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2022.04.10

京都で静かな話題を呼ぶ、日本古来の美意識を現代に甦らせる立礼茶室「然美」

ニューヨークと京都を拠点とするデザイナーで現代美術家の髙橋大雅氏が、歴史ある祇園・花見小路に開いた立礼(りゅうれい)茶席「然美(さび)」。和菓子職人がその都度創作する和菓子と日本茶&カクテルのペアリング(茶菓懐石)を味わえる趣向だ。凛と美しい茶室で体感する日本古来の美意識と、茶菓懐石について聞いた。

現代美術作家・髙橋大雅が手がけた茶室が祇園に誕生

2021年12月に、祇園甲部歌舞練場や建仁寺からも近い祇園町南側に完全予約制の立礼茶席が誕生した。日本的でありながらも、どこか俯瞰的に見た古都を感じさせるユニバーサルな建築や店の在り方が、ひそかに話題を呼んでいる。

全体のアートディレクションやデザインを手掛けるオーナーの髙橋大雅氏は、1995年神戸市生まれ、ニューヨーク在住。ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ卒業。15歳で渡英し、高校と大学ではデザインや芸術を学んだ。そんな髙橋氏が何故京都で自身の総合芸術空間としての店を開業したのか。

「幼い頃から毎年、都をどりを見るために祇園に来ていました。おどりの情景や風情ある街並みがずっと心に残っていたんです。2020年の春に日本に一時帰国した際に、祇園に再び訪れ、ある一軒の空いている町屋を目にしました。そこでは昔、一階で呉服屋、二階には茶室があったそうです。その時に、人生の半分近くを欧米でアートやファッションといった西洋発祥の文化を学んできたこともあって、改めて日本古来の美意識や美学、価値観とは何かを再認識したんです」

そして、自身の「日本人としてのアイデンティ」に通じ、侘び然びや数寄屋といった日本独特の美意識が集約した「茶の湯」を感じられる場をつくろうと思ったそうだ。

築100年の町家を、古材を使用して総改築し、1階には自身の彫刻作品や古美術などを展示するギャラリー、さらには「Taiga Takahashi」ブランドのブティック、そして2階に立礼茶室「然美」を開業した。

「然美」は13時と16時に一斉スタートする完全予約制。壁は型押しという古典印刷技術を現代に受け継ぐ、京都の唐紙工房「かみ添」に特注した和紙で包み、椅子は20世紀を代表するデザイナーのひとりであるジョージ・ナカシマさんの家具を長年制作してきた「桜制作所」と共作。床は異なる細さの木を並べる乱張りという手法を用いることで表情を出している。調度や器、菓子といった室礼だけでなく、茶人の所作が際立つ造りになっている。

「茶道自体が総合芸術であり、茶席はその舞台です。お客様が目で見て、聞いて、香りを感じ楽しめる劇場型の茶室を実現しました」と高橋氏。

萌え出た若葉の色合いを再現した「萌黄」。静岡県産の山葵をきんとんに仕立てた。合わせるドリンクは、オリジナルカクテル「花簪」。抹茶をベースに大葉の風味を加え、穂紫蘇をかんざしに見立てる。

「茶菓懐石」と名付けられたコースは、果物や発酵バター、黒七味など多彩な食材を用いて創るオリジナル和菓子5品とドリンク(日本茶とカクテル)5品のペアリング5500円。毎月品書きが変わり、菓子については、一度出したものは、2度と出さない。

「一瞬にして消える、そのはかなさが美しい。今日、ここで出合う菓子やお茶も一期一会のものだと思うと、よりじっくり味わっていただけるでしょう」

玄関から入ってすぐの空間に飾られるつくばいをイメージした彫刻。庭や建築なども含めて、五感で楽しめる場を目指す。

菓子の創作やお茶とのペアリングは、高橋氏を中心に、和菓子職人やお茶の専門家、スタッフも交えてミーティングや試作を繰り返して仕上げる。

和食の基本となる五味を盛り込むことに加え、洋の食材なども加えて、これまでになかったものを、実験的につくっていくと言う。

「菓子とお茶やカクテルが一体となって新しい味を生み出します。はっとするような味との出会いや、心を潤す時間をここで愉しんでほしい」と高橋氏。

グローバルな目線でとらえた日本の茶文化を、歴史ある花街の一角で体感することで、斬新ながらも奥行きのある「京都の今」を感じられるだろう。

立礼茶席「然美」
住所:京都市東山区祇園町南側570-120 T.T内 2F
TEL:075-525-4020
二部予約制:13:00-14:30、16:00-17:30(一斉スタート)
※2日前までにオンライン予約要
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