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2022.04.10

コレクターの熱量が感じられる貴重なスウォッチのコレクション──連載「オークションから読む高級時計の行方」Vol.4

新興の富裕層を巻き込み、かつてない白熱した落札が繰り広げられる時計オークション。この連載では、ジャンルは一切問わず、高級時計のトレンドを占う注目の時計をフォーカスする。第4回は、バラエティに富むスウォッチのコレクションを取り上げる。【連載 オークションから読む高級時計の行方】

連載「オークションから読む高級時計の行方」

時計収集の本質、醍醐味が伝わるユニークなコレクション

時計オークション史上、非常に珍しい事例として挙がるコレクションがある。

2015年4月、サザビーズ主催による香港の時計オークションで出品された5800本以上にも及ぶスウォッチのコレクションは、オーナーのポール・ダンケルが25年以上かけて収集したもので世界最大級のコレクションとして評価を受けた。スウォッチとアートアドバイザーの全面的な協力もあって、会場の展示はまるでミュージアムのようなクオリティの高さを披露した。

予想落札額は1000万-1500万香港ドル(約1億5000万円-2億2500万円)であったが、落札価格は4670万香港ドル(約7億円)と、話題性に負けず劣らずの高額コレクションとして世間を賑わせた。

連載「オークションから読む高級時計の行方」

過去最大級のコレクションとして出品されたスウォッチの一部。©️Sotheby’s

ここで近代の腕時計を語るうえでなくてはならない存在である、スウォッチというブランドの歴史に触れておきたいと思う。

1969年、セイコーアストロンの誕生をきっかけに始まったクオーツの普及により、これによってスイス時計産業は壊滅的な打撃を受け、多くのメーカーが存亡の危機に立たされた。SMGグループ(現スウォッチ グループ)のニコラス・G・ハイエックは、日本製クオーツウォッチに対抗すべく1983年にスウォッチを立ち上げた。

ブランド名の由来でもある「セカンドウォッチ」というコンセプトから生まれる大量生産を前提にした新しい時代の腕時計は、樹脂製のケースを用いた自由度の高いウォッチメイキングが人々の心を鷲掴みにした。今日スウォッチ グループが18もの時計ブランドを擁する時計業界最大のコングロマリットとして君臨していることからも、スウォッチがもたらした革新と成功の足跡は偉大だと言うほかない。

スウォッチの他にはない魅力として挙がるのが、ポップアートのような大衆性にある。大量生産を前提にした設計と手に届きやすい価格設定、そして目を楽しませてくれるスタイリングは、腕時計の認知度の向上に対して大きな貢献を果たしている。

巧みなマーケティング戦略も然りだ。ファッションのようにシーズンごとに発表される新作、コレクタブルな限定モデルはその時々の流行を敏感にキャッチする。先日発売されたオメガとのコラボレーションによる「ムーンスウォッチ」は、世界中を熱狂させた話題作として論争の的になっている。

ムーンスウォッチ

それぞれ惑星の名にちなんだモデル名で全11モデルで展開する「ムーンスウォッチ」。こちらの1本は、月をイメージしたその名も「ミッション トゥ ザ ムーン」。

直近のロットに話題を戻そう。2022年1月にサザビーズ・香港の時計オークションに出品された全79本のスウォッチのコレクションは、貴重なプロトタイプや限定モデルを含む、1987年から2000年頃にかけてのアイテムが揃っており、3万240香港ドル(約44万4500円)で落札された。ちなみにこのロットに関しては、最低落札価格の設定がなく、1香港ドルから入札が可能であった。

ゴールデン ジェリー

1990年に発売された「ゴールデン ジェリー」などのマニア垂涎の限定モデルが並ぶ。©️Sotheby’s

79本もの貴重なコレクション

79本もの貴重なコレクションは大変見応えがある。©️Sotheby’s

時計に限らず、オークションの落札価格をはじめ、セカンダリーマーケットでの価格設定とは、需要と供給のバランスから決定されるもので、これが市場における相対的な評価のひとつであることに異論を挟む余地はない。その一方で、もちろん価格だけでは計りきれない要素がある。それはつまり、プロダクトが持つクオリティやコレクションに対するオーナーの想いである。

巷では高級時計への投資の話題が盛んであるが、本当に欲しいと思う時計を買い続けてきたコレクターの熱量が伝わるコレクションは見応えがあり、時計収集に正解がないことを教えてくれる。

 

【連載 オークションから読む高級時計の行方】

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オークションから読む高級時計の行方

インターネットやSNSの普及からあらゆる時代の時計が簡単に入手できるようになった。そうはいったところで、パーツの整合性や真贋の問題が問われるヴィンテージウォッチの品定めは一筋縄ではいかない。本連載では、ヴィンテージの魅力を再考しながら、さまざまな角度から評価すべきポイントを解説していく。

TEXT=戸叶庸之

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