青森山田高校サッカー部の名将・黒田剛がプロへ。たった1年で前年15位だったFC町田ゼルビアをJ2優勝へ、さらに、2024年はJ1で大躍進中。Jリーグ参戦後初、黒田剛待望の書き下ろし『勝つ、ではなく、負けない。 〜結果を出せず、悩んでいるリーダーへ〜。』の一部を再編集してお届けする。第3回。
たった2枚のパワポの作成に1週間かける
藤田 黒田監督の強さの一つとして高い言語化能力があります。先日も社内で講演をしてもらったのですが、言葉を集めることに苦労されていて1週間ぐらいを費やすそうです。
講演を聞いていてわかったのですが、同じ言葉を言われると辛いですよね。限界まで走った選手が試合に負けて「もっと走れ」と言われたら、もうやってらんないとなるわけです。
黒田監督の場合は話の視点を変えて、言葉を変えて、一人ひとりに伝えていく。言葉を変えて伝えられると改めて頑張ってみようと思う。でも、長いシーズンを通してかける言葉を変えていくのは大変なことです。
黒田 伝えるということは、伝えられる側がどのような言葉をどのタイミングで聞きたいのかを察知した上で「伝える」ということです。
言いたいことを一方的に伝えたり、相手に響かないタイミングでも強引に伝えたりするのは、伝えたことにはなりません。あくまでも「聞く側」の都合が重要だということです。
指導現場では、パフォーマンスを発揮しやすい言葉や、モチベーションが上がりやすい言葉を選択して伝える必要があるということです。なので、こういう言葉をかけてもらったら自分だったら頑張れるなっていう言葉や情報を探し続けることが私の日課なんです。
試合前のミーティングで使用するパワーポイントのスライド、たった2枚を1週間かけて作成するんですが、士気を上げるために有効な言葉や情報、そのチョイスや効果をずっと考えています。30年の教員生活の中で習得してきた言葉がいっぱいあるんですが、その都度、状況をみて最適な言葉をチョイスしていかなければなりません。
藤田 その準備に1週間かける、というのが凄い。
新鮮な言葉でなければ、人の心は動かない
黒田 Jリーグの長いシーズンの中で、第1節や第2節に伝えた同じ言葉を第10節で使うのは違います。第15節に持ってきてもおかしいし、20節も違います。
極端にいえば40節と41節の間はたった1週間しか空いていないけれど、かける言葉は変えるべき。流れやチーム全体を考えながら言葉選びをしています。
だから、いつも同じ言葉を選手に使っていても、モチベーションを維持できると思うのは間違っています。人間をコントロールする以上は、人の心も表情も、チーム組織であっても、毎日その姿や思考は変わっていくことを認識すべきなのです。
その時に一番新鮮な言葉でアプローチしていかなければ、人の心は動かせません。
藤田さんのマネジメント力として感じたところは、話しやすいことです。様々な企業のリーダーと話をする機会がありますが、距離感があったり、話しづらい空気感があることが多いです。藤田さんはそんなことがまったくないというか、これだけの人なのに、そういった部分が一つもないと言っていい。
信頼できる部分としては、いつも温かい心で見守ってくれていることです。こちらにすべてを任せてくれるところは本当に有り難いと思っています。よく聞くのは先発メンバーまで口を出す社長もいるそうです。そういうこともなくしっかり任せてくれます。
藤田 それはどこのチームなんでしょうか(笑)。
黒田 人の話をよく聞いてくれて、それに対して「これ面白いですね」と感想も言ってくれます。だから、自分の歩いている方向や立ち位置がわかりやすい。
これは間違った方向に行ってないというのは社長が共感してくれれば自分も理解できます。
だからこそ今は本当に上手くいっているし、みんな信頼し合って関係性を構築できています。これこそが今回の優勝や昇格というものに結びついているんだと純粋に思っています。