今、日本酒の発展が目覚ましい。今回紹介するのは、世界的なレジェンドたちの手でつくられた日本酒「IWA」。その酒蔵もまた独創的だという。【特集 情熱の酒】
隈研吾氏が設計した独創的な酒蔵
立山連峰の麓(ふもと)、森と田んぼに囲まれた長閑(のどか)な土地に、IWAの酒蔵はひっそりと佇む。設計は日本を代表する建築家の隈研吾氏。「ひとつ屋根の下」をコンセプトとするその蔵は、醸造設備、レセプションルーム、そして関係者の宿坊まで備えた複合施設となっている。
リシャール・ジョフロワ氏と隈氏が特にこだわったのは、レセプションルームの「土間」だ。日々の生活を営み、仕事をこなし、人々の集いの場でもある土間。
南砺(なんと)市の古民家をふたりで訪れた際、ジョフロワ氏が「これこそ求めていた蔵の理想像」と感動し、最も重要なポジションを占めることになった。ここでは試飲のほか料理をゲストに振る舞うことも可能となっている。
一方、土間とは巨大なガラスで隔てられた仕込み室は、京都・三十三間堂の千手観音立像にインスピレーションを得て、ステンレスタンクが整然と並ぶ。
ジョフロワ氏が醸造する酒IWA5は、さまざまな原酒のアッサンブラージュ(ブレンド)が鍵。ゆえに通常の酒蔵よりも数多くのタンクが必要になる。
リリースごとに進化を遂げるIWA5。蔵の完成で、さらに洗練度が増すことだろう。
IWAを支えるふたりのキーマン
伝説のシャンパーニュ醸造家、リシャール・ジョフロワ
シャンパーニュ界のレジェンド、リシャール・ジョフロワ氏。新型コロナウイルスの影響によりなかなか日本に来られず、今回、実に27ヵ月ぶりの来日を果たした。完成した蔵のできばえには大いに満足の様子で、「現実は虚構を越える」と、その感想を述べた。
2022年6月にはIWA5の第3弾、アッサンブラージュ3をリリース。「1や2と比べて求めるものが最初から明確。今回のアッサンブラージュでは、これまでと異なる魅力が引きだせたはず」と、自信のほどを覗かせる。
ジョフロワ氏が日本酒に入れこむのは、“遊び心に溢れている” から。麹や酛など造りのオプションが多く、冷やから熱燗まで飲み方もいろいろある。「ワインの良し悪しはテロワールで決まってしまう。どこでつくられたかではなく、どう造るかがより重要な日本酒ほど、醸造家魂を搔き立てるものはない」
ジョフロワ氏は残る生涯のすべてを、日本酒の可能性に懸けている。
20年来の盟友のためにボトルをデザインしたマーク・ニューソン
IWAのパッケージデザインを依頼されたのは、世界的なプロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏。かつてドン ペリニヨン専用シャンパーニュ・クーラーのデザインなどでコラボレート。以来、公私を問わず、20年近くもふたりの付き合いは続いているという。
日本酒のボトルデザインは、ニューソン氏にとっても初めて請け負うプロジェクト。
「リシャールにはすでに明確なビジョンがありました。それを具現化するのがなかなか難しく、試作品をいくつもつくりましたよ」と、頭をかきながら語ってくれた。
ふたりがこだわったのはシルエット。ドン ペリニヨンのボトルが50m先からでもドン ペリニヨンとわかるように、IWAもぱっと見てすぐにIWAとわかるフォルムを目指した。またマットなテクスチャーの表面は、見た人が触れてみたくなる衝動を狙ったもの。
ラグジュアリーな日本酒にふさわしい唯一無二のボトルが完成した。