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2024.10.24

仮病なのに本当に体調が悪くなる「ミュンヒハウゼン症候群」とは

完璧主義、依存、頑固、コンプレックスが強い。どんな人にも、こうした性質はあるものです。しかし、それが「異常心理」へとつながる第一歩だとしたら……? 精神科医・岡田尊司さんが、私たちの心の中にひそむ「異常心理」を解き明かす。『あなたの中の異常心理』から一部を抜粋してご紹介します。

ウソをついてでも関心を集めたい欲求

自己目的化した嗜癖(しへき)の一つに、虚言癖というものがある。

人類の知能の進化は、今や道具的知性の発達以上に、社会的知性の発達に負うところが大きいと考えられているほどだが、社会的知性の中でももっとも重要な能力は、ふりをする、つまりウソをつき、演技をする能力である。

装うことによって相手に油断させ、相手の行動を操作することで敵をあざむき、ワナに掛け、自分よりはるかにどうもうな相手を倒すこともできるようになった。

さまざまなふりをすることで、急場しのぎをしたり、利益を得たりする。それ自体は、正常な機能である。

病気のふりをして仕事をさぼるのを大目に見てもらうといったことも、ある範囲内では必要な能力であり、馬鹿正直に手抜きなしで働いていたのでは、身がもたないこともあるだろう。働いているふりをして、さぼることも、ときには必要なのである。

だが、ふりをして厄介事を逃れたり、優しくしてもらったりすることも、それが自己目的化してエスカレートすると、異常心理の領域に足を踏み入れることになる。

学校へ行こうとするとおなかが痛くなるといった程度ならいいが、激しい腹痛を訴え、本当に緊急手術を受けるということを繰り返しているとなると、常識的な理解を超えているだろう。開腹手術に伴う苦痛やおなかに残る痛々しい傷跡という不利益を差し引いてでも、その人にとっては手厚く看護してもらい、他の雑事から免れていられるということが、大きなメリットなのである。

実際、原因不明の腹痛のため、何回も開腹手術を繰り返しているというケースがある。

筆者が経験したケースでは、自分で肩関節を外してしまうということを繰り返すものだった。一方の肩が外れて、ギプスで固められるだけでも不自由だが、ついには、両肩とも外してしまった。それでも、手当てされ、かまってもらえるということの方を求めてしまうのである。

これらのケースは、虚偽性障害と呼ばれるが、またの名をミュンヒハウゼン症候群という。ミュンヒハウゼンとは、ほら吹き男爵として有名な人物の名前であるが、ほら吹き男爵は、体の傷を見せては、これは名高い戦闘でできた傷だと作り話をして自慢するのを常とした。

自分の子どもや家族を病人に見せかけるケースも

病気の症状を自ら作り出す虚偽性障害も、空想虚言と呼ばれる病的な虚言癖も、注目や関心を惹きつけるためにウソをつくという点では同じである。

しかも、苦痛や信用失墜という代償を払ってまで、それを繰り返すということは、その行為自体が自己目的化しているということであり、それだけ強い快感があるということである。その背景には、関心やかまってもらうことへの飢餓感があるのだ。

ミュンヒハウゼン症候群の中の特殊なものに、代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれるものがある。

自分の子どもや家族を病人や怪我人に見せかけ、同情や支援を受けることで満足を得るというものである。

子どもを保険に入れることで、入院保険金死亡保険金まで手に入るとなると得られるメリットはさらに大きくなり、一度その快楽の味を覚えると病みつきになってしまう人もいる。保険金という金銭的利得なしでも、子どもが亡くなるということさえも、周囲の同情を得て、自分が悲劇の主人公になったような気分を味わえるというメリットがあるのだ。

代理ミュンヒハウゼン症候群も、虚偽性障害の一つである。

虚偽性障害とよく似たものに、びようがある。詐病というのは、ただ病気のふりをするだけである。それに対して、虚偽性障害というのは、単にふりをするだけでなく、実際に傷があるとか、症状が出ている状態である。

昔、兵隊が前線に送られるのを免れるために、醤油を大量に飲んだという話があるが、それで顔や手足がんで、病気に見せかけるわけである。この場合も本当に症状があるので、詐病ではなく、虚偽性障害ということになる。

戦争から逃れるといった現実的な利益のために病気のふりをするのは、まだ理解できるだろう。

それに対して、一見何の得にもならないようなことのために病気に見せかけたり、体に傷をつけたり、甚だしい場合には手足を失ったりするところまでいくと、かなり深刻な愛情飢餓関心への欲求を抱えていると考えられる。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:あなたの中の異常心理
岡田尊司

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