすために。
シャトーブリアンは水分を含んだ薪で焼き、乾いた炭で涸(か)らし、仕上げに玉ねぎを熱源にして香りを纏わせる。蒸したてのご飯の上に乗せれば、最強の「フィレ丼」のできあがり。ゆらめく炎を眺めながら、その香りとともに楽しみたい。