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2020.04.12

川井潤「コロナに対応する料理人さん達へのラブレター」

新型コロナウイルスの感染拡大でレストラン業界が大きな打撃を受けている。食べログフォロワー数日本一の川井潤さんが、 日頃お世話になっている不特定多数の料理人さん達へのラブレターを綴った。

拝啓 料理人 様

このラブレターはコロナが広がる緊急事態宣言後の4日目、最初の週末である4月11日、土曜日に書いています。

2月24日に「これから1、2週間が急速な拡大に進むか 、収束できるかの瀬戸際」と政府専門家会議が発信してから約2ヶ月経過。実際には感染者は増え続け収拾の目処はまだついていません。昨日も東京ではこれまでの最多感染確認者数197名というニュースが流れ、しかも初めて僕の直接の知り合いが亡くなられた訃報に一昨日触れることになりました。

もう他人事では本当になくなっています。

新型コロナイルスの影響で、誰もが見えない敵との戦いにモヤモヤと苦しんでいます。補償問題だ、対応が遅い、初めてのことだから無理もない、世界に比べて検査が少ない、検査は必要ない、医療崩壊を避ける事が重要だ、と言った事で正解がよく見えないまま意見を言い合って世間全般がギスギスし始めています。

料理業界関係者の方達は補償などの方針がハッキリしない中、営業形態を自主判断に委ねられさぞや悶々としている日々をおおくりのことと思います。

三密を避けながら営業を続けるお店、テイクアウトにチカラを入れるお店、など生き残りをかけて行動していらっしゃってご苦労が絶えませんね。

外食大好きで、たくさんの料理人さんと仲良くさせていただいている僕自身にとってもこの大変な状況は人ごとではありません。

インバウンド客で賑わっていた友人の経営する「忍者レストラン」も主たるお客様であった外国人が激減、対前年売り上げ97%減と目を覆いたくなる状況でついに緊急事態宣言が出た4月7日の営業をもって新宿店を閉業、赤坂店を休業という厳しい決断を強いられる事になってしまいました。

すごくお世話になっている方だし、落ち着いたら絶対にもう一度再開してほしい。そのためにはいくらでも協力は惜しみません。

その他にも店の経営が厳しい話は相当数聞こえてきています。

でも命さえあれば、何をしてでも生きていけます。僕らや僕等の先達も空襲で焼け野原にされても、戦争やバブル崩壊、大震災でひどい目にあってもこうして復興してきたではありませんか。

もちろん僕らが普通に食べに行ければレストランにとっては少しは金銭的サポートになるかもしれません。ただもしかしたら今自分自身が無症状で感染していて、広げてしまう張本人になる可能性もゼロではありません。そう考えるとおいそれとお店にうかがうわけにもいかなくなってしまいます。

一緒に会食するメンバーをも巻き込むんでしまうかもしれないので「行こうよ」と気軽に誘う事もできない。もちろん三密を避けはするが2〜3時間は会食相手を拘束する事にもなることも不安であり、ついついみなさんのところに行ってゆっくり外食する事を敬遠してしまいがちになります。

一方、予約客が入っていると客の期待も考えて簡単にはお休みできない料理店もあります。実際、お店が休業したいと言っても頑として受け入れないお客さんもいるそうですね。営業を続けるのは従業員さんへの給与支払いの意味もあるし、国の補償も見えない中、簡単には経済的にも休業はできませんよね。

かと言って自分の店が発症の原因になっても困る、と悶々とした葛藤の結果、代官山「TACUBO」さんのように席数を制限して営業を続ける店(都の要請により13日<月>から12:00〜20:00<17:00L.O>の通し時間営業に変更)、緊急事態宣言をきっかけに2年前から予約が入っている五反田「食堂とだか」さんは断腸の思いで今月末までの休業を決めたそうです。首を長くして待っていた客へのキャンセル対応は相当大変になるでしょうね。

でも、恋愛同様、待たされれば待たされるほど恋しさが募って 恋愛成就の時は感動はひとしおかもしれません。楽しみにじっと待ってますね。

その他、宣言前から自主的に休業した人気のシンガポールチキンライス店「海南鶏飯食堂」も一旦4月17日までは全店休業にしつつ、様子を見ながら休業延長という体制を取っています。近くまた会える日を楽しみにしています。

収束の目処となる5月6日までを休業にした店も多数あります。店を開けるも一定期間休業するもどちらを選択するにしても苦渋の選択ですよね。

先が見えて来ればまだ救いはあります。今回の緊急事態宣言効果で数週間後に感染者が相当数減ってくれていれば料理業界にも光は見えます。そのためには今、まずはみんなで「Stay at Home」。『命あっての物種』だし『命に過ぎたる宝なし』。昔からのことわざには深い意味があります。命さえあればなんとかなります。

テイクアウト・デリバリー急拡大

命を守る一丁目一番地の「Stay at Home」を遵守する中で、家にいたまま美味しいモノが食べられるテイクアウト、デリバリー、お取り寄せがここ数週間で充実してきています。

もちろん店側からすれば長時間の客との接触もないし危険性が多少は減るのでしょう。儲けにはならないようですが家賃支払いや事業維持の一助にテイクアウトがなるのであれば対応する必要もありますよね。

僕ら客側からすればテイクアウト、デリバリー、お取り寄せは好きな店の支援にもなるかもしれませんし、行ったことのなかった店の味のトライにもなります。こんな大変な時代でも貴重な楽しみをもらっています。

さらに言えば料理店が取り扱っている野菜や魚、肉などを生産している一次生産者の助けにもなってバリューチェーンを繋ぐ一助にもなるなら喜んで買わせていただきます。

こうしたテイクアウト、デリバリー、お取り寄せに見られる各店の発想も面白いですね。

外苑前のフレンチ「L’EAU(ロー)」の清水シェフはかつてお父さまと営んでいた東長崎の洋食店「レストラン セビアン」で人気メニューだったカレーを再現してテイクアウト用に仕立て上げています。以前のあのカレーファンは確実にいますので、この復活企画はちょっとたまらないと思います。

麻布十番の「ラパルタメント ディ ナオキ」はイタリアン。なのにあの湯河原で朝イチから整理券を貰わないと食べられない「らぁ麺 飯田商店」で習ったラーメンを参考にしながら毎日でも食べたくなるラーメンをオリジナルで作ったそうです。僕も実際にいただきましたが、かつての夜鳴きそばのようなシンプルで懐かしい味でチャルメラの音が聞こえてきそうです。

ひょっとして湯河原に行かずしてそのエッセンスを味わえる事になるかもしれません。地方への移動を控える事にも繋がる商品発明かもしれません。

同じく麻布十番の「十番右京」のお弁当は僕の印象では「オトナのディナーお弁当」。

子供の時に食べた「お子様ランチ」のオトナ版。何故なら『カニクリームコロッケ』『大山鶏の唐揚げ』『トリュフポテトサラダ』『軟骨ソーキ』『梅水晶』『いぶりがっこ』と言ったオトナ(オッさん?)が大好きなメニューのオンパレードになっています。あってほしかったお弁当かも。

そしてミシュラン一ツ星フレンチの「アルゴリズム」は予算のハードルを思いっきり下げてリーズナブルなテイクアウト(8日で6500円)のサブスクモデルを採用し始めたと聞いています。

日頃人気で予約の取れない三ツ星レストランの「神楽坂 石かわ」、「虎白」も税込1万6200円の折詰弁当を考案。

こうしたユニークメニューが生まれて来たのもこのコロナ逆境があったから。苦境でもそれをバネにする力を料理人さん達が持っていることにますますリスペクトを感じます。

デリバリー通販ではひとつ星「シンシア」は「ブイヤベース」を何パターンかで扱うそうです。石井シェフご本人がデリバリーしてくれるともおっしゃってくれましたが、それは冗談としても、こう言ってもらえるだけで気持ちが熱くなるし、逆境はかえってお互いの絆をより強くしてくれますね。

同様に通販。浅草で人気中華の「龍園」で人気の「肉まん」と「ブラウンマッシュルーム焼売」。栖原シェフが以前店の訪問後に送って来てくださったので、こんな時こそこちら側がお返しをするチャンス。縁って重要です。

その他にも広尾のイタリアン「Melograno(メログラーノ)」の後藤シェフは家に籠る人が多い中、子供と一緒に料理を作れるキットや家族で作れる食材も入ったキットを製作。このメニューも外出自粛でずっと家に家族がいるからこそ生み出された商品。退屈しのぎにもなりますし、家族の絆も強くなります。

もちろんテイクアウトだと感染率が低くなると言った科学的データがあるわけではなく、普通に営業するよりおそらく数を稼ぐので接触者数が増えます。それ故テイクアウトに賛同しない店も実際には存在しますが、その結果はデータとしてちゃんと知りたいところですね。

本当にシェフの本能にはリスペクトです。『ラパルトメント ディ ナオキ』の横江シェフが言ってました。「料理を作れれば、それだけで幸せ。それを人に食べてもらえたらもっと幸せ」。シンシア石井シェフも同様に「料理を作ってないと僕らはダメになる。マグロのようにずっと泳ぎ(料理を作り)続けられないと死んだも同然」と。料理を作ることが心底好きなステキな人たちです。

アフターコロナに向けて重要なこと

いくつかの動きは今後の光になる可能性もあります。

デリバリーが盛んになるに連れ、UberEATSや出前館などのデリバリー事業者が従業員募集やら認知度アップのCMを打ちはじめています。出稿量は数億単位と推定されます。

現状のデリバリー業者の手数料は35〜40%と言われていますが、デリバリー市場が大きくなってくると新たな参入業者も増え始めてきます。デリバリーアプリ「menu」などの参入がそうで、競争が起きて飲食業界にとっても僕らユーザーにとっても適正な手数料価格に落ちついてくれる可能性に期待ができます。

『あすチケ柏』というコロナ対策プロジェクトの試みも興味深いものがあります。柏市ではコロナの影響で落ち込む市内飲食店の売上対策に取り組み、全国を対象に柏市の飲食店支援を募っています。「食べたつもり」「飲んだつもり」で「食事券(チケット)の購入」という形を取ります。例えば5000円の食事券を購入した支援者には10%上乗せして5500円の食事券を戻す仕組みにしています。

大阪の吉村知事もデリバリー業者と組んで次のような仕組みを採用するようです。府民がキャッシュレス決済にて1000円以上のオーダーすれば500円分をポイント還元(府が半額250円を補助)する仕組み。デリバリーを利用をすすめることで人々の外出自粛を促すとともに、厳しい外食産業への支援にしたいというのが目的だそうです。

これらの事例は他の都道府県でも参考にできるかもしれませんね。

『人間万事塞翁が馬』のことわざのようにコロナで体感させられている苦難は、実は次の未来に良いことが起きる前ぶれと考えられないでしょうか。世界のみんながココロをひとつにできるチャンスでもあり、次の仕組みを考えるチャンスだと考えると、ちょっとは光明が見えて来ます。

フランス語に「(Noblesse oblige) ノブレス・オブリージュ 」と言う言葉があります。『高貴なる者の義務』とも言うべき財産・権力・社会的地位のある者はそれ相応の責任と義務が伴うということです。地位ある者が富の分配、社会貢献等自分の責務をどう果たしていくのか、というヨーロッパ的な考え方ですが、今の日本にも定着してほしい考え方だと思います。

世界そして日本のセレブ達はこの世界を混乱に陥れているパンデミック時に、「あなた方はやはり世界をリードするスゴい人だ」と私たちを感心、称賛させてくれないものでしょうか?

2020年の世界長者番付でアマゾン・コム最高経営責任者ジェフ・ベゾス(CEO)がコロナ対策のひとつとしてに無料で4600万人以上の人々に食事提供をしている非営利団体「フィーディング・アメリカ(全米の200以上のフードバンクを束ねるネットワーク)」に1億ドル(約110億円)を寄付予定だそうです。12兆円の資産を持つ彼にとっては大した額ではないかもしれませんが、それでも「ノブレス・オブリージュ」の責務を果たしてくれていると思います。地球温暖化防止にも100億ドル(約1兆1000億円)も投入してくれてますしね。

「ノブレス・オブリージュ」。日本でも政治家然り、プライベートジェットや大きな別荘を持つ方たちは、この緊急事態にセレブ義務として何をしてくださっているでしょうか。きっと既にいろんな責務を果たしてくださっているとは思いますが、世界のセレブがどういう行動を取るか、リスペクトに値する人なのかどうか、みんなが関心を持って見ていることを忘れないでいてほしいです。

レストラン評価サイトや予約サイト、食事の宅配ビジネス関係会社もそうです。

出前館は児童養護施設、子ども食堂、などに無料で食事提供を期間限定でしてくれていたりしてますね。ありがとうございます。さらに今回飲食店で働く従業員(アルバイト)が雇い止めにあった時に雇用のサポート=『雇用シェア』をするそうですね。このコロナ影響でデリバリーは2割ほど需要がアップしているそうですが、多くの飲食店は苦しんでいるので、飲食店の要望に応じて2割増とは言わずなるべく多くの人を雇ってあげてくださいね。

僕的にはこの際、日頃レストランでビジネスさせてもらっている会社だからこそ中心になって、基金を作り、自らも寄付の中心となって、他からも寄附金を集める仕組みを進んで作って欲しいと思います。時々、評価基準等で炎上する『食べログ』も、ここで基金を作ったり大きな寄付をすれば名誉挽回のチャンスですぞ。もちろんそこへの協力には僕も厭いません。

さて、僕ら庶民の個人レベルでは何が出来るのか。可処分所得の中で精一杯寄付をし、テイクアウトをし、デリバリー、お取り寄せを利用する程度なのでしょうか。

こう考えると、何もテクニックのない僕らと比較して、今更ながら料理人さん達は美味しい料理で人々を幸せにする事ができる貴重な存在である事を再認識させられます。

コロナと戦うシェフ達がスゴさを発信し始めている

ひょっとして「アビガン」をはじめ抗寄生虫剤「イべルメクチン」という日本発の薬剤が新型コロナウイルスに効果をもたらすことになるかもしれないと言われています。マスクやBCG効果なのか罹患者や死亡者が世界と比べて何らかの要因で比較的少ない状態でいられています。神風的な話ですが、日本は結果的に世界をリードするお手本になるチャンスがある事も少し鼻が高くなります。

この事同様に世界に注目される可能性が出てきているのが、一流人気シェフたちが最近レシピ動画や静止画をどんどんネットに上げ始めてきた事です。

東京は世界でも最も星の獲得店の多い都市。その美食の日本を支えるシェフが無報酬で自分たちの責務を果たそうとしています。

フレンチではナベノイズムの渡辺シェフが野菜スープの「キュルティ バトゥール」、sioの鳥羽シェフは家庭料理の「鳥の唐揚げ」「ナポリタン」、イタリアンでは「トラットリアケ パッキア」岡村シェフ達が惜しみなくレシピを披露してくださっている。Twitterで反応もとても良いそうです。なんの見返りもないのに。

おそらく動画の先で料理を真似して作っているお母さんや家族、子供達、その人たちが喜んでくれている笑顔くらいしか報酬にはならないでしょう。

ただ世界中で自宅に籠もっている人が多い中、これらはこの時代の救いになりそうです。日本の料理人さん達による立派な社会貢献です。

実際に家で料理をするお父さんも増えています。フェイスブックで調理したモノをアップしている人も多くなってきています。子供も一緒に料理を作っている家庭も多いそうです。ひょっとしてこれをきっかけにその子供達が未来の優秀なシェフとして育っているのかもしれません。

他方パテシエが集まって『sugar』なるプロジェクトを立ち上げています。お店も休業し、その影響から食材が余る。その余った食材に協賛食材を加えて「チョコレートバー」を作り、今回最前線でご苦労している医療従事者の方々や物流を支える運送業の方々に配るそうです。

さらには熱い料理関係者、シェフたちが(サイタブリアの石田聡社長とシンシア石井シェフが発起人になって)、感染の危機と戦う都内の新型コロナウイルス感染症患者受け入れている医療機関に美味しい料理(お弁当やらキッチンカー対応)をボランティアで提供し始めるそうですね。医療従事者をサポートしたい、自分たちの料理を食べて栄養をつけてもらいたいと言う気持ちだけで。まずは13日に都内某病院にお弁当を100個支援するところから実際に動き始めるようです。

本当に頭が下がります。ありがとうございます。

一番最前線にいる人たちを癒したい、貢献したいと動く。多分、人を幸せにしたい本能的なモノが料理やスイーツに携わる人たちにあるのでしょう。

こうした日本の飲食従事者達の情熱はきっと海をも超えて世界に知られる事になるでしょう。

日本人料理関係者の方々は僕らに笑顔を与えてくれるだけでなく、誇りです。

新型コロナは厄介ですが、料理関係者の熱いお気持ちと美味しい料理は『世界に笑顔と幸せをもたらしてくれる薬』になる事は間違いないでしょう。

そして僕らもこのもらった笑顔と幸せを誰かに繋ぎ続け、輪を広げていかねば、と思います。

敬愛なる料理関係者のみなさま。あなた方をリスペクトするとともに、心から感謝しています。

敬具

食べること大好き人間より

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