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2024.09.04
“東大に女性は2割”という事実が示す、あまりにも特殊な日本の現状
OECD(経済協力開発機構)諸国で、日本は最も理系女性が少ない国。女性学生の理科・数学の成績は世界でもトップクラスなのに、なぜ理系を選択しないか? 緻密なデータ分析から、その背景にある日本の男女格差の一側面を浮彫りにする。『なぜ理系に女性が少ないのか』より、一部を抜粋してお届けします。
世界の大学では女性学生のほうが多いのが普通
日本の「ジェンダーギャップ指数」について見てみましょう。「ジェンダーギャップ指数」という言葉は、最近、目にする機会が増えたと感じている人も多いはずです。
日本に女性政治家が少ないことは、国として大きな問題だ、とよく言われますが、156カ国中147位という数字を知ると、その深刻さが分かります。
「政治」に加えて「経済」の順位も非常に低いことが分かります。日本は女性が経済に参加する、つまり働き続けることが難しい状況が続いており、改善されつつありますが、まだまだ問題が残っています。既婚女性が、配偶者の収入があるからという理由で給与を低めに抑えられがちなことや、家事労働の時間が男性と比較して圧倒的に長いことも問題になっています。
教育における男女比率を、別の側面からも眺めてみましょう。図表1-6は、先に挙げた図表1-2と同じOECDのデータですが、こちらは「すべての分野での高等教育機関における女性学生」の割合です。短大なども含みます。
大学のみに限ると男女の進学には大きな差があり、日本では女性のほうが男性よりも15%も進学率が低く、大学院では40%も低くなります(※1)。
私自身、このプロジェクトを通して初めて知って驚いたのは、世界では大学のキャンパスに女性学生のほうが多いのが普通、という事実です。先進国では落ちこぼれ男子問題が顕在化し、女性学生のほうが20%ほど多い国が多いようです。日本にいると、多くの大学で男性学生のほうが多いことを特に不思議に思いませんが、世界の中でこれは特殊です。
10年ほど前の女子中高生向けイベントで、印象的な場面がありました。一緒に参加する親子を、親は親、生徒は生徒の部屋に分けて質疑を受ける時間を設けました。教員が親と率直にやりとりをすることで、親の不安を和らげようというねらいでしたが、女子生徒の親から思いもよらぬ質問が出ました。
息子には大学教育を受けさせたいが、娘に大学教育しかも理系教育をする意味はどこにあるのか、といった内容でした。
親からしてみれば、就職先もはっきり分からない分野に子どもを送り出すことに、不安があったのでしょう。しかし同じ分野を希望する兄は支援するが、妹は「女の子だから」、学費の苦労をしてまで送り出す必要があるのか、という質問が出たことは、女子生徒の理系進学支援事業をしている教員には大きな衝撃でした。これも、日本の社会風土を感じさせる一幕でした。
世界の多くの国々では、大学に進学するのは女子のほうが多いということは、日本でもっと広く論じられるとよい話題だと思います。
日本は大学進学率がそもそも高い、という事情はあります。また、各国にはそれぞれの事情があるので、単純に数字だけ並べて議論することは難しいでしょう。ただ、日本は男子と比較して女子が高等教育に進学していない、大学教育において男女格差が大きい国だ、と言うことはできるのです。
女性学生が2割弱、あまりに特殊な東京大学の現状
日本の大学における女性学生の少なさが、世界的に見ていかにショッキングな事実かという記事が、アメリカの新聞「ニューヨークタイムズ」に掲載されたことがあります(2019年12月8日)。
記事は東京大学を対象にし、「ニューヨークタイムズ」紙の記者モトコ・リッチさんが、時間をかけて丁寧に取材し、内容はバランスの取れたいいものです。見出しには、「日本で最もエリートだと言われる学生のいる大学に、女性は5人に1人しかいない」とあります。
記事ではキャンパスの雰囲気について紹介したり、東大で男女共同参画事業に励む教授たちを一人ひとり取材したりしています。大学としての取り組みが行われている様子と共に、女性学生が非常に孤立しがちで、男性が多い環境の中で違和感を持つという、何人もの談話も紹介されています。
実際、東京大学は、2020年までに女性学生の比率を3割にするという目標を掲げましたが、2021年時点で、女性学生の比率は24.2%、学部生にいたっては19.7%と2割すら切っており、目標達成に至っていません。
男性学生の数が多いことに違和感を持たない人も、世界から見れば驚くべき事実なのだということを、この記事から感じ取っていただけるのではないでしょうか。
前述したようにカブリIPMUの大栗博司機構長が教授を務めるアメリカのカリフォルニア工科大学でも、女性学生率は5割近くです。理系の全米トップ大学で女性率が5割に迫る中で、東京大学の現状はあまりにも特殊と言わざるを得ないでしょう。
※1 畠山勝太(2022).「グローバルなジェンダー指標から見た日本の中等教育とそれを取り巻く環境の課題」『学術の動向』27(10)
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