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2024.05.29
脅しも暴力も無用。大手ゼネコンの極秘案件、明暗を分けた“デキる”ヤクザの交渉術
年功序列、終身雇用が崩壊し、欧米型の雇用環境に変わりつつある日本。これからのシビアな社会を生き抜くには、ただの「いい子」ではやっていけません。そんなときヒントになるのは、生き残りを賭けた戦いを日々、繰り広げている裏社会の人たち……いわゆるヤクザの生き方です。リーダーシップ、錬金術、逆境の乗り切り方など、彼らヤクザの「戦略」がよくわかる『ヤクザに学ぶサバイバル戦略』より、その一端をご紹介しましょう。
「動かない人」を動かすには?
バブル時は、地上げに関係するものと思われる放火騒ぎや、ダンプカー突入がよく新聞記事を賑わしたものだが、果たして荒っぽい手口を使った地上げ屋のみが最後の勝利を収めたのであろうか。
「いや、そうじゃない。私なんか、地権者や居住者に対して強圧をかけたことさえなかったよ。かといって、札束積めばいいというモンでもない。やはり交渉テクニックってものが必要になってくるんだけど、私の場合、これはと見込んだ物件に対しては粘り強く交渉を重ね、相手のいい分なりを可能な限り聞いてやっていた。それでたいがいは契約が成立。威嚇なんて愚の骨頂」
とは、地上げで財を成した某組長の弁だ。錬金交渉術とでもいったらいいであろうか。
では、地上げにおいて、勝ち組と負け組にわけたものは何だったのであろうか。次に紹介するのは、その典型的なケーススタディである。
バブル時、『A土地』『B不動産』という看板を掲げるふたつのヤクザ組織が、大手のゼネコン会社から、都内一等地の地上げを極秘に依頼されたことがあった。
A土地系の組員はまず地主の家に押しかけると、札束で頬を叩くようなやりかたで立ち退きを強要した。地主にそれを拒否されると、今度は借地権者を個別にまわり、おなじ方法でせまり、ときには暴力的な言辞をちらつかせさえした。
だが、それはまったく逆効果となり、一部の借地権者こそ大金を目の当たりにして立ち退きに同意したものの、大半は態度を硬化させる結果となった。交渉が決裂すると、今度はA土地系組員、深夜の無言電話や汚物のバラ撒きなど、お定まりの嫌がらせ作戦に打って出た。
粘り強さとキメ細やかさが必要
一方、B不動産系の組員たちも当初は苦労した。A土地と同類視され、不動産屋の名刺を差し出した途端に頭から水をぶっかけられもした。
かといって、そこで、
「おどリャあ! よくもやりやがったな。よっしゃ、上等じゃないか! てめぇら、首を洗って待っとけよ!」
などと、暴力団丸出しに呻りまくったのでは元も子もなかった。グッとこらえたB不動産、嫌がらせや脅しの代わりに何をやったかといえば――地主、借地権者の代替地、つまり引っ越し先を懸命に探し、なおかつ、彼らの家族構成まで調べあげたのである。
「ただ漠然と、どこでもいいからと引っ越し先を見つけてあげるだけではダメなんだ。たとえば老人所帯であるなら、陽当たりがよく、環境のいい郊外の土地を、あるいは子どものいる借地権者なら教育環境の行き届いた地域を振り当ててやる――という具合に、キメの細かい配慮をしてやったことが、好結果を生んだわけだよ」(B不動産系組幹部)
もちろん立ち退きをせまられた人のなかには、いわゆる“ゴネ得”を通そうとする者もあった。B不動産はそういう連中のいい分も可能な限り聞いてやったのである。
かくて最後に笑ったのは、B不動産の看板を掲げるヤクザ組織のほうだった。都内一等地の地上げに成功、結果的に費やした資金の額も、札束の力で立ち退きをせまったA土地の7割がたで済んだという。
力一点張りの押しだけでなく、交渉のなかに相手のいい分をギリギリまで取り入れ、サジを投げずに最後まで執拗な交渉を重ねていくこと――これこそが錬金交渉術の極意というものであったろう。
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