連載「ヴィンテージウォッチ再考」の第9回は、LIPの傑作として名高い「マッハ2000」を紹介する。
傑作手巻きムーブメントを搭載する「マッハ2000」のオリジナルバージョン
1969年にセイコーのクォーツ式腕時計「アストロン」の登場により、'70年代の時計業界は混迷の時代に突入するのだが、その一方でユニークなデザインが数多く生まれている。
フランスの老舗時計ブランドLIPが'73年に発売した「マッハ2000」は、名高いヨーロッパ特急「TGV」の車両デザインなどを手掛けたフランスを代表するインダストリアルデザイナーであるロジェ・タロンによる作品。ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに収蔵されており、アラン・シルベスタインをはじめ、後続のデザイナーに多大な影響を与えた。
ひと目でそれと分かる左右非対称のデザイン、右側に取り付けられた球体のボタン、薄手のラバーストラップなどは、人間工学や流体力学に基づくもので、目を楽しませてくれることはもちろん、優れた実用性を備えている。これらはすべて、「2000年になっても色褪せないデザイン」というデザインコンセプトに準拠している。
現在販売されている復刻モデルではロンダ社製のクォーツムーブメントを使用しているが、'70年代当時のオリジナルはバルジュー社の手巻きムーブメントCal.7734をベースにしたCal.R873を搭載した機械式時計であり、ヴィンテージウォッチの市場で探すことができる。
復刻モデルとのもうひとつの大きな違いは、3つのボタンがイエロー、ブルー、レッドの3色ではなく、ブラックで統一されている点にある。この個体に関しては、未使用のラバーストラップが付属されていることも特筆に値する。劣化しやすいパーツであることからも完璧な状態で保存されているケースは非常に稀である。
指し色のイエローが映えるフルオリジナルの「マッハ2000」の希少性はかなり高い。良質な個体との出合いは喜びや感動をもたらしてくれるだろう。
問い合わせ
江口洋品店・江口時計店 TEL:0422-27-2900
■連載「ヴィンテージウォッチ再考」とは……
インターネットやSNSの普及からあらゆる時代の時計が簡単に入手できるようになった。そうはいったところで、パーツの整合性や真贋の問題が問われるヴィンテージウォッチの品定めは一筋縄ではいかない。本連載では、ヴィンテージの魅力を再考しながら、さまざまな角度から評価すべきポイントを解説していく。