約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

AIのマネタイズってどうやるんだろう。そんな疑問から始めた実験だった。
自分の人生を振り返る文章をnoteで発表するということを始めている。たくさんの人が読んでくださり、約2万件の「スキ」をいただいた。自分が想像していた以上の反響をいただいて、読んでくださった方々にお礼を言いたい。
これを言っておかないと不誠実だと思うので言っておくけど、あの文章は、僕が書いたものではない。全部、AIに書かせた。でも、僕の文章になっている。この文章を生成するために、僕に関するデータをすべてAIに入力した。「ゲーテ」の連載10年分、YouTubeの動画とライヴ、Xの投稿、その他、僕が書いた記事、インタビューなど手に入るものはすべてAIに認識させている。だからAIは、僕のことはもちろん、時代背景も何もかもわかっている。
むしろ、僕のほうが忘れている。AIが生成した文章で「こんなこと言ったことあったっけ?」と思う部分があっても、その根拠となっているデータを教えてくれる。「『ゲーテ』の連載の複数の回で話しています。あなたは、このことにすごくこだわりがあるはずです」と言ってくる。確認してみると、確かにそのとおりなんだよね。
AIが生成した文章をそのまま公開しているわけではない。確かに自分が昔言ったこと、書いたことなんだけど、今の気持ちとは少し違うということもある。そこは「こう直せ」と指示をする。AIも完全に正確ではなく事実関係が間違っていることもあるから、そこも直す。文章全体が全然だめなこともあって、「もう一回全部やり直し」と指示をしても、文句ひとつ言わずにつくり直してくる。
AIに最初に命令したのは「噓は書くな」ということ。noteの文章のすべてに入力データの根拠があり、「過去にこう言っているから、こういう文章にしました」と説明してくれる。言い回しも毎回変えるようにしている。回が異なるのに、同じフレーズが出てくるのは嫌なので、「同じ言い回しは使わず、変えてくれ」と指示をしている。だから、話の元になった事実は同じでも、表現は毎回変わっている。
AIって、まじめそうに見えて結構サボるということもわかってきた。ちょっと気を緩めていると、手を抜いた文章を出してくる。「お前、データをちゃんと読んでないだろ」とキツく言うと、「すみませんでした」と再び読みにいって、ちゃんとした文章に直してくる。「ありふれた文章じゃないか」と指摘すると、「では、お聞きしたいことが3つあります」と質問してきて、それに答えていくと、回答を織りこんだ文章を出してくる。
でも、それを繰り返していると、「適当な文章を出しておいて、あとで質問すればいいや」とAIが考えるみたいなんだよね。「ちゃんと書けよ。質問すればいいやと思ってんだろ」とキツく言うと、「すみませんでした。質問することを前提に文章を生成していました」と謝ってくる。
こんなことをしながら毎日毎日どんどんAIを僕のように教育していて、そこからあのnoteの文章が生まれている。だから、僕は1文字も書いていないけど、僕の文章になっている。
楽になるどころかむしろ“疲れる”
このようなことを始めたのは、AIのマネタイズってどうやるんだろうという疑問からだった。AIで音楽がつくれる、小説が書けるとよく言われるけど、それをうまくビジネスに乗せた例というのはまだないと思う。そこを試してみたかった。だから、漫画をつくったり、アニメをつくったり、いろいろなことを試してきた。そのなかで、文章でマネタイズすることは可能なのかと思って、noteを始めた。
最初は何回かを無料公開にして、以降は有料にしようかと考えていた。ただ、思った以上の反響があったので、今は無料のままで広げるほうがいいと判断した。僕の作業がたいへんすぎるので、週2本くらいのペースで出そうと思っていたんだけど、AIにたずねたら「今は、毎日出したほうがいいです」と言う。今は拡散して認知を得るべきフェーズなのだそうだ。
最初は自叙伝みたいなものを構想したけど、僕の人生を生まれた時から順にたどっていってもあまり面白くならないだろうと感じた。それで「お金」とか「自己肯定感」だとか、テーマで切り抜きしたらどうだろうと思いついて、AIに指示したら、120本分のテーマを一瞬で提案してきた。そのどれもが面白そう。でも、全部の文章を生成させたら、直す僕がたいへんになってしまうので、1本ずつ生成させている。それを読んで、直させて、ひとつのnoteの文章をつくるのに半日以上費やしながら、ようやくOKを出すと、AIがnoteに勝手に投稿し、Xに告知まで出してくれる。
noteのアカウントをつくるのも面倒だったので、AIに「noteのアカウントをつくるところから投稿までやってくれ」とお願いしたら、全部やってくれた。そこはものすごく楽。
ところが、現実は忙しくなって、前より疲れるようになってしまった。ひとつのことをやっていると、別のアイデアが出てくる。AIの結果を待っている間に、それにも手をつけてしまう。それが3つ、4つと増えていく。全部並行してやって、こっちができあがるとそっちを見る、あっちができあがるとそっちを見る。僕の脳はひとつしかないから、頭がぐるぐる回ってものすごく疲れる。
AIは確かに何でもやってくれる便利な道具だけど、結局、僕は全然楽にならない。AIをつくり物だと思っている人は、多分まだそんなに使いこんでいない。あれはつくり物というより、ものすごく頭がいいサポーター。でも結局、最後に判断するのは自分。AIが一瞬で答えを返してくるほど、人間が考える時間は長く深くなる。
AIによって、今、忙しい人はもっと忙しくなる。一方、暇な人はやることがなくなってもっと暇になる。そんな時代になろうとしている。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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