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2024.05.08
【ヒトラー】失敗しても反省しない。釈明を自己宣伝の場にうまく変える
権力を握ることは悪ではないが、激しい闘争を勝ち抜き、のしあがった者に“ただのいい人”はいない――。最強にして最悪といわれる3人の独裁者、ヨシフ・スターリン、アドルフ・ヒトラー、毛沢東。彼らの権力掌握術について徹底的に分析した『悪の出世学』(中川右介著)から、ヒトラー部分の一部を抜粋。第2回。→ 第1回から読む
裁判を宣伝の場へ
一揆は失敗したが、この事件でヒトラーとナチスは全ドイツ的に有名になった。命がけではあったが、宣伝効果はあったといえる。
さらに、逮捕の次に待っていた裁判で、ヒトラーは堂々と自分の主張を述べることができたので、これもまた宣伝になった。
反政府運動をする場合、失敗して逮捕されたからといって「反省」したのでは、何の業績にもならない。悪い政府を倒すための正しい戦いであると主張することで、党員も喜ぶし、支持者への顔も立つし、さらには新たな支持者の獲得にもつながる。
失敗にくよくよせずに、逮捕・勾留・裁判ですら、自己宣伝へと転化する割り切りが、ヒトラーのその後を決めた。
裁判では四時間にわたる冒頭陳述をしたという。
「責任は私がひとりで負う。しかし、私は犯罪者ではない。国民のために最善を尽くそうとしたのだ」
こう言って、党員や支持者を感動させた。
一揆は11月で、判決が出たのは半年近く後の1924年4月だった。「禁固五年」の判決である。ヒトラーはこの時点でまだ国籍はオーストリアにあったので(1932年にドイツ国籍を取得)、ドイツの法律に照らせば、国外退去処分になっても仕方がないのだが、それは適用されなかった。禁固5年も、国家に反逆した割には軽い。
裁判長が寛大な刑としたのは、ヒトラーがひとりで罪を背負ったからだった。この一揆にはバイエルン州政府の高官、そして裁判所の判事の一部も関係していた。それらが広く知られると、バイエルン州全体が大きく揺らぐ。ヒトラーは裁判所の秘密を沈黙することで守った。
ヒトラーは自分ひとりの責任とすることで、暗黙裡に裁判所に貸しを作ったのである。
禁固5年も軽かったが、さらに、その刑務所での生活もかなり待遇がよかった。手紙のやりとりも面会も自由だった。この優雅な獄中生活で、ヒトラーは『我が闘争』の口述を始めるのである。つまり、獄中にはヒトラーの協力者が一緒にいて、口述筆記をしていたのである。
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