約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

“今までにないもの”は出てこない
AIで生成したものをマネタイズできるのか。その疑問からスタートして、エッセイ、小説、漫画、アニメーションとさまざまなものをつくっている。つくるだけなら、実写AI映像でもなんでもできるようになってきた。
もちろん、音楽生成にも挑戦している。AIに生成させると80点ぐらいの楽曲をつくってきて、クオリティは非常に高い。でも、今まで聞いたことがないようなアレンジやサウンドというのはまったく出てこない。自分で聞くためだったらそれでじゅうぶんだけど、僕たちは100点とか120点の曲を必要としている。そういう目線からすると、今の音楽生成AIだけでは楽曲制作はまだまだ成立しない。
80点でいいのであれば、本当に簡単。あまりに簡単にできすぎて確認の方が追いつかない。人の作曲家が音楽をつくる場合は、途方もない時間と途方もないエネルギーが必要になる。でも、評価のための確認は5分で終わる。それが音楽制作の厳しさでもある。
ところが、AIは3分あったら2、3曲はつくってくる。なぜか、僕のAIは一度に2曲をつくってくる。どっちがいいか選んでくれということなんだけど、評価するのに5分+5分で10分かかる。その間にまた何曲かつくってくる。聴いてない曲が溜まってしまって、最後にはどれがどの曲かわからなくなってしまう。
ある作曲家に、生成AIでつくった楽曲を渡して、これをよくしてほしいと頼んだことがある。AIの80点の曲を人間が100点にできないかを試したかった。ま、僕もちゃんと説明せずにただ渡したのがいけなかったんだけど、その人から「この程度でいいんだったら、僕がイチからつくりますよ」と言われてしまった。多くの作曲家が3年ほど前から「AIにはもうかなわない」と言い出しているから、AIに対する対抗心のようなものもあったのかもしれない。
小説をつくらせてみて、あまりうまくいかなくてボツにした時も感じたけど、AIはすでにある素材を使ってそれを再構成することには非常に高い性能を示してくれるけど、空想とかフィクションとか、今までにないものを生み出せというと、なかなか面白いものができない。音楽も、過去にどこかの誰かがつくった要素を組み合わせることが中心になっているのだと思う。
AIには超えられない人間の良さもある。アナログの良さとも言えるけど、ジャズのトリオがどこかのライブハウスで演奏したライブ盤音源がたくさんある。それを聴いていると、ベースマンの指が弦を擦る音とか客席の咳払いとかが入っている。これはノイズでもあるんだけど、音楽の一部になっていて、それがある方がカッコよく感じる。
“予期せぬこと”も生成できるのか?
生成AIはこれをシミュレートして入れることはできるけど、わざわざ入れている感が出てしまうと思う。予期せぬことが起きないとライブって面白くない。その予期せぬことまでAIが生成できるのかどうか。理論的なことはわからないけど、そこまでやるんだったら、人間のライブ音源を聴いた方がいいということになる。AIって真似はできるけど、オリジナルは生み出せないのではないかと思う。
アナログ音源は、ノイズも入っているし、プレイヤーの演奏が揺らぐ。同じ曲でも、演奏している場所、時間によってまったく違った印象にもなる。そこに味わいがある。AIはそれを真似ることはできるかもしれないけど、味にはならない。
ただ、AI音楽はマネタイズの道がすでにある。音楽をつくってSpotifyのような配信サービスにあげればいいだけだから。たぶん、1日に何百曲も生成して公開している人は、世界中にたくさんいると思う。もちろん、そのほとんどが見向きもされずに消えていっていると思うけど。
でも、何があたるかはわからない。100人分ぐらいアーティスト名をつくって、100通りの音楽をどんどん生成して公開して、リスナーの耳にひっかかったやつのバリエーションをどんどん展開していくというやり方はありだし、もうやっている人が必ずいるはず。
音楽に関して生成AIは、作曲家がヒントを得るために使うことはあっても、まるまる1曲を生成してそれがヒット曲になるというまでの水準には達していないと思う。まだまだ課題は多い。でも、これは今、現時点の話で、1ヶ月後はわからないからね。AIの進化はほんとうに速くて、何が起こるのかまったく予測がつかない。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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