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2022.07.30

【リゾナーレ那須】食材を育む土地を知り、ワインと食を深める旅──短期連載「ワインをお供に美味しい旅 in 星野リゾート」Vol.3

各地の特徴を活かしたガストロノミーと、選び抜かれたワインのペアリングを提供する星野リゾート。その食体験をレポートする短期連載の第3回は「星野リゾート リゾナーレ那須」。施設内の農場で育てられた季節の野菜やハーブの一部を各レストランで提供。メインダイニング「OTTO SETTE NASU」でも、地元の食材やアグリガーデンでシェフが摘み取った野菜を用い、イタリア中部トスカーナ地方の郷土料理へと昇華。そこに合わせるワインがこれまた発見だらけなのであった。【過去の連載記事】

リゾナーレ那須メイン

リゾナーレ那須では施設内で栽培されている野菜やハーブをはじめ、地元で穫れた旬の野菜をふんだんに使ったヘルシーな料理が楽しめる。

農作業を体験しながらリゾート気分を味わう

都内から東北新幹線とバスで1時間半。北関東のまさに北端、栃木県の那須高原に「リゾナーレ那須」はある。天皇家の夏の避暑地として大正15年に設置された那須御用邸があるだけに、真夏でもそこそこ過ごしやすく、都内の気温が35度近くまで上がったこの日でも28度止まり。朝晩はさらに気温が下がり、湿度も東京より低いおかげで心地よい。

このホテルで軸となるコンセプトが「アグリツーリズモリゾート」。アグリクルトゥーラ(農業)とツーリズモ(観光)を合わせたイタリア語で、英語でもアグリツーリズムやアグロツーリズムという。都市生活者が農作業を体験しながら、閑静な農村で余暇を過ごす旅のあり方。農村の多いイタリアでは早くも1985年に州法で正式に規定されている。

施設内には年に100種類ほどの野菜を育てている「アグリガーデン」や約70種のハーブを栽培する「グリーンハウス」があり、宿泊者が種まきや肥料作り、収穫などを体験する「ファーマーズレッスン」や、好みのハーブをブレンドして作る「オリジナルハーブティーづくり」、「バスハーブづくり」などのアクティビティが用意されている。また本館の裏手に隣接する田んぼでは、「お米の学校」を開講。地元の農家さんの指導のもと、季節に応じて種蒔き、田植え、稲刈り、脱穀など、さまざまな農作業が体験できるようになっている。

宿泊棟は本館と別館のふたつに分かれ、今回の部屋は本館のデラックスメゾネット。1階がカウンターテーブル付きのリビング、2階がベッドルームになっていて、テラスからはその田んぼが望める。蛙の合唱に耳を澄ませながら、アクティビティ施設の「POKO POKO(ポコポコ)」で販売されている那須のクラフトビールで乾いた喉を潤すのも悪くない。

リゾナーレ那須

リゾナーレ那須は2019年オープン。レセプション棟はコンクリート造りのモダンな印象。

たんぼ

本館の裏手にある田んぼは4面、計8500平方メートル。ワインに造詣の深い方ならロマネ・コンティのほぼ半分、ラ・ロマネと同じ面積と言ったほうがピンと来るかも? 残念ながら取材時はオープン前だったが、2022年8月31日まで「田んぼビアガーデン」が開かれ、那須で造られているクラフトビールが夏野菜のピクルスなどと一緒に楽しめる。

荒廃地を年100種の作物を育てる農場に大転換

クラフトビールで喉を潤したのも束の間、噂のアグリガーデンへ。スタッフの小鷹広之さんに案内してもらう。

現在アグリガーデンとなっている土地は、もとは雑草がぼうぼうと生い茂る荒廃地。それをスタッフらがカマで刈り取り、トラクターで耕し、今のような農地に変えていった。土は火山灰の積もった黒ボク土で作物の栽培には適している。近隣で有機栽培を実践する成澤菜園の指導を仰ぎ、化学肥料や農薬を使わず、ぼかし肥料も自分たちで作る循環型の農業を目指している。

リゾナーレ那須のオープンからなので、野菜作りも2022年で3年目。年に100種類ほどの野菜を育て、取材のこの日はインゲンやキュウリが収穫の時期を迎えていた。アグリガーデンではF1種は使用せず、固定種のみを育てている。

交配第一世代のF1種は生育が均一で病気に強く、安定した収穫量が見込める反面、どの土地で育てても同じような形質をもった作物にしかならない。その上、毎年、種苗業者から種子を購入する必要もある。それに対して自家採取した種子から育てる固定種は、その土地の気候や土壌への適応能力をだんだんと高めるとともに、その土地ならではの性質をもった作物に育っていく。つまり、テロワールの個性がはっきりした作物が生まれるわけだ。

畑

写真上:浜クロピーは黒い色をしたピーマンのこと。珍しい野菜にも果敢に挑戦。トウモロコシは通常のものとポップコーン用の2種類を育てている。今年は新たに綿花の栽培も始めた。 写真下:インゲンの収穫をちょっとだけお手伝い。仕事柄ブドウ畑にはしばしば足を踏み込むものの、菜園はまれ。しかしこうして栽培されている方の苦労話をうかがい、自分も作物に触れてみれば、日頃何も気にせず口に入れている野菜への意識が変わってくるものだ。

この日の収穫はUFOズッキーニ、花ズッキーニ、四葉キュウリ。アグリガーデンの作物ですべてのメニューが賄えるわけではないが、メインダイニング「OTTO SETTE NASU」の料理に使われる。

ところが、小鷹さんはじめスタッフが汗水流して育てた野菜を横からかすめ取るとんでもない輩がいると言う。猿だ。周囲を森に囲まれたリゾナーレ那須は自然環境に恵まれている反面、野生の動物も数多く棲息。イノシシ、タヌキ、それにハクビシンまでいるらしい。

なかでも猿はずる賢く、収穫間近となった野菜を狙ってやって来る。唯一獲らないのは唐辛子とピーマン。辛かったり、苦いことを知ってるのだろう。アグリガーデンに隣接し、さまざまなハーブを育てているグリーンハウスの壁には、猿が侵入したと思しき足跡が残っていた。

「最初の年は猿にすべて食べられてしまいました。最近はスタッフや宿泊客など施設内に人が増えてきたので、警戒し始めたようです」と小鷹さん。猿たちがおとなしく森に戻り、アグリガーデンを荒らさなくなることを心から願いたい。

リゾナーレ那須

ハーブを育てているグリーンハウスの中。宿泊客向けにオリジナルハーブティーやバスハーブを作るアクティビティが用意されている。アグリガーデンを含め、中心となって管理するのは小鷹さんら5名のスタッフ。小鷹さんは2011年、星野リゾート入社。リゾナーレ那須が4つめの施設で、開業時からアグリツーリズモリゾートの企画開発を任されている。かつて熊本のNPOで、都市部の人に農村体験をしてもらう活動に従事。当時の経験を、ここリゾナーレ那須でも生かしている。

料理が楽しめ、ピークのメインまで抑揚をもたせたペアリング

メインダイニングはリゾナーレ八ヶ岳、トマムに次ぐ3つめの「OTTO SETTE」。地元の食材を生かしたイタリア料理というコンセプトは、以前ご紹介したリゾナーレ八ヶ岳と共通だが、ここでは一歩踏み込み、トスカーナの郷土料理をベースとしたフルコースを提供する。

なぜトスカーナなのかと言えば、中部イタリアのトスカーナ地方がアグリツーリズモの舞台の代表であり、農園の広がる牧歌的な情景がすぐ目に浮かぶ。それに加え、栃木県宇都宮市がトスカーナ州ピエトラサンタ市と姉妹都市という背景もある。宇都宮の大谷石、ピエトラサンタの天然大理石と、どちらも石材採掘が盛んな土地だ。

OTTO SETTE NASU

リゾナーレ那須のOTTO SETTEもリゾナーレ八ヶ岳と同様、高い吹き抜けが特徴。解放感に満ちた空間で旬の食材を用いたトスカーナ料理とイタリアワインのペアリングが楽しめる。

山梨・長野の日本ワインを中心とするリゾナーレ八ヶ岳、フランスのグランヴァンと世界の自然派ワインを織り交ぜた奥入瀬渓流ホテルに対して、ここ、リゾナーレ那須におけるワインセレクトの特徴はイタリア♡(ラヴ)。リストには80種余りのイタリアワインが州ごとに並ぶ。当然ながらトスカーナが最も充実していて、カルト的な存在の「カーゼ・バッセ・ソルデーラ」や漫画『神の雫』で使徒のひとつに選ばれたポッジョ・ディ・ソットの「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」もオンリストされている。イタリア以外で唯一選ばれている国が日本。栃木県内にあるココ・ファームのワインと、リゾナーレ八ヶ岳が提携するドメーヌ・ミエ・イケノのワインがセラーに寝かされている。

とは言うものの、「推しはペアリング」とソムリエの井上信太郎さん。その自慢のペアリングは、ゲストに料理を楽しんでもらうことを第一に考え、メインでピークに達するまでどのような抑揚をもたせるかを縦軸に、純粋な料理との相性を横軸にして、ワインをセレクトすると言う。

今回のペアリングは最後に日本酒の貴醸酒を組み込んだ以外はイタリアワインのみの構成。ただ御多分に洩れず、栃木県内にも新しいワイナリーが増加中。今後はそうしたワイナリーのアイテムもペアリングに組み込んでいきたいと話す。

牛肉

メイン料理の「牛肉のアロースト」には、王道の「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を。井上ソムリエのペアリングはここをピークに、それまでの過程で抑揚をもたせる構成。牛肉は地域のものを使用しており、ジューシーな赤身が特徴だ。添えられた花ズッキーニには、燻製したモッツァレッラチーズのスカモルッツァとローストした茄子が詰められている。

ワイン

セラーに眠るワインから、井上ソムリエが選ぶ1本は、ラ・ラニャイエの「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2012年」。同じブルネッロでも牛肉のアローストに合わせたものより男性的だそうで、「1本をじっくり楽しみたいタイプ」とのこと。

シェフとソムリエ

シェフの北浦琢視さん(右)とソムリエの井上信太郎さん。北浦シェフは北海道の出身で、東京のレストランで修行後、2017年、リゾナーレ トマムのシェフに就任。2019年のオープン時からリゾナーレ那須のシェフを務めている。食材探しの中見つけた、地域で飼育されている兎肉をこの夏から料理に取り入れている。

トスカーナの郷土料理とイタリア自然派ワインの見事な共演

井上ソムリエがペアリングで選ぶワインは、イタリアものでもいわゆる自然派系。料理の素材が野菜中心で、その場で採れた素材の良さを生かし、自然の風味を前面に押し出していることもあって、人の手の介入が少なく、ブドウ本来の風味が感じられる自然派ワインは当然ながら相性が良い。

なかでも面白かったのが、「稚鮎とキュウリのフェデリーニ」に合わせたリグーリア州の「フナンボロ」というワイン。フナンボロとはラベルの絵が象徴するように「綱渡り」という意味で、うまく出来るかどうか造り手自身、綱渡りの状態で瓶詰めまでこぎつけたワインと言う。

ブドウ品種はピガートとヴェルメンティーノ。それを75ヵ月間、フランス・ジュラ地方のヴァン・ジョーヌのように産膜酵母の下で熟成させたもの。ナッツやスパイスなど独特の熟成香がする一方、プチプチと微発泡してるという摩訶不思議なワインであった。

しかし、熟成したワインのほろ苦みは鮎の肝の苦味と調和し、また微発泡もフリットのクリスピーな食感と同調して、きれいにペアリングして見せる。

料理

冷製パスタは「稚鮎とキュウリのフェデリーニ」。パスタの上にはフリットにした稚鮎とカダイフがのる。ソースはキュウリとジェノヴェーゼ、それにウルカ(鮎の塩辛)を使ったものの2種類。合わせたワインが酸化熟成香のする微発泡という意外性。

ドルチェの「ミルクのデクリナツィオーネ」にワインではなく貴醸酒を合わせた理由は、「(那須塩原市に隣接する)大田原市が米どころなので」と井上ソムリエ。「旭興」をブランド名とする渡邉酒造は大田原市にある蔵元で、貴醸酒とは仕込み水の代わりに一部、酒を使って仕込んだ極甘口タイプの日本酒のことだ。

また一方、冷涼な気候の高原が広がる那須は酪農が盛んな土地。生乳の生産量は北海道に次ぐ規模を誇る。そのミルクの甘みと、貴醸酒の米の甘みが「ペアリングの接点」と、井上ソムリエは言う。

ほかにも「岩魚のブロデッタート」に、貴腐化(特殊な菌の作用でブドウから水分が抜け、干しブドウ状態になること)したヴェルディッキオを合わせるなど、「イタリアにはこんなワインもあるのか」と驚きの連続。ちむどんどんなペアリングだった。

料理

アグリガーデンで朝採りしたインゲンやキュウリなどを含め、25種類もの旬の野菜が使われた「農園のピンツィモーニオ」。ピンツィモーニオとは指でつまんで食べるスティック野菜のこと。ソースはアンチョビとニンニク、オリーブオイルのバーニャフレッダで、骨格のしっかりしたマルケ州のロザート(ロゼ)を合わせた。

料理

左上から時計回りに、パッパ・コル・ポモドーロや茄子のカッポナータなど、トスカーナ州の7つの郷土料理を盛り付けた「彩り豊かな小さな前菜」。蒸し焼きにした岩魚に焼き色をつけたザバイオーネソースを合わせた「岩魚のブロデッタート」。パンナコッタやミルクアイスなど、牛乳をさまざまな調理法で仕上げ盛り合わせた「ミルクのデクリナツィオーネ」。兎肉をじっくり煮込んだラグーソースの平たいパスタ「兎ラグーのパッパルデッレ」。

猿に奪われる前にシェフ自ら野菜の摘み取り

翌朝、アグリガーデンに収穫に行く北浦シェフにお付き合い。さすがに慣れた手つきで、テキパキと必要な野菜を摘み取っていく。

あらかじめ小鷹さんらアグリガーデンのスタッフからシェフ宛てには、スマホのチャットアプリで「本日収穫可能な野菜は○○です」と連絡があり、メニュー内容や必要量を考えながら、その日の摘み取りを調整すると言う。

「これが昨晩のピンツィモーニオにも入っていたパティソンホワイト、別名UFOズッキーニです」と見せてくれたのは、平たいカボチャのような形をしたズッキーニ。ズッキーニはキュウリの仲間かと思ったらじつはカボチャの一種なのだとか。このような雑学の知識が増えるのもまた楽しい。

次回は秋に来て、「お米の学校」で稲刈りを体験してみたい。その頃には「OTTO SETTE NASU」のメニューも変わり、また面白いペアリングが楽しめることだろう。

畑

パティソンホワイト、別名UFOズッキーニを摘み取る北浦シェフ。収穫は早朝に済ます。そうでないと、猿に先を越されてしまう。じつはこの日、シェフが去った後に猿の目撃情報が入ったと言う。間一髪だった。

ジャム

本文にも記したとおり、那須高原は酪農の盛んな土地。しかしながら、新型コロナウィルス感染症の影響で、学校給食や外食産業での乳製品の需要が低迷。生乳が余る状況に。そこで星野リゾートでは生乳を使って「ミルクジャム」を製品化。廃棄される生乳の減少を目指している。

【今回の食事とワイン】
食前にフランチャコルタ・サテンNV レ・マルケジーネ
彩り豊かな小さな前菜/ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ 2019 イル・パラジョーネ
農園のピンツィモーニオ/マルケ・ロザート 2018 アッカディーア
稚鮎とキュウリのフェデリーニ/フナンボロ 2014 テヌータ・セルヴァドルチェ
兎ラグーのパッパルデッレ/ヴェッティーナ ペルゴラ・ロッソ 2019 テッラ・クルーダ
岩魚のブロデッタート/チマイオ 2016 カサルファルネート
牛肉のアロースト/ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2016 ライエッタ
季節のフルーツ ヨーグルトのエスプーマ添え
ミルクのデクリナツィーネ/旭興 貴醸酒

ワインボトル

OTTO SETTE NASU 夏限定メニュー
期間:〜2022年8月31日
料金:1名¥15,730、ワインペアリングは別途¥8,000(税、サービス料込)
営業時間:17:30〜、または18:00〜
予約:公式サイトより3日前までに要予約
対象:宿泊者
※食材の入荷状況により、料理やワインが変更となる場合がございます。

星野リゾート リゾナーレ那須
住所:栃木県那須郡那須町高久乙道下2301
TEL:0570-073-055(予約)
客室数:43室
料金:1泊¥24,000〜(2名1室利用時1名あたり、税込、朝食付)
アクセス:JR東北新幹線 那須塩原駅から送迎バスで約40分

【連載 ワインをお供に美味しい旅 in 星野リゾート】

TEXT=柳 忠之

PHOTOGRAPH=鮫島亜希子

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