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2025.03.25

作家・原田マハ×「ArtX」CEO、日本のアートをもっと世に広め、引き継ぐためにすべきこと

アート業界向けサービスを展開するArtXの代表取締役であり、コレクターでもある播口友紀氏と、美術館のキュレーターを経て、数多くのアート小説を手がける原田マハ氏。ふたりが見つめるアートの今、そして、未来とは?

播口友紀氏と原田マハ氏
19世紀にイギリスで活躍したジョン・ブレットの絵画の前で。「この画家は知らなかったけれど、海の美しさに惹かれ、即決で購入しました」(播口氏)。「現代アートではなくジョン・ブレッドやモネなど古典派好みなのも播口くんらしい」(原田氏)。

アートの新たな扉を拓く、冷静と情熱の思考

アートの売買やギャラリー向けの業務管理クラウドなどを展開するArtX。代表を務める播口友紀氏は、作品を収集するうちに、日本のアート業界のイノベーションの遅れなどの課題に注目。そこに可能性を見い出し、課題解決のために同社を設立。2024年春、ユニークなスタイルとキュレーションが話題となった「ArtXAuction」を開催するなど、日本のアート界に一石を投じている。

播口氏をアートの世界へと誘ったのは、キュレーター経験を持つ作家、原田マハ氏の“アート小説”。共通の知り合いを通じて去年の夏、初対面を果たし、意気投合したふたり。播口氏が手がける西麻布のレストラン「YAWYE(ヤウウィー)」にて、アートの魅力とマーケットの現況、そして、未来について語ってもらった。

アートは人の記憶にずっと残り、存在し続ける

播口 僕のアートの出発点は、マハさんの小説でした。ピカソやゴッホなど、誰もが知っているアーティストとその作品をベースに物語が進行していくので、読んでいるうちに、アートそのものに興味が湧いてきました。その後、ギャラリーやフェアで作品を購入するようになったのですが、そこで気づいたのが日本のアート界のプレゼンスは世界に比べて遅れているということ。これは放っておけないと、4年前、ArtXを設立したんです。

原田 初めてお会いしたのは、去年の夏。その前に、「ArtXAuction」のカタログを拝見したんですが、コレクターの想いも一緒に次の人につなげたいという姿勢が見えたし、キュレーションのセンスもよかった。これを仕掛けたのはどんな人だろうと興味を持ったのだけど、播口くんにお会いして、すぐに納得しました。根幹にとてもいいものをお持ちだし、インスピレーションに従って即座に行動し、広げられる人なんだなと。

播口 ありがとうございます。

播口友紀氏
播口友紀/Yuki Hariguchi
ArtX CEO。1991年生まれ。慶應義塾大学在学中の19歳から起業と事業売却を経験し、2015年、アイザックを共同創業。2021年、アイザックのグループ会社としてArtXを設立し、代表取締役に就任。飲食店向け業務支援サービスを提供するハローの代表も兼任している。

原田 一番好きな美術館を聞かれたので、「ドイツのインゼル・ホンブロイヒ美術館。近々行く予定なので、ご一緒しますか?」とたずねたら、播口くんは「行きます」と即答で。私もフットワークが軽くて飛ばすタイプだけど、播口くんも同じですよね。

播口 ご一緒させていただいた1週間は、美術館にアートフェア、オークション、印象派から現代アートと、アート三昧ですごく幸せな時間でした。

原田 長く話をしたわけではないけれど、同じ作品を一緒に観ていると、相手の興味の方向性や考え方、人間性がよくわかる気がするんですよね。あの旅はお互いを知るための、ある種のクリエイティヴなオリエンテーションだったなと思います。

播口 これからの5年、10年はアートにしっかり身を捧げようと決心する旅になりました。マハさんの素晴らしい解説とサポートのおかげです。

原田 頼もしい! 私は小説をとおしてアートを応援してきましたが、ビジネスサイドからも新しい応援者が現れればいいなと思っていました。播口くんはその能力があるし、何よりクリエイションに対するリスペクトが感じられて。

播口 アートへのリスペクトは、めちゃめちゃありますね。僕が関わってきたソフトウェアの世界は、どんなにいいウェブサービスを出しても5年後、10年後は残っているかどうかわかりません。でも、アートは大昔から存在していて、人の記憶にずっと残り受け継がれていく。そこにものすごく魅力を感じます。

原田 人が生みだしてきた文化のなかで最も古いのがアートです。人類は天災や飢饉、戦争などいろんな苦難を体験してきたけれど、アートは一度たりとも途切れることなく、人々とともに歩み続けてきたわけです。だから私、思うんですよ。人類史上、“最先端”にいる私たちはどんな苦しいことがあっても、アートとともになんとか生き延びていけるはずだって。そんな風にいつもアートに励まされているんです。

でも、日本の文化行政は世界的に見ると遅れていると感じます。コロナの時も、ドイツは「アートは人間にとって必要不可欠」と、真っ先に芸術に補助金を出したのに、日本では後回しにされてしまった。世界に誇れる素晴らしい芸術があるのに、もったいないと思います。

播口 本当にそうですね。

原田 (ベネッセハウス ミュージアムなどを創設した福武財団の)福武哲彦さんや總一郎さん、(大原美術館創設者の)大原孫三郎さんなど、一般の人たちが本物の西洋美術に触れられるようにと私費で美術館を開いた実業家がいました。また国立西洋美術館も、松方(幸次郎)コレクションがベース。そんな風にアートと向き合ってきた日本人がいたことも、もっと世界に知ってほしい。そういう想いで活動してきたから、播口くんのような若い人がアートのために頑張ってくれるのは、すごく嬉しい!

原田マハ氏
原田マハ/Maha Harada
作家。1962年生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。2006年、『カフーを待ちわびて』でデビューし、『楽園のカンヴァス』『リーチ先生』『板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh』など著書多数。

アートティストを支える「応援バジェット」を設定

数年前からアートブームが起こり、日本でも、現代アートを中心に市場が過熱。“投機”目的のコレクターも目立つが、その状況をふたりはどう見ているのだろうか。

播口 マーケットにお金が流れれば、アーティストのモチベーションが上がるので、悪いことだとは思いません。ただ、海外と日本では評価される作品が全然違うのが気になります。日本のマーケットはシュリンクしているので、価格の高騰や盛り上がりは一時的なものという危惧もあります。

原田 日本のマーケットはある種、ガラパゴス的な発展をしてきたと感じます。韓国は人口が少ないということもあり、グローバルな展開をしないと成り立たないことをわかっていて、早くから国を挙げて世界に発信してきたんですよ。結果、韓国のアート界はすごく注目されているし、多くのアーティストが育っています。対して日本は、発信力が弱い。このままだと取り残される一方でしょうね。

播口 韓国は財閥が存在するので、アート業界への支援の規模も違いがありそうですね。富裕層がアーティストを支えるという構図は昔も今も変わらない。だから、日本に、アートを支援できる富裕層を増やすと同時に、彼らがアートに関心を持って支えようという気になることも大切だと。微力ながら、僕自身もアートに費やすための『応援バジェット』を毎年設定しているんですよ。購入する作品は資産性はまったく無視していて、純粋に自分が好きかどうかで選んでいます。

原田 そういう日本型のパトロネージュが増えると、すごく嬉しい! 「今これがブームだから」とか、「数年後には価格が倍になりそう」といった理由で購入するだけでは、アートに対する興味や関心は続かないから。

播口 経営者仲間をギャラリーやフェアに誘うと、けっこうハマってくれますね。

原田 日本の美術館訪問者数は世界トップクラスだから、素地はあるはず。金銭的な余裕と飾るスペースがないという住宅事情のせいで、なかなか購入にはいたらないだけで。

播口 美術館は2000円前後の入場料を払えば、何十億もする素晴らしい作品が観られるんですからすごく贅沢。それは小説も、映画も、ですが。

原田 ナイスコメント(笑)。おっしゃるとおり、展覧会と単行本と映画はどれも2000円前後。クリエイターが時間と労力、それに命を削って生みだした成果物だから、決して高くないと思う。タダ券が手に入ったらとか、図書館で借りようなんて考えず、ぜひご購入いただきたい(笑)。

播口 そういえば、マハさん、今度映画を監督されるんですよね。

原田 そうなの。原作と脚本も担当させていただきます。私の小説は、読者の方から読んでいてビジュアルが思い浮かぶとよく言われるんですよ。実際、執筆する時は、イメージが言葉より先にビジュアルで現れるし。ただ、バックグラウンドが違うのだから、私が頭の中で見ている絵と、読者が行間から読み取って思い描く絵は、一致していないはずなんですよ。それで、「原田マハの目にはこう映っている」というのを、一度皆さんにお見せしようと、監督をやらせていただくことにしたんです。自分の小説を責任持って映像化したいと。もともと映画が好きというのもあるんですけどね。

播口 公開は2026年ですよね。撮影はいつから始まるんですか?

原田 4月からの予定だけど、撮影後の編集作業にも携わるつもりだから、小説のほうはしばらくお休みになっちゃうかな。播口くんも、もうすぐ新しいスタートを切るのよね?

播口 ArtXの事業を、本格的にグローバル展開するために、春にはロンドンに移住します。

原田 本当に軽やか! 播口くんのような人が、あと300人くらいいたら、日本のアート業界はもっと盛り上がりそう。

播口 僕もそう思います(笑)。

原田 お互いに新しい挑戦をしつつ、人類共通の財産であるアートをもっと世に広め、次の世代へと引き継いでいくためにこれからも頑張りましょう。

ArtXが手がけるアートオークション「ArtXAuction」とは?

ArtXAuctionの様子

2024年3月16日、初心者でも親しみやすいオークションを目指して開催。「家に飾ることがイメージしやすいように」と、歴史的建造物「小笠原伯爵邸」を会場に選び、キュレーションは入木龍生氏、ディレクションは門間理子氏が担当。

館内には考古学に印象派、モダンアートなど、時代や分野を超越したバラエティ豊かな作品が展示され、プレビューではオークショニアが作品のバックグランドやストーリーを参加者に説明するなど、“アートにもっと関心を持つ”ための仕掛けが随所に施された。

また、初心者や海外からもビッディングしやすい環境を整えるべく、ArtX独自のオンライン・システムも導入。第二回は来春開催を予定。現在はアートアドバイザリー事業も開始。

問い合わせ
ArtX https://artx.com/auction/top

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=田中駿伍

HAIR&MAKE-UP=高山ジュン(播口氏)、MIZUHO(原田氏)

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