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2024.07.26
「大切な児童ですから」小学校教諭が女児への性加害に及んだ認知の歪み
子どもと親しくなり、信頼関係を築いた上で、その信頼を巧みに利用して性的な接触をする「グルーミング」。見ず知らずの相手を狙う痴漢や盗撮などとは大きく異なります。性犯罪者治療の専門家、斉藤章佳さんがこの性犯罪の特徴やそれを取り巻く問題について解説した『子どもへの性加害』より、一部を抜粋してご紹介します。 ※性被害・性加害の具体的な描写があります
グルーミングの3つのパターン
グルーミング(grooming)はもともと、「動物の毛づくろい」という意味の英語からきています。猫が自分の体をなめて毛づくろいをする姿は、とてもかわいらしいですが、これが性犯罪の文脈では、様相はガラリと変わります。子どもと親しくなり、信頼関係を築き、その信頼を巧みに利用して子どもに性的な接触をするグルーミングという用語は、1980年代後半、アメリカの研究者から徐々に広まっていったといわれています。
グルーミングは、次の3つのパターンに分類できます。
- (1)オンライン上でのグルーミング
- (2)面識のある間柄でのグルーミング
- (3)面識のない間柄でのグルーミング
なかでも近年は、(1)のオンライングルーミングについて心配される親御さんも増えていると思います。SNSが急速に発達し、小学校低学年の子どもたちでもスマートフォンやタブレットに触れる機会が増えました。NTTドコモ モバイル社会研究所の調べでは、小学校高学年のスマホ所有率は37%、中学生だと76%にものぼります。中学2年生になると8割を超え、小学校高学年・中学生では女子のほうが10%ほど高いようです。
いまや子どもたちにとってもスマホは体の一部であり、電話やLINEなどによるコミュニケーション手段だけでなく、ちょっとした買い物や電車に乗るときの決済手段として、また親にとっては子どもがどこにいるのか位置情報を把握するためにも欠かせないツールです。子どものスマホ所有率は今後も増え続けるでしょう。
他校の児童にゲームアプリで近づいた小学校教諭
小学校教諭のA(30代男性)は温和で仕事熱心。児童からの人気が高く、保護者からの信頼も厚い、いわゆる「いい先生」だったという。公務員の妻と小学校低学年になる娘の3人家族で、数年前には関東郊外に新築のマイホームを構えた。
しかしAには、誰も知らない別の顔があった。それは、夜な夜なスマホのオンラインゲームアプリに出没することだ。自分が農場のオーナーとなり、作物の栽培をする人気の農場ゲームアプリで、ほかのプレイヤーと収穫量を競ったり、チャット機能を使ったやりとりができる。ランキングも発表され、Aは常にトッププレイヤーとして一目置かれる存在だった。
残業を終え帰宅するとAは、時間を見つけてはゲームアプリを立ち上げていた。アプリ上でAは、何人ものプレイヤーとやりとりしていたが、そこには数多くの未成年者が性別を問わず含まれていた。
ある日、Aは小学校6年生の女児とゲームアプリを通じて知り合った。最初はたわいもない雑談から始まり、やがてAが希少性の高い有料アイテムをプレゼントしたり、ゲーム攻略のアドバイスをするなど、徐々にふたりの距離は縮まっていった。
さらにやりとりはゲーム外にも及び、やがてAと女児は実際に顔を合わせるようになった。彼は小学校の教諭であることは隠さず、ときに女児に勉強を教えるまでふたりの関係は親密になっていった。そしてある日、ついにAは女児をホテルに連れ込み、暴行や脅迫を用いずに膣内性交や口腔性交を含む性加害に複数回及んだ。また、その様子をスマホで撮影していた。
加害者には小学校低学年になる娘もいた
「自分が担任をしている児童には、そんなひどいことはできません」
これは実際にAが口にした言葉です。
私が最初にAと出会ったのは、警察署での面会でした。私はソーシャルワーカーとして、しばしば刑事手続きの入口段階で、拘留中の性犯罪加害者と面会をしています。そのなかで、裁判に必要な再犯防止計画を一緒に作成していきます。
前述のとおり、Aは女児をオンライングルーミングの末、性加害に及びました。後日、女児の様子がおかしいことから保護者が異変を察知し、警察に届け出たことでAの加害行為が明らかになりました。逮捕後、ほかにも複数人の小学生女児への同種の加害行為が発覚し、強制性交等罪、強制わいせつ罪、児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)に問われたAは懲役10年の実刑判決を受け、現在は刑務所で服役しています。
私がAに抱いた第一印象は「真面目そうな男性」でした。質問にも丁寧に答えますし、元教員らしい端正な文字で書かれた「リスクマネジメントプラン」は毎回、期日どおりに送ってくれます。また刑務所の中では、日々の筋トレや瞑想を欠かさないとも語っていました。
読者のなかには、Aが小学校教諭だったことから、彼自身が勤務している学校の児童たちに加害行為を繰り返していなかったのか疑問に思った人もいるでしょう。結論から述べると、彼は自分が受け持っている児童たちには一切、加害行為に及んでいませんでした。
当初それを聞いた私は「自校の児童に性加害を行えばすぐに犯罪行為が露呈してしまうため、ある種のリスクマネジメントなのかな?」と考えていました。しかし、その予想は大きく裏切られました。彼の答えはこうです。
「自分が担任をしている子どもには、そんなひどいことはできません。大切な児童ですから」
当然ながら、他校の生徒・児童だからといって「ひどいこと」、つまり性加害をしていい理由にはなりません。これは驚くべき認知の歪みです。
自分が担当している児童は大切だから、そんなおぞましいことはできない。Aには小学校低学年になる娘がいましたが、自分の娘に対しても同じ心持ちだったようです。職場では仕事熱心ないい先生、家庭ではやさしいお父さん……そんな彼の加害性の矛先は、ゲームアプリで知り合った女児に向けられていたのです。
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