第11回農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」授与式が11月9日、東京都の農林水産省で開催された。その全貌を探るべく、今年度授与式を取材した。
2010年より農林水産省がスタート
「料理マスターズ」とは、料理⼈相互の研鑽を促進することにより、⽇本の農林⽔産業と⾷品産業の発展を図るべく、2010年より農林水産省がスタートした料理人顕彰制度。国が日本の料理人を顕彰する唯一の制度として、その栄誉は名高く、受賞には数々の実績や功績証明が必要となる。
同省の発表によると、顕彰の対象者は以下の通りだ。
「提供する料理・サービスが優れている現役の料理人(パンや菓子の職人含む)のうち、5年以上にわたり以下の功績のあった者」。
1:産地と連携し、地域の風土や調理法に適した作物の導入、伝統野菜の復活・地域農産物の発掘、地場素材を活用したメニュー開発によって、産地の形成や農林漁業者の所得向上等地域の活性化や雇用の拡大に貢献する取組。
2: 食品産業と連携し、食品や調味料の開発や、国内の食材を利用した新たな調理法の開拓を通じた当該食品の普及によって、地域の食材の普及や食文化の発展に貢献する取組。
3:日本の食材や食文化、調理技術について、日本人以外の料理人への教授・指導を通じ、海外における日本の食文化の普及と食品企業の海外展開に貢献する取組。
いわゆる、ただ単に営業が繁盛していたり、話題を振りまいているだけでは受賞できないということ。⽇本の食文化の魅力に誇りとこだわりを持っていることに加え、生産者や食品企業等と「協働」して国内の食文化普及に尽力しているかが問われているのである。
来年以降にゴールド賞受賞者が誕生予定
今年度の受賞者は、5年以上の取組を対象とするブロンズ賞が8人(『料理屋植むら』植村良輔氏、『御影ジュエンヌ』大川尚宏氏、『祇園 さゝ木』佐々木浩氏、『美山荘』中東久人氏、『CROSSOM MORITA(クロッサムモリタ)』森田隼人氏、『ポンテベッキオ』山根大助氏、『SHOKUDO Yarn(ショクドウ ヤーン』米田裕二氏、『照寿司』渡邉貴義氏)の8人。
ブロンズ賞受賞からさらに5年以上の功績が必要なシルバー賞は4人(『アコルドゥ』川島宙氏、『徳山鮓』徳山浩明氏、『Hagi』萩春朋氏、『神戸北野ホテル』山口浩氏)が受賞。ちなみに、シルバー賞からさらに5年以上の功績が必要となるゴールド賞は、来年'21年以降に初めての受賞者が誕生する。
今年度受賞者である徳山氏、森田氏、渡邉氏はゲーテが主催する美食サロン「北参道倶楽部」にも出演。また、大川氏は、昨年の本誌レストラン特集でも紹介した"知る人ぞ知る料理人"だ。
滋賀県長浜市で『徳山鮨』を営み、近江が誇る醗酵文化を新たな食文化として進化させたことなどを評価された徳山氏は、授与式を終えて「生産者や若手料理人たちを育てるために今回シルバー賞を受賞させていただいたのは理想的な展開です。われわれには食材を守り、次の代に引き継ぐ役目がある」と、料理マスターズ受賞の意義を唱えた。
"日本一予約の取れない焼肉店"の『クロッサムモリタ』を経営する森田氏は「受賞できた一番の要因はやっぱり研究だったと思っています。クロッサムモリタには研究のためのラボがありますので、その取り組みが一番大きく反映されたのかな」と自己分析。今後に向けては「自分たちからアグレッシブに構想をして、未来の食を作り上げていきたい」と気を引き締めていた。
北九州市の『照寿司』の大将として自らSNSや新聞等のメディアを通じて生産者のストーリーを伝え、地場産品としての付加価値をつけたことが評価された渡邊氏は「産地の価値を上げたいという思いを常々強く持っています。ただ、地方からの発信は大変なので(SNS等で)強めの発信をすることを心がけてきました。どんなにいいことをしていても、気づかれなければ意味はないですからね」とコメントしてくれた。
神戸市でフランス料理『御影ジュエンヌ』を営む大川氏は授与式で、ブロンズ賞受賞代表者として「ある農家が"野菜を出荷する時は大切に育てた娘を嫁に出す思いだ"と話していました。日々誠実に仕事をされている生産者の皆様に正しく光が当たるように、ともに努力と精進を重ねていきたい」とスピーチ。文化としての"日本の食"を生産者とともに守り抜くことを誓っていた。
「ミシュラン」や「ゴ・エ・ミヨ」などフランス発祥のレストランガイドとは一線を画す日本独自の「料理マスターズ」。日本文化を担う料理人にとって、正式に国から評価される制度は今後の励みになるに違いない。