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2024.06.17

実力は運に過ぎないとすると、社会の制度はどう変えるべきか

新しい発想で世界経済をけん引する企業が次々と登場する欧米に比べ、なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか。それは、欧米では子どもの頃から「当たり前を疑うことが大事だ」と徹底的に教え込まれ、物事を批判的に思考するクセができているから。その教育の根底にあるのが「哲学」だ。好評発売中の『「当たり前」を疑う100の方法』(幻冬舎新書)では、人気哲学者の小川仁志さんが古今東西の哲学から、マンネリを抜け出し、ものの見方が変わる100のノウハウを伝授。本書より、試し読みをお届けします。第5回。➡︎ 第1回から読む

「当たり前」を疑う100の方法 第5回

努力できる境遇かどうかは運に支配されている

実力とは何でしょうか? アメリカの政治哲学者マイケル・サンデル(1953―)は、もしそれが努力と才能による結果を指すなら、そんなものはたまたま努力できる環境に生まれたり、才能を与えられたりしただけなのだから、まったくの運に過ぎないといいます。にもかかわらず、私たちは努力と才能を過剰に高く評価して、いわゆる能力主義を採用してきました。それが学歴偏重主義を生み、結果として社会を分断することになってしまいました。

そもそも努力すればいい大学に入れるかというと、決してそうとは限りません。生まれた境遇によって受けられる教育が変わってくるからです。つまり、努力できる境遇かどうかは運に支配されているということです。そのことをきちんと理解すれば、努力と才能に恵まれた勝者はもっと謙虚になれるでしょう。

ところが現実には、勝者は驕(おご)り高ぶっています。他方、敗者は屈辱を覚えています。だからこそアメリカでは、高学歴ではない白人労働者層がトランプ前大統領を支持するというポピュリズムの問題が生じたわけです。

そこでサンデルは、能力主義による対立を乗り越えるべく、社会全体の目標である共通善を紡ぎ出す必要があると主張します。ただしそれは、従来のような消費者の幸福を最大化するものであってはいけません。むしろ生産者、つまり労働者の方に目を向けるべきだといいます。

つまり、すべての労働者が、自分も社会に役立っている、貢献できていると実感できる世の中を作らなければならないのです。資本家や消費者のように生産性を重視する正義から、労働者のための、いわば「貢献的正義」への転換が求められるのです。

〈こんな感じで使ってみよう〉

Q、実力は運に過ぎないとすると、社会の制度はどう変えるべきでしょうか?

A、まず学歴社会を見直す必要があるでしょう。たとえば、大学入試に関しても、入学の機会を平等にするために全員好きなところに入れるようにするのはどうでしょう。就職についても同様の仕組みが検討されるべきだと思います。もちろん定員数はあるでしょうから、その時点では平等にくじで選んでもいいかもしれません。この場合のくじは、平等に機会が与えられたうえでの運なので、まったくそういう機会が与えられない現行の社会制度とは大きく異なるといえます。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:「当たり前」を疑う100の方法
小川仁志

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