壮大な宇宙、憧憬の旅、美しい青海原、あるいは幻想の空間。芸術性豊かなクロックは、見る者をさまざまな夢の世界へ誘う。そして邂逅(かいこう)する光景に、その体験に、誰もが息をのむはずだ。【特集 美しい時計】
1. ヴァン クリーフ&アーペル|プラネタリウム オートマタ
天体の動きを忠実に再現する、機械仕かけのプラネタリウム
夢と感動をもたらすヴァン クリーフ&アーペルの時計制作において、最も重要な技術のひとつが“オートマタ”(=からくり時計)だ。生き物や自然界の動きを機械仕かけで再現するもので、1906年にメゾン初のオートマタを発表しているほど歴史は古い。
その伝統は現代に継承され、2017年より「エクストラオーディナリー オブジェ」という名で本格的なオートマタ制作を再開。現代オートマタの第一人者フランソワ・ジュノ氏と協業しながら、数々の傑作を世に送りだしている。
天体の公転周期を再現する天象儀「プラネタリウム オートマタ」はその最新作。太陽の周囲を公転する惑星の動き(例えば水星は88日、土星は29.5年で一周)を、複雑を極めた機械式ムーブメントが再現する。そしてボタンを押すと音楽が流れ、流れ星は周回し、惑星が上下運動しながら回転。
こんな華麗な仕かけも、メゾンの時計制作のテーマである“ポエトリー オブ タイム”を物語るのだ。
2. シャネル|ライオン アストロクロック
神秘的な感覚を呼び起こす、近未来的クロック
シャネルの最新ウォッチコレクション「シャネル インターステラー カプセル コレクション」。インスピレーションの源は、サイエンスフィクションや宇宙旅行、タイムトラベルの世界観で、なかでも「ライオン アストロ クロック」は特に異彩を放ち話題をさらった。
本作はガブリエル・シャネル自身の星座に着想を得た置き時計で、サファイアクリスタルの球体の中には老舗クロックメーカー、レペ社製の精巧な機械式ムーブメントを内蔵する。頂点の黒い球体の回転で時表示を行い、分針となる獅子座のシルエットで時刻を読み取る。
勇ましいライオン像が見守る球体の中で回転する、美しい小宇宙。まるで時間の流れが異なるふたつの異空間に存在するような、神秘的な感覚を呼び起こすクロックだ。
3. ジャガー・ルクルト|アトモス・インフィニット
発明といえる独創的機構があらゆる角度から愉しめる
スイスの名門マニュファクチュール、ジャガー・ルクルトが1928年に発明した「アトモス」は、気温の変化からエネルギーを引きだし、操作を必要とすることなく半永久的に動き続ける置き時計。
その秘密はガスを密封したカプセルにある。カプセルは膜によってゼンマイに接続されており、わずかな温度変化によってガスの体積が変化し、膜がアコーディオンの蛇腹(じゃばら)のように“呼吸”することでゼンマイを巻き上げるのだ。
2022年に発表された本作は、「アトモス」を21世紀向けに再解釈したもの。ガラスキャビネットに時分表示機能を備えたムーブメントが威風堂々と収まる姿が、その革新性と審美性を象徴するようだ。
4. カルティエ|ヴァーティゴ マグネティッククロック
独創的な発想と遊び心を匠の技で形にしたクロック
キャリバー内にマグネットを搭載することで、まるで魔法のように動く。17世紀に存在していたというそんなクロックに想像力を掻き立てられたカルティエは、1920年代後半にその仕組みを利用して独自の「マグネティック クロック」を発表。以降、現在にいたるまで非常に少量ではあるが製造し続けている。
本作は2017年に作られたもの。磁気を帯びたディスクを駆動させるムーブメントが水盤先端に隠されており、数字が刻まれた水盤の縁を周回するマグネットの小像が時間を示す。さらに、キネティックアートから着想を得たモチーフを精巧な象嵌(ぞうがん)細工で表現し、“錯視”を引き起こす遊び心まで演出されているのだ。
5. ルイ・ヴィトン|タンブール デュアル·タイム テーブルクロック トランク
ただ眺めているだけで、心は彼の地を巡る旅へ出る
1854年の創業以来、旅と向き合い続けてきたルイ・ヴィトンの伝統と高度な時計製造技術が融合するテーブルクロック。文字盤のデザインは腕時計「タンブール ムーン デュアル・タイム」を踏襲し、24時間表示とGMT針による第二時間帯表示機能を搭載している。
そしてメゾンのアイコンでもあるモノグラム・キャンバス製のケースはトランクを思わせ、まさに旅情を掻き立てる仕上がり。なお時計は取りだして単独での使用も可能だ。
6. エルウィン・サトラー|トロヤ20
愛用の腕時計を収納できる、美しきジャーマンクロック
スイスに次ぐ時計大国・ドイツでも数少ないクロック専門のマニュファクチュール、エルウィン・サトラー。そんな老舗が手がけたプレジションクロック。本体中心には28日巻きレギュレーター文字盤を据え、本体サイドには指紋認証システムでせり出すウォッチワインダーを備える。愛用の腕時計を20本まで収納できるワインダーは、時計の種類によって回転数や作動時間を個別にプログラム可能。クロック下部には電子ロック金庫も備える。
7. デコール セイコー|AZ524A
エメラルド色に輝く波のなかで、精緻なムーブメントが鼓動する
日本芸術院会員の金工作家、宮田亮平氏の鋳造作品「シュプリンゲン」とデコール セイコーによるコラボクロック。大海原を翔ける躍動感溢れる2頭のイルカをモチーフにした鋳造フレームは、原型制作から彩色、蒔絵技法を用いた箔蒔きによる加飾仕上げまで、すべて宮田氏の手作業だ。その中に、セイコー独自の精緻な輪列が美しく鼓動するクオーツムーブメントが収められている。宮田氏本人直筆のサイン入りで、愛好家垂涎の工芸作品。
8. レペ|タイムファスト Ⅱ
旺盛な好奇心を呼び覚ます、ヴィンテージカー型クロック
スイスクロックの名門、レペのヴィンテージのレーシングカーに着想を得た人気コレクション「タイムファスト」。最新作は1960年代の官能的なデザインが魅力の2シータータイプで、時刻表示と機械操作を担うふたつのムーブメントを搭載。時分表示はエンジン上部のデュアルキャブレーターのフィルターに取りつけられたディスクが行い、ダッシュボードのキーを回すとエンジンが始動してピストンが上下する。まさに興奮の瞬間である。