アスリート、文化人、経営者など各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第7弾が、2024年5月15日、16日の2日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、プロブレイクダンサーのShigekix(半井重幸)さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2024年5月20日〜5月31日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より。
世界規模のスケールで物事を見る
7歳の時に、4歳年上の姉の影響でブレイキンの世界に入りました。姉がダンサーで、彼女が出る練習や大会についていったのがきっかけです。姉はもちろん、姉の先輩ダンサーがカッコよくて。父親に「僕もやりたい」とお願いして、見よう見まねでブレイキンを始めました。
今にして思えば、両親がなんであんなに背中を押してくれたのか、不思議です。今はブレイキンがオリンピックの種目にも採用され、アスリートと呼ばれるようになりましたが、当時は完全に「遊び」の世界。でも、両親は夢中になれることを見つけた僕を、とても喜んでくれて。母親は「世界にもっと目を向けなさい」とか、「世界規模のスケールで物事を見なさい」とよく言っていた。母の言葉は今も僕のバイブル。だから海外にも躊躇することなく、ワクワク感をもって飛び込むことができました。
初めての海外参戦は10歳の時。アメリカ・ラスベガスで行われた全米大会に、姉と一緒に出場しました。エキシビジョンマッチでアメリカのダンサーと対戦。彼は同世代なのに、体が大きい。小柄な僕は体格をビハインドに感じましたが、逆に体の小さな子どもが大人びたダンスを披露するギャップに観客が喜んでくれた。「ビハインドも魅力になるんだ」と悟った瞬間です。
それから、出場する大会は優勝続き。2018年開催のブエノスアイレスユースオリンピック出場権をかけた選考レースでも金メダルが続き、周囲から「オリンピックでも優勝できないわけがない」と言われていたんです。
いいことも悪いことも、すべてが学び
でも、ユースオリンピック本番では銅メダルという結果。何かを生み出さないといけないという焦りが先に立ち、納得のいくパフォーマンスができませんでした。16歳の少年にとって「勝って当たり前」という状況は相当なプレッシャー。当時はそのプレッシャーをエネルギーに替える変換の仕方がわからなかったんです。
試合の当日、プレッシャーを受けながらも自分らしくいるためには、もっと経験と知識を積まなければならない。そこで、いったん慣れた場所を離れ、新しい環境で厳しい指導を受けようと決意。高校卒業と同時に、拠点を大阪から東京へ移しました。
その途端、思いもかけないことが起こった。東京で一人暮らしを始めた一週間後に、コロナ禍による緊急事態宣言です。外出できず、練習に通えない。でも、少しでも上達したい。家に閉じこもっているからエネルギーはあり余っている。コンディションの維持だけでもしたいと自分の部屋で踊ったら、壁に穴を空けてしまった。
2021年の秋には、左手の薬指を骨折。前年に優勝を果たし2連覇がかかった世界最高峰のブレイキンバトル「Red Bull BC One world final」の1か月前。フィジカルのダメージもありましたが、練習不足からくる精神的ダメージがキツかった。結果はトップ8で敗退。再び現れた壁に、もっと進化しなければならないなと感じましたね。
昨年10月のアジア大会で優勝し、パリオリンピック出場権を獲得しました。今は、挑戦者の気持ち。勝って当たり前だったユース時代とは真逆で、日々学び続けています。これからも、いいこともあるが、悪いこともあるはず。そのすべてを学びにつなげていきたい。しっかりと進化を遂げて、パリではネクストレベルの集大成を見せたいですね。
▶︎▶︎Shigekixさんの講義全文を動画でチェック。
2024年5月20日〜5月31日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より。※アーカイブ視聴申し込みは5月31日18時まで
Shigekix(半井重幸)/Shigeyuki Nakarai
7歳でブレイキンを始め11歳で世界の大会に挑戦を始める。2020年Red Bull BC One World Finalにて最年少で優勝し世界一の称号を手に入れた。2020,2022,2023年とJDSF全日本ブレイキン選手権で3連覇。アジア競技会にて優勝しパリ五輪出場を内定させる。これまでに47回国際大会での優勝経験を誇り、2024年パリ五輪ではもっとも活躍が期待される1人である。